アングル:米シェール産業ブーム崩壊、地元民と地方経済を直撃

アングル:米シェール産業ブーム崩壊、地元民と地方経済を直撃
4月22日、米テキサス州南部に住む退職者のポール・ラックマンさんは、兄弟たちと所有する石油鉱床からの収入によって寝室6部屋、浴室7つを備えた別荘を建てた。テキサス州のイーグル・フォード・シェール油田で18日撮影(2020年 ロイター/Jennifer Hiller)
[デウィット郡(米テキサス州) 22日 ロイター] - 米テキサス州南部に住む退職者のポール・ラックマンさんは、兄弟たちと所有する石油鉱床からの収入によって寝室6部屋、浴室7つを備えた別荘を建てた。それでも資金がたっぷり余ったため、一部は同州ヘレナに寄付した。
ヘレナは、西部開拓時代の1800年代にゴーストタウンになった観光名所で、歴史的建造物や往時の決闘を再現するアトラクションなどで観光客誘致に力を入れている。
米国にはラックマンさんのように、所有する土地の石油鉱床から使用量(ロイヤルティー)を得ている地方市民が約1200万人いる。しかしラックマンさんのロイヤルティー収入は、石油価格の暴落によって今年1月以来、70%も減った。「さらに落ち込みそうな気がする」
テキサス、ノースダコタ、オクラホマ各州では、油価暴落により石油掘削・サービス業に就く数万人が職を失い、税収が枯渇し、慈善活動の寄付も途絶えた。
米国はシェールオイル掘削技術のおかげで世界最大のエネルギー産出国にのし上がり、一時は最大で日量1300万バレルを生産していた。2010年から15年にかけて、石油産業は米国内総生産(GDP)を約1%ポイント押し上げた。シェール関連の雇用により、テキサス、ノースダコタ両州の就職率は全米平均の数倍に上昇した。
テキサス州デウィット郡はイーグル・フォード油田の中心にあり、シェールオイル・ブームで所得が急上昇。ブーム最盛期の14年には同州254郡中で所得水準が上位6番目と、10年前の116番目から様変わりしていた。
しかし現在、原油価格は1月の約半分に落ち込み、多くのシェールオイル企業が油井を閉鎖した。
バンク・オブ・アメリカは、米国全体の生産量が今年と来年、日量約200万バレル減少すると推計している。
<郵便箱マネー>
ラックマンさんのように鉱床のある土地を所有している人々には、石油・天然ガス生産に応じて、「郵便箱マネー」と呼ばれる使用料が流れ込む。金額は生産された石油・天然ガスの12.5―25%がほぼ相場。デウィット郡は特にロイヤリティー率が高いが、こうした収入が同地域やほかの全米の産油地域の活性化を助けてきた。
テキサス州南部に鉱床を持つ大学教授のジョン・バエンさんの場合、ここ数年は月に最高10万ドル(約1100万円)を得ていた。しかし今は月6000ドルに減っており、8月には「いくらかでも入ればラッキー」だという。
全米ロイヤルティー所有者協会によると、鉱床所有者に入る使用料は平均では月額約500ドルだが、そうした状態は続きそうもない。
デウィット郡は郡庁舎の改修工事と刑務所の拡張によって抱えた債務を、シェールブームのおかげで返済することができた。石油収入によって子ども用施設の建設費も賄えた。10年前に8%だった同郡の失業率は、今年2月に2.6%まで下がっていた。
デウィット郡のカレン・ジェンセン・ジーロンカさんはシェールブームのおかげで、2015年に新しいレストランのマネジャーになることができた。その後にはシェールオイル産業で働く季節労働者向け宿泊施設「クエロ・オイルフィールド・ロッジング・キャンプ」で経理の職を得た。「ブームが起きたとき、連中は25年は続くと言っていたよ」
しかし、郡の失業率は今年3月に3.5%に上昇。キャンプの管理者タンミ・マークスさんによると、シェール産業の雇用は干上がり、3月末からキャンプはガラガラだ。タンミさんは従業員の大半を解雇した。「ひたすら祈っている」と彼女は言う。
郡の責任者、ダリル・ファウラー氏は、郡内の鉱床資産価値が今年、昨年の53億ドルから半減しかねないと推計している。
ヘレナのゴーストタウンでは、ラックマンさんらが寄付したロイヤルティーによって歴史的建造物が修復された。ラックマンさんのいとこによると、観光協会は観光客向けの展示館や新たな化粧室も整えたい考えだったが、昨今の状況で計画は一部棚上げされているという。
(Jennifer Hiller記者)

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