情報BOX:米大統領はどう選ばれるか、「選挙人団」の仕組み

情報BOX:米大統領はどう選ばれるか、「選挙人団」の仕組み
10月12日、米大統領選の勝者は米国民の直接投票ではなく、選挙人団と呼ばれる制度を通じて決まる。写真は2016年12月、ノースカロライナ州ローリーで、投票証明書に署名する選挙人(2020年 ロイター/Jonathan Drake)
[12日 ロイター] - 米大統領選の勝者は米国民の直接投票ではなく、選挙人団と呼ばれる制度を通じて決まる。人口に応じ、50州と首都ワシントン(コロンビア特別区)に「選挙人票」を割り当てる制度だ。
選挙結果がとりわけ拮抗した場合には、事態打開のために網のように絡まった法律と憲法の条項が発動するため、状況はさらに複雑化する。
共和党のトランプ大統領と民主党のバイデン前副大統領が対決する11月3日の大統領選で、勝者を決する可能性のあるルールの一部を以下にまとめた。
◎選挙人団の仕組み
選挙人票は総数538票なので、勝つには270票を獲得する必要がある。2016年、現大統領のトランプ氏は対抗馬のヒラリー・クリントン氏に一般投票では負けていたが、獲得した選挙人票は304票とクリントン氏の227票を上回った。
技術的には、国民は候補者自体ではなく選挙人に投票する。選挙人は通常、特定の政党支持を表明しているが、一方で、「選挙人選挙」ではその州で最多票を集めた候補者を支持することを誓約している。選挙人団の中で、1選挙人が有するのは1票。
選挙人団は建国の父らの妥協が生み出したものだ。彼らは大統領を議会が決めるべきか、一般投票を通じて国民が直接決めるべきかで激論を闘わせた経緯がある。
2州の例外を除き、全州が「勝者総取り」方式を採用する。すなわち州の一般投票で得票数が最多だった候補者が、その州の選挙人全員の票を得る。メーン州とネブラスカ州だけは、より複雑な地区別の割当制のため、トランプ氏とバイデン氏が選挙人票を分け合う結果もあり得る。両州の選挙人票は合計9票。
◎選挙人の誓約違反はあるか
ある。2016年には、選挙人総数538人のうち7人が、その州の一般投票における最多得票候補ではない候補に投票した。これは異例の多さだ。
32の州と首都ワシントンには、選挙人の誓約違反を抑制するための法律がある。誓約違反の投票に金銭的な制裁を科す州もあれば、その票を無効として選挙人を入れ替えると定める州もある。
◎選挙人票の認証はいつか
連邦法により、選挙人は「12月の第2水曜日の次の月曜日」に各々の州で集まり、票を連邦議会に正式送付することが定められている。今年は12月14日だ。
法律によると、この日より6日前までに州で最終結果が出ていれば、連邦議会はその州の選挙結果は「決着した」と見なすのが普通だ。この期限の期日は「避難港」として知られ、今年は12月8日に当たる。
選挙人票は3週間後に連邦議会で正式に集計手続きを取り、新大統領が1月20日に就任を宣言する。
◎選挙結果を巡り、州当局者の意見が割れた場合
通常は、知事が自州の選挙結果を認証し、連邦議会と情報を共有する。しかし接戦州においては、知事と州議会が別々の選挙結果を提出するという「選挙人名簿の対決」も起こり得る。
州議会を支配する政党が知事の所属政党と異なる場合、こうした事態が起こるリスクは高まる。ミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシンなど激戦州のいくつかは知事が民主党で、州議会を支配するのは共和党だ。
法律専門家によると、こうした場合、連邦議会が州知事の提出した結果を受け入れるべきなのか、あるいはその州の選挙人票の算入を一切やめるべきなのかは明確でない。
◎どの候補も270票に届かない場合
選挙人団制度の一つの欠陥は、269票対269票という結果があり得ることだ。この場合、11月3日の投票で新たに選出される連邦議会下院(定数435)が、1月6日に新大統領選出を決めることになる。合衆国憲法修正第12条により、この場合の投票先は各州ごとの下院議員団がそれぞれ決めると定められている。
現時点で州選出下院議員団の多数派が共和党議員であるのは全米で26州、民主党議員が多数を占めるのは22州。ペンシルベニア州選出の議員団は両党が半々。ミシガン州は民主党7人、共和党6人、無所属が1人。ただし、11月3日の選挙で下院の構成は変わる。
◎選挙制度改革はあり得るか
選挙人団制度は国民の意思を阻害するとの批判もある。2000年の大統領選で、ジョージ・W・ブッシュ(子)元大統領が一般投票の得票数が少なかったのに勝利し、2016年にもトランプ氏が同様の形で勝利を収めたのを受け、現行制度の廃止を求める声は高まっている。
選挙人団は憲法の負託を受けているため、廃止するには憲法の修正が必要。修正には上下両院でそれぞれ3分の2の賛成を得た上で各州が批准するか、州議会の3分の2が申し出た憲法制定会議で決める必要がある。
共和党は00年と16年の選挙で選挙人団制度の恩恵に浴したため、こうした修正を支持する可能性は小さい。
個々の州は、選挙人の選出方法を変える自由をある程度有する。専門家は、憲法を修正せずに制度を改革する案を示している。その1つは、各州が協定を結び、選挙人票をすべて、全米で見た一般投票の勝利候補に投じることで合意するという案だ。

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