ユーチューブ、新疆の人権問題動画を凍結 行方不明者の証言など

ユーチューブ、新疆の人権問題動画凍結 行方不明者の証言映像など
6月25日、中国の新疆ウイグル自治区で家族の行方が分からなくなったと証言する米IT大手グーグル傘下「ユーチューブ」の数多くの動画が、投稿主の人権団体の手で知名度の低い別の投稿サイト「オデッシー」にバックアップで移されつつある。新疆ウイグル自治区霍城県で2018年9月撮影(2021年 ロイター/Thomas Peter)
[25日 ロイター] - 中国の新疆ウイグル自治区で家族の行方が分からなくなったと証言する米IT大手グーグル傘下「ユーチューブ」上の数多くの動画が、投稿主の人権団体の手で知名度の低い別の投稿サイト「オデッシー」にバックアップで移されつつある。ユーチューブが一部投稿を削除したためという。消息筋2人がロイターに語った。
人権団体は「Atajurtカザフ」。新疆での人権侵害に関心を呼ぼうする努力が「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」などの国際組織から評価されているが、2017年創設以来、カザフスタン当局からたびたび弾圧を受けている。
ロイターは、ユーチューブ上のチャンネルの共同創設者である新疆生まれのカザフの活動家と電話で話した。自身も当局から何度も検挙されてきたという同氏によると、5年前にはカザフ当局者から、新疆の状況の説明に「ジェノサイド」の言葉を使わないように命じられた。同氏は、これが中国政府からカザフ政府に圧力がかかった結果だと受け止めている。同氏は投稿動画について「事実以外の何物でもない。証言している人々は愛する家族のことを語っているだけだ」と話した。
当該のユーチューブのチャンネルは17年以来、動画1万1000本近くを投稿し、再生回数は計1億2000万回を超えた。家族や親戚が新疆で連絡が取れなくなり行方不明になったとカメラに語り掛ける映像だ。国連の専門家や人権団体は新疆で近年、100万人超が拘束・収容されたと推計している。
ロイターが確認したスクリーンショットによると、チャンネルは6月15日、ユーチューブの指針に違反しているとして凍結された。動画12本について、「ネット上のいじめや嫌がらせ」を禁じる個人情報開示の規約に反していると「報告」があったのがきっかけとみられる。
ロイターが凍結理由を問い合わせると、ユーチューブは18日にチャンネルを復活した。行方不明者との関係を示す身分証明(ID)カードを掲げた人々が映っていることについて、身元を識別できる個人情報の表示を禁じる規約に違反しているとの警告が、一定回数を超えて寄せられたためだと説明した。
ユーチューブはAtajurtにIDの画像をぼかすよう要求した。しかしチャンネルの管理人によると、Atajurtは動画の信憑性が損なわれることを懸念して、要求は受け入れなかった。さらに再度の凍結を警戒し、コンテンツをオデッシーでバックアップすることを決めたという。オデッシーはブロックチェーン(BC)技術で構築され、管理にクリエーターがもっと関与できるように設計されている。これまでに975本がバックアップで移されたという。
一方で、チャンネルの管理人はユーチューブから別の複数の自動メッセージを受け取った。今度は、暴力的な犯罪組織を宣伝している可能性があるとの懸念があるため、問題の動画は閲覧できなくなったという内容だった。前述の新疆生まれのカザフの活動家はロイターに、「毎日、新たな理由が出てくる。ユーチューブは絶対信用できない」と語った。
この活動家は昨年、Atajurtの仕事をやめるのを拒否してカザフ当局から脅迫を繰り返し受けるようになったため、トルコに脱出している。カザフではハードディスクや携帯電話などが何度も押収されたため、集めた動画をそっくり保存する場所はユーチューブしかなかったのだという。
Atajurtの代表らは、新疆での人権侵害を否定するカザフの親中国グループが削除要請のためのユーチューブの報告機能を使って、規約違反の報告を一斉に送信し、これがチャンネルの自動凍結につながったのではないかと案じている。
ユーチューブは近年、ネット上のいじめや誤情報やヘイトスピーチについて監視を強めるため、コンテンツへの規制を増やしている。ユーチューブの指針は個人情報の開示については、名前や住所といった個人情報で公的な情報でないものを投稿し、誹謗中傷にさらすことを禁じる。ユーチューブによると、教育やドキュメンタリー、科学的な内容の動画で例外を設けることはあるが、Atajurtの動画はその基準にはそぐわなかったとしている。
オデッシーはロイターに対し、Atajurtを歓迎し支援すると述べた。ただAtajurtはこれからも可能な限りずっと、ユーチューブへの投稿を続けていく方針という。ユーチューブの視聴者が膨大なことの重要性を指摘し、「自分たちから削除することは絶対にしない」としている。
ユーチューブに対してはHRWもAtajurtの凍結について注意喚起したと24日、報じられている。

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