焦点:新たな中国軍最高機関、「対台湾」で結束とスピード発揮か

焦点:新たな中国軍最高機関、「対台湾」で結束とスピード発揮か
 10月27日、 中国共産党トップの総書記に再任された習近平氏の下で陣容を新たにした軍の最高指導機関のメンバーは、いずれも習氏への忠誠心が選ばれた第一の理由かもしれない。写真は中国の人民革命軍博物館のモニターに映し出された習氏。8日撮影(2022年 ロイター/Florence Lo)
[香港 27日 ロイター] - 中国共産党トップの総書記に再任された習近平氏の下で陣容を新たにした軍の最高指導機関のメンバーは、いずれも習氏への忠誠心が選ばれた第一の理由かもしれない。そうした関係性は、台湾侵攻を計画する場合に軍事上の重要な目的の1つをかなえるのに役立つ。一糸乱れぬ結束力と、強い決断力の確保だ。
実際に台湾に侵攻する場合、最終的な決定を下すのは共産党最高指導部の政治局常務委員会だが、戦闘計画の策定と実行は軍最高指導機関の中央軍事委員会に委ねられる、とアジアや西側の中国駐在武官は説明する。
23日に中央軍事委員会に新たな3人のメンバーが選出されたのに先立ち、習氏は共産党大会の政治報告で、台湾に対する「武力行使の放棄は決して約束しない」と発言した。
4人の安全保障専門家と4人の駐在武官は、ロシアがウクライナで「泥沼」に陥っている状況を挙げ、中国が台湾侵攻を計画する場合、台湾軍や国際社会の支援の機先を制するという意味からも、侵攻の準備と実行を迅速化することがいかに大事か証明されたと述べた。
シンガポールを拠点とする戦略アドバイザーのアレクサンダー・ニール氏は「習氏が台湾侵攻の引き金を引こうとするなら、中央軍事委員会からの反対意見を聞いている余裕はない。優位に立ちたければ素早く、電撃的に行動しなければならず、ためらう余地はない。これが台湾について中国側が常に考えていることだ。ウクライナの事態で、補給態勢の構築が遅れて身動きできなくなるのを避ける必要性が確かめられた」と指摘する。
これまで軍に対する党の支配強化を進めてきた習氏は今回、中央軍事委員会に3人の新メンバーを送り込むとともに、軍の中で最も信頼する張又侠上将を制服組トップの副主席に留任させ、一段と自身の影響力を増大させた。張又侠氏は72歳で、これまでの中央軍事委員会の慣例ならば引退する年齢だった。
シンガポールのラジャトナム国際研究院で軍事を研究しているジェームズ・チャー氏は「習氏による前例を破った(張又侠氏留任という)人事は同時に2つのメリットを実現するためだった」と語り、これで作戦指揮に精通し、かつ政治的に信頼できる人物を制服組トップに据えたままにしておけると説明した。
張又侠氏は、米国防総省が昨年公表した中国軍の近代化に関する報告書で人民解放軍の「小君主」と表現したほど、強大な権力を持つ。張氏と習氏は、父親同士が1949年の国共内戦で戦友だったという縁がある。
張又侠氏子飼いの1人である李尚福上将も今回、中央軍事委員会メンバーに昇格した。重要なのは李氏が、電子戦やサイバー戦、宇宙戦を担う戦略支援部隊の所属経験がある点だ。
中央軍事委員会で張又侠氏に次ぐ地位には、台湾を作戦区域に含む東部戦区の前司令官だった何衛東上将が就く。今年8月、ペロシ米下院議長の台湾訪問に反発して中国が台湾海峡付近で実施した空前の規模の軍事演習を統括したのが何衛東氏だった。
何衛東氏は、習氏が福建省の幹部だった時代に同省にある第31集団軍に所属していたことで関係が深くなったのは良く知られている。張又侠氏と同じく中央軍事委員会のメンバーに留任した政治工作部主任の苗華・海軍上将も同じような経歴を持つ。
今回は国内治安を担当する人民武装警察出身で58歳の劉振立氏も中央軍事委員会に加わり、メンバーの年齢には一世代分の広がりができている。同氏は張又侠氏とともに、1980年代後半に断続的な中越国境紛争で実戦を経験した。
ただ、あるアジアの中国駐在武官は、近年の人民解放軍が進化を遂げているとしても、現在の戦争の経験がない点は明白だと指摘。「あらゆる演習やパレードもその代わりにはなり得ない。彼ら自身にとっても、外部から注目しているわれわれにとっても、果たして人民解放軍が戦争を遂行できるのかというはっきりした疑問が存在する」と述べた。
(Greg Torode記者)

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