コラム:原油市場に中東以上のリスク、急増する中国の石油製品輸出

コラム:原油市場に中東以上のリスク、急増する中国の石油製品輸出
 1月13日、今年の世界の原油市場にとって何よりも大きな「リスク」は何かと問われれば、答えは間違いなく米・イランの軍事衝突の可能性だ。しかし原油市場に「より影響しておかしくない」要因となると、中国の石油製品輸出の急増が最初に来る。写真は中国石油化工集団のガソリン精製施設。2018年8月、天津市で撮影(2020年 ロイター)
Clyde Russell
[ローンセストン(オーストラリア) 13日 ロイター] - 今年の世界の原油市場にとって何よりも大きな「リスク」は何かと問われれば、答えは間違いなく米・イランの軍事衝突の可能性だ。しかし原油市場に「より影響しておかしくない」要因となると、中国の石油製品輸出の急増が最初に来る。
トランプ米大統領とイラン指導部の強硬派の動きを予想するのは難しいが、両者は不安定な中東地域で互いに相手の立場の弱体化を図ろうとしつつ、直接の戦争をなんとか避けようとする可能性がある。
こうしたパターンは米国によるイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官殺害と、イランによるイラクの米駐留基地攻撃で繰り返された。イランによる報復攻撃は米軍に死者がなく、報復の連鎖を招かないよう周到に計算されていたように見受けられる。
中東情勢はきっとメディアのフロントページを占め続けるだろうから、原油価格への実際の影響が弱いものであっても、原油の生産者やトレーダー、買い手の注目をもっぱら集めていくだろう。
しかし中東戦争が一種の封じ込めをされ続けるなら、世界最大の原油輸入国である中国の動きのほうが原油市場により核心的な影響を持つ。
中国の原油輸入と精製された燃料輸出は昨年急増した。12月分の公式統計はまだ発表されていないが、昨年の原油輸入は前年比約10%増えたように見える。(*編集部注:12月の税関統計は14日公表された)
昨年1-11月の輸入は日量1010万バレル相当で、前年比10.5%増。リフィニティブのデータが示す中国の昨年12月の輸入は日量1070万バレル前後で、実際この通りなら通年も日量1010万バレル前後と、前年から約90万6000バレル増えたことになる。国際エネルギー機関(IEA)は昨年の世界の原油需要の伸びを日量120万バレル程度と見積もっており、中国がこの大半を占めることになる。
中国の原油需要が旺盛になったのは、合計で日量約80万バレルの処理能力を持つ新たな製油所2カ所が稼働したことと、原油の商用・戦略備蓄の積み増しの動きだ。
精製能力拡大は中国の原油輸入が高止まりする構造的要因だ。一方で備蓄の積み増しが今後も続くかどうかはやや疑問も残る。中国は戦略石油備蓄(SPR)の水準を公表しておらず、アナリストの予想には幅がある。しかし1つ可能性があるのは、中国のSPRは輸入90日分に近づいていることだ。昨年9月のサウジアラビア石油施設への攻撃後、中国の当局者はSPRが輸入80日分だと明らかにしていたから、なおさらだ。
原油輸入量と国内の原油生産量、原油精製量から試算すると、中国は昨年1-11月に日量約96万バレルのペースで商業・戦略備蓄を積み増したように見える。中国が今年もSPRの積み増しを続ける可能性はあるが、昨年と同様のペースは考えにくい。
<日本の製油所、稼働低下も>
中国は原油輸入を増やすかたわら、石油製品の輸出を増やしている。昨年1-11月の石油製品輸出は日量140万バレル前後と、前年同期比14.2%増加した。中国政府は昨年末、今年の石油製品の輸出割り当ての第1弾を発表し、前年の第1弾と比べて53%増とした。
中国政府は通常、年間に少なくとも3回に分けて輸出割り当てを発表していく。これは国内市場向けに十分な供給を確保する一方で、大手精製会社に余剰分の燃料の輸出を認めるのが主な狙いだ。
第2弾以降も第1弾と同じパターンが繰り返されるならば、中国の精製燃料の輸出が大幅に増えるのはほぼ確実だろう。これはアジア諸国の精製マージンに影響を与える一方、原油需要を奪う方向に働く可能性がある。中国以外の世界の原油需要の低迷が続くなら、中国が輸入し、精製して輸出する大量の原油が、他地域の原油に取って代わりかねないということだ。
言い換えれば中国の燃料輸出拡大が、日本や韓国、シンガポールなど中国製品との競争を強いられる国々で、精製稼働の低下を招く可能性がある。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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