コラム:ECBの折衷案的政策、銀行が「貧乏くじ」

コラム:ECBの折衷案的政策、銀行が「貧乏くじ」
 10月26日、ドラギECB総裁(写真)が打ち出した政策で、銀行が貧乏くじを引いてしまった。フランクフルトで撮影(2017年 ロイター/Kai Pfaffenbach)
Neil Unmack
[ロンドン 26日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が打ち出した政策で、銀行が貧乏くじを引いてしまった。ドラギ氏は26日、来年から債券購入額を減らすものの、買い入れ期間は延長すると表明。これは量的緩和に反対するタカ派の要求と、経済成長の足腰がなお弱いことを懸念するハト派の双方に配慮した折衷案だ。
その結果、銀行がしわ寄せを受けてマイナス金利の痛みがさらに続くことになる。
ECBが資産買い入れを段階的に縮小するのは避けられなかった。失業率低下や成長の持ち直しにより、異例の大規模緩和を正当化するのはどんどん難しくなっている。ECBが今のペースで債券買い入れを続けていけば、対象となるドイツ国債が枯渇するというリスクもあった。
だが緩和縮小の程度は非常に緩やかで、ドラギ氏は今回の措置を段階的縮小(テーパリング)ではなく単なる「再調整」と呼んだ。来年から毎月の購入額は現在の半分の300億ユーロになるが、少なくとも来年9月まで買い入れは続く。利上げとなると、買い入れ終了から「十分な時間が経過」するまで始まらないだろう。
ドラギ氏の表現上の巧みさやあいまいさは、ユーロ圏経済が抱える不透明な状況を反映している。確かに成長と人々の自信は戻ってきた。とはいえ賃金上昇という形でのインフレはまだ姿を見せていない。これは政府の諸改革や技術変化のために労働者の交渉力が弱まったためか、あるいは景気回復がまだそれほど力強くないからかもしれない。欧州には、スペインのカタルーニャ自治州独立問題や英国の欧州連合(EU)離脱、来年のイタリア総選挙といった政治リスクも存在する。
もっともドラギ氏は、ほとんどの関係者を満足させるであろう解決策を見つけ出した。量的緩和打ち止めを希望するグループ、特にドイツは金融緩和が出口に向けて歩み出したことを歓迎するだろう。
一方でECBの債券買い入れが長引くほど、そして利上げ時期の見通しが先になるほど、長期債利回りの上昇スピードは遅くなる。借金をしている人や政府には喜ばしく、欧州の成長に打撃となるユーロ高も防げる。
ただし敗者は銀行だ。投資家の見立てでは、資産買い入れが打ち切られた後でしか利上げは実施されない。買い入れ期間延長決定は、銀行がECBの口座に資金を滞留させなければならない局面がさらに長くなることを意味する。長期債利回り上昇に時間がかかるほど、銀行の長期貸出のリターンも下がってしまう。これは銀行の収益が痛手を受ける組み合わせと言える。それでもドラギ氏にとっては、最も深刻度が低い問題にすぎない。
●背景となるニュース
*ECBは26日、来年1月から毎月の債券購入額を現行の半分の300億ユーロに減らす一方、買い入れ期間を同9月まで延長すると発表した。
*またECBは、必要なら資産買い入れプログラムの規模再拡大や再延長に応じる用意があると表明した。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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