焦点:コロナ禍で日本経済40兆円縮小、未曾有の財政赤字

焦点:コロナ禍で日本経済40兆円縮小、未曾有の財政赤字
 7月31日、内閣府が示した経済と財政の見通し「中長期試算」によると、新型コロナウイルスの影響で今年度の経済規模はおよそ40兆円、GDP全体(550兆円)の7.3%縮小する。写真は国会。2016年7月撮影(2020年 ロイター/Toru Hanai)
中川泉
[東京 31日 ロイター] - 内閣府が31日示した経済と財政の見通し「中長期試算」によると、新型コロナウイルスの影響で今年度の経済規模はおよそ40兆円、GDP全体(550兆円)の7.3%縮小する。税収も大幅に減少し、国の一般会計での歳出と税収等との差額は100兆円近くとなりそうだ。当面、潜在成長力は0%前半に落ち込むとみる専門家もおり、先行きの経済規模回復と財政赤字縮小は困難を極めそうだ。
<失われた40兆円、この先の経済財政改善ペースも鈍化>
「コロナ禍により20年度の経済は大幅に縮小する。それが今後の経済にも残存して影響する」──内閣府関係者は31日に公表した「中長期試算」で示した経済と財政の中期的見通しについて、そう指摘している。
試算では、20年度の成長率は4.5%のマイナスとなり、経済規模を表す名目国内総生産(GDP)の水準は前回1月の見通しから約40兆円下方修正された。これは08年度のリーマンショック時の縮小規模21兆円の倍にあたる。落ち込みが大きい分、高い経済成長が実現しても、従来の想定水準に回帰することは容易ではなく、潜在成長率が上がらない中では20年代を通して経済規模の下ぶれが予想される。
影響が直撃するのが安倍政権が掲げるGDP600兆円の目標だ。従来の内閣府見通しでは早ければ23年度、遅くとも24年度にかけて実現が視野に入っていたが、コロナ禍では実質1%の潜在成長率のもとで27年度になってようやく実現できる試算となっている。ただ、最近の成長はインバウンド需要の盛り上がりがけん引役となっていただけに現実的には「600兆円経済の見通しは立たなくなった」(内閣府高官)といった見方もある。安倍首相のレガシーとして実現できるか不透明だ。
民間専門家からは、この先暫くは、1%の潜在成長率の達成もそう簡単ではない、といった見方が浮上している。
野村証券チーフエコノミストの美和卓氏は「企業の資本投下減少を背景に、実質潜在成長率は0%台前半に低下し、それが常態化するだろう。何も手をうたなければ1%成長は達成しにくい」とみている。40兆円の経済規模縮小は、人口減少社会の日本にとって回復への道をより険しくするものとなりそうだ。
<税収不足続き、財政収支改善見込めず>
財政再建も一層遅れ、海外主要国と比較して突出して膨らんでいる債務残高規模も一層の拡大を余儀なくされそうだ。「中長期試算」では、今年度の基礎的財政収支のGDP比は2002年の試算公表以来初めて2桁に乗せ、およそ67.5兆円の赤字を想定している。19年度の赤字幅は14.5兆円で、一気に4.7倍に膨らんだ。債務残高は1147兆円と、GDPの2倍超に達した。
大和総研シニアエコノミストの神田慶司氏は「この先も税収減と歳出増で、財政収支の改善はなかなか難しい」と指摘。今回の試算の見通し範囲である20年代の間に黒字化のメドは立たないとみている。
世界的に感染症の拡大が止まらず、海外でも第2波が到来するという国際機関のシナリオも現実味を増す。政府の経済見通しでは、4、5月を底に経済の早期回復を前提としても今年度は4.5%のマイナス成長、第2波到来シナリオをベースするとマイナス5%シとなる参考値も公表、経済規模縮小はさらに進む可能性がある。
このため、与党内では、再度の感染対策と事業継続支援、さらには景気対策も含めて「大規模な第3次補正予算が必要だ」との声が幹部クラスからも強まっている。感染防止と経済立て直しを優先しつつも財政規律を意識する経済官庁幹部からは「これ以上の大規模歳出増には耳を貸したくない」といった声があがっている。

中川泉 編集:石田仁志

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