焦点:「死因はコロナ」と書けない中国の医師、政府が圧力か

焦点:「死因はコロナ」と書けない中国の医師、政府が圧力か
 北京のある医師は、死亡診断書で新型コロナによる呼吸器疾患に触れることを「なるべく避ける」よう求める通知を受け取ったという。写真は河北省の病院の会議室を改造した集中治療室(ICU)でコロナ患者に対応する医療従事者ら。1月11日撮影の提供写真。China Daily via REUTERS(2023年 ロイター)
[北京 17日 ロイター] - 北京で新型コロナウイルス感染症の拡大がピークに達していた頃、私立病院で多忙なシフトに入っていたある医師のもとに、印刷された通知が救急部門から届いた。死亡診断書で新型コロナによる呼吸器疾患に触れることを「なるべく避ける」よう医師らに求める内容だった。
ロイターが閲覧した通知のコピーでは、死亡者に基礎疾患があった場合はそれを主な死因として記載するよう指示されている。
新型コロナ感染に伴う肺炎のほかに死因は認められないと医師が考える場合には、上長に報告しなければならない。新型コロナによる死亡と認定されるまでには、さらに2段階の「専門家への諮問」を経ることになる。
取材した公立病院の6人の医師も、新型コロナを死因とすることを控えるよう口頭で指示を受けたか、勤務先の病院にそうした方針があると認識していたとのことだった。
新型コロナで亡くなった人々の親族からも、死亡診断書に死因として書かれていなかったという証言があった。一部の患者は、呼吸器系の症状で病院に行ったにもかかわらず、新型コロナの検査をされなかったと報告している。
「昨年12月の規制解除以降、死因を新型コロナだと分類することはやめている」と語るのは、上海の大規模な公立病院に勤務する医師だ。「ほとんど全員が新型コロナ陽性だから、分類しても意味がない」
こうした指示に対し、世界的な医療専門家や世界保健機構(WHO)からは批判が噴出している。12月に厳格なゼロコロナ体制を放棄して以来、中国国内ではコロナが猛威を振るっているにもかかわらず、死亡例が極端に過少報告されているという批判だ。
中国当局者は1月14日、新型コロナ対策の大転換以来、6万人のコロナ患者が病院で死亡したと発表した。以前に公表されていた数値に比べ約10倍の数字だが、国際的な専門家が100万人を超えると試算しているのに比べれば大きな開きがある。
別の複数都市の公立病院で働く3人の医師は、新型コロナを死因に記載しないという指示は聞いていないと述べている。
<過少報告の懸念>
3年前に主要都市の武漢で感染が初めて確認されてからというもの、中国は新型コロナに関する透明性を欠いているという強い批判に対し、繰り返し反論してきた。
14日以前には、中国で報告される新型コロナ関連の死者は1日5人以下だった。14日に発表された12月8日以降の新型コロナ関連の死亡者約6万人のうち、新型コロナによる呼吸器疾患を原因とする割合は10%に満たない。国家衛生健康委員会(NHC)医療行政局の焦雅輝局長は14日、残りの9割以上は新型コロナと他の疾病の複合死因だと述べた。
ニュージーランドのオタゴ大学で公衆衛生を研究するマイケル・ベーカー教授は、更新された死亡統計も、中国における感染の広がりを考えれば「控えめに見える」と話している。
ベーカー教授は「たいていの国では、新型コロナに伴う死亡例のほとんどは、他の疾病との複合ではなくウイルス感染が直接の原因だと結論付けている」と指摘する。「対照的に、中国で報告された死亡例は主に(90%が)新型コロナと他の感染症との合併症とされており、これは新型コロナを直接の原因とする死亡例が過少報告されていることを示唆している」
米ニューヨークの外交問題評議会でグローバル医療問題を担当するヤンゾン・ファン上席研究員は、新たなデータが実際の死亡者数を正確に反映しているか不透明であると言明。理由の一端に、病院における死亡例しかカウントされていない点を挙げている。
WHOは16日、中国は新型コロナ感染の急増による影響をより包括的に把握するため、「超過死亡」を監視すべきだと提言した。超過死亡とは、任意の期間における死亡数が過去の平均値に基づく水準に比べてどの程度多いかを示すものだ。
<積極検査は過去のもの>
ロイターでは、最近死亡した親族が新型コロナ陽性と判定されたか、もしくは感染が疑われる症状を示していたにもかかわらず、死亡診断書にはコロナに関する記載がなかったとの証言を7人から得ている。
同様の報告は、ソーシャルメディアにもあふれている。
北京市民のヤオさんは12月末、87歳のおばが新型コロナ陽性と判定され呼吸困難に陥ったため、公立の大病院に送り届けた。だが医師らはコロナの検査結果について尋ねず、感染の疑いを口にすることもなかったという。
「病院は患者でいっぱいだった。80代、90代の人ばかりだ。医師らは忙しくて誰とも話す暇がないようだった」とヤオさんは言う。どの患者も同じように新型コロナと思われる症状が出ているように見えたという。
ヤオさんのおばを含む患者らは、新型コロナ感染に関するものではない入念な検査を受けた上で、肺炎を発症していると告げられた。だが病院からは治療薬が底を突いていると言われたため、帰宅せざるを得なかった。
ヤオさんのおばは10日後に回復した。
国内の複数の都市で公立病院の職員に話を聞いたところ、ゼロコロナ体制では住民の大半について毎日のようにPCR検査が行われていたが、今ではほとんどやめてしまったという。
2人の専門家は取材に対し、病院が患者であふれかえっている時には、検査への注力をやめることがリソースを最大限活用する最善の方法かもしれないと語った。
香港大学の疫学研究者ベン・カウリング氏は、呼吸器系の急性症状を示す患者はほぼすべて新型コロナ陽性だと話す。「抗ウイルス薬は著しく不足しているため、臨床検査を行っても症例管理には大きな差は出ないと考えている」
<「慎重」な対応を指示>
中国東部の都市、浙江省寧波で働くベテランの医師は、死因を新型コロナとするに当たっては「慎重」な対応を指示されているとし、そのように記載する場合には許可が必要になるだろうと話す。
このような「慎重さ」は、他の疾病を死亡診断書に記載する際には求められないと言う。
上海の大病院に勤務する医師は、今回の「波」が始まって以来、平年の同時期に比べ週単位での死亡率が3―4倍高くなっていると話す。
「死亡診断書では、主要な死因を1つ、副次的な死因を2つか3つ記載する。基本的に新型コロナは書かないようにしている」とこの医師は言う。
「病院からの指示は政府から来ているものであり、従う以外に道はない。私は何か決定できるような立場にはない」
(Martin Quin Pollard記者、Engen Tham記者 翻訳:エァクレーレン)

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