コラム:年内のドル円は110円近辺が天井=亀岡裕次氏

コラム:年内のドル円は110円近辺が天井=亀岡裕次氏
 4月30日、今年3月末に111円に迫る水準まで上昇したドル/円が一時、107円台に反落した。また、クロス円の上昇が頭打ちとなり、リスクオンの円安が鈍ったこともドル/円の動きに影響している。写真は米ドルと日本円の紙幣。2017年6月撮影(2021年 ロイター/Thomas White)
亀岡裕次 大和アセットマネジメント チーフ為替ストラテジスト
[東京 30日] - 今年3月末に111円に迫る水準まで上昇したドル/円が一時、107円台に反落した。また、クロス円の上昇が頭打ちとなり、リスクオンの円安が鈍ったこともドル/円の動きに影響している。リスクオンからリスクオフに傾くとドル高に作用するはずだが、実際にはドル高からドル安に転じているので、米長期金利が上昇から低下に転じたことがドル安を招いたと考えられる。
つまり、米長期金利上昇とリスクオンが弱まったためにドル高・円安が進まなくなったと言える。
<日米長期金利差から見たドル円の水準>
近年のドル/円は、リスクオン・オフには左右されにくく、米国の株価よりも長期金利の動向がカギを握る。米株高・金利低下の場合、リスクオンの円安より米金利低下のドル安が勝ることで、ドル/円は下落しやすい。
米株安・金利上昇の場合、リスクオフの円高より米金利上昇のドル高が勝ることで、ドル/円は上昇しやすい。リスクオンの円安とドル安の差や、リスクオフの円高とドル高の差が小さいため、米金利変化によるドル高やドル安がドル/円を左右しやすい構造となっている。
日米長期金利差とドル/円の短期的な相関は局面ごとに異なるものの、中期的な相関は安定的であり、日米10年国債金利差が現状水準に近い1.4―1.8%の場合、ドル/円は106―110円をコアとしたレンジに収まりやすい。
<米実質金利の上昇の行方>
今年1月以降は、日本と比べ相対的に米国の実質金利が上昇するとともに、ドル/円が上昇した。ただ、3月に米実質金利上昇に歯止めがかかった後も、月末にかけてドル/円は上昇を続けたため、4月になって過度な上昇分を打ち消すようにドル/円は反落した。
米国の期待インフレ率は2%を超えて上昇した後に伸び悩んでおり、実質金利はやや低下している。雇用改善が十分に進み、インフレ率が持続的に2%を超える可能性が高まった段階で、金融当局が緩和解除を示唆する局面になれば、米実質金利とドル/円の上昇が進みやすくなるだろう。だが、そうなるまでには、まだ時間がかかりそうだ。
<米金利上昇・株高に限界>
米金利との裁定関係から見た米株価の割高感は、2009年以降の上限水準まで強まっている。この先、米金利上昇が進むと米株が下落しやすく、それにより米金利上昇とドル/円上昇も抑制されやすい状況にある。
一方で、米金利が低下すると株価が上昇しやすくなるが、それによってドル/円は下落しやすくなる。
米景気回復が進んで企業収益見通しが顕著に高まれば、米金利上昇と株高が同時進行しやすくなり、ドル/円の上昇余地も広がるが、そうなるにはある程度の時間を要するはずだ。 
最近の米経済指標は市場予想に比べて強い結果が多いが、年初来のドル高の影響により4月下旬以降に発表される経済指標が弱まる可能性もあり、しばらくはドル/円が上昇しにくいかもしれない。
<欧米以外の感染拡大は欧米景気にマイナス>
米国では、ワクチン接種の効果により新型コロナウイルスの新規感染者数が減少したが、経済活動が全面復旧できるほど感染リスクが低減したとは言い難い。
インドなど欧米以外では新規感染者数が増加を続けている国も少なくなく、世界合計の新規感染者数は過去最多を更新中だ。世界的に新型コロナ変異株の感染拡大リスクがあるため、米国の渡航制限は緩和ではなく強化される方向にある。
欧米諸国がワクチン接種により感染拡大を抑制できても、新興国の需要鈍化が貿易を通じて欧米景気に波及することで、リスクオンの円安を抑えリスクオフの円高に働くこともあり得る。
<米政策期待とドル円のピークアウト>
ドル/円がピークを打った3月末は、バイデン米大統領が8年間で2.3兆ドル規模のインフラ投資計画を発表したタイミングと重なる。15年間に2.5兆ドルの税収増が見込めるとする法人増税によって財源を賄う計画であり、景気にとってはプラス面だけではなくマイナス面もある。
4月に米長期金利低下・ドル安に転じたのは、トリプルブルーの米国で財政支出が拡大するとの期待が、ピークアウトしたことが原因ではないか。
過去の相場を平均化すると、米政権1年目の4月にドル/円がピークアウトする傾向があり、政策方針が明らかになるとともに政策期待がピークアウトしやすいことが一因とも考えられる。
<ドル円やクロス円は来年に一段高か>
以上のことから、米金利上昇とリスクオンが一方的には進みにくく、一時的な円高局面もあると見て、当面のドル/円は106―110円で推移すると予想している。
ただ、来年にかけては、世界の新型コロナウイルス感染が鈍化し、景気が回復するなかで企業収益が拡大し、金利上昇とリスクオンが同時に進む余地も拡大するだろう。
緩やかな米長期金利上昇のドル高と、緩やかなリスクオンのドル安が相殺し、ドル実効レートは安定的に推移しやすくなる。そして、海外金利上昇とリスクオンが円安に作用し、ドル/円とクロス円はともに今年の高値を超えて上昇しやすくなると見ている。
(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
*亀岡裕次氏は、大和アセットマネジメントのチーフ為替ストラテジスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て現職。
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