コラム:「死んだふり」で生きのびたNAFTA

コラム:「死んだふり」で生きのびたNAFTA
10月1日、北米自由貿易協定(NAFTA)の改造は、 表面的なものに終わった。写真は9月、ニューヨークで行われた国連総会に出席したトランプ米大統領(左)とカナダのトルドー首相(2018年 ロイター/Carlos Barria)
Gina Chon
[ワシントン 1日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 北米自由貿易協定(NAFTA)の改造は、 表面的なものに終わった。カナダと米国は9月30日夜、11月末に任期を終えるメキシコのペニャニエト大統領の在任中に間に合わせる形で、この3カ国の経済協定の改定に同意した。
米国とカナダの間では、ぎりぎりの交渉が行われたものの、修正点は従来協定と同じ基盤に根ざしたもので、3カ国の経済的な関係が維持される内容となった。
トランプ大統領は、2016年の米大統領選に立候補して以降、1994年に発効したNAFTAを標的にしてきた。トランプ氏は、2国間協定の方が好ましいとして、たびたびNAFTAの破棄をちらつかせた。
そして8月末、カナダを5週間交渉から締め出して、メキシコとの合意を成立させると、トランプ大統領はこれを手放しで賞賛。カナダ政府が早期に折り合わなければ、自動車に関税をかけると脅した。
だがカナダのトルドー政権は脅しに屈せず、交渉は9月いっぱいまで長引くことになった。
トランプ大統領は求めていたものの一部を手にしたとはいえ、新たに合意された「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」は、現行協定を全面改訂したというより、単にリフレッシュしたものだ。
新条項の1つは、トランプ大統領が環太平洋連携協定(TPP)から離脱したことで失った米国の利益を復活させた。カナダ政府は、TPPで約束していたような乳製品市場に対するアクセスを、再び米農家に認めた。その代わり米国は、紛争解決委員会の廃止を求める要求を取り下げた。また、デジタル通商に関する新たな規則も設定された。
その他の変更点は、NAFTAの条項を改定したものだ。中でも最も重要なのは、自動車に関する部分だろう。非関税の対象となる原産地比率が、現在の62・5%から75%に引き上げられた。
この変更点は、米国にとっても合理的なものだ。
カナダとメキシコは、米国最大の輸出相手国であり、自動車産業は特に、複雑に絡み合う産業構造になっている。米国が2017年に輸出した新車(乗用車)200万台の半数以上は、北米市場向けで、そのほとんどをカナダが占めていた。
とはいえ、まだ障壁も残る。新協定の批准には米議会の承認が必要だが、議会がこれをどう評価するかは不透明だ。民主党議員の多くはNAFTAに批判的だが、11月の米中間選挙では同党が下院で過半数を獲得する可能性もある。
だが当面、NAFTA支持者は、何の支障もなくUSMCAに乗り換えて、安堵のため息をつくことができるだろう。
筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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