〔特集:クラフトビール〕3メーカー責任者が指摘する夢と現実

[東京 25日 ロイター] - 拡大が続くクラフトビール市場の原動力と課題は何か。クラフトビールの更なる成長に向けて奔走する3人のメーカー責任者に、手応えとチャレンジするべきポイントを聞いた。
<井手直行・ヤッホーブルーイング社長>
──クラフトビールが盛り上がってきた背景は。
「3つある。1つ目は日本でも多様性が進んできたこと。2つ目は米国のクラフトビールの盛り上がり。3つ目は味がおいしくなった」
──その割には、ビール市場に占めるシェアはまだ1%。米国は13%ある。
「日本はビールの税金が高い上に、米国では個人がビールを醸造できる制度もある。自家醸造の存在が、ビール市場の盛り上がりにつながっている」
──国内市場の見通しは。
「5年程度で2─3%は間違いなくいく。ただ、米国並みに成長するかというと、税制や自家醸造など制度の違いもあり、あと10年たってもそこまでいく感覚はない」
──成長には販路拡大も欠かせない。
「取扱店は増やしたいが、営業力には限りがあり、インセンティブを上げるほどの体力もない。今できることは、イベントなどを通じて熱狂的なファンを増やすことだ」
──自社レストランを展開している。
「公式ビアレストランを都内で8店(今夏は9店)展開している。営業力がない分、核となるお店を少しずつ広げている」
──キリンが全国展開するクラフトビール用サーバー「タップ・マルシェ」にも、ビールを提供している。
「5000店くらいがうちのビールを扱っている。クラフトビールメーカーは小規模なところが多く、販路に限界がある。素晴らしい取り組みだ」
──大手の参入についてどう考えるか。
「小さな醸造所が造る多様で個性的なビールがクラフトビールであり、大手がクラフトビールと名乗るのは反対だ。過去を見れば、大手の競争は市場をめちゃくちゃにするだけ。価格競争、シェア争いで市場を荒らさないでほしい」
<山田精二・キリンビール企画部部長>
──品質の悪いクラフトビールが出てきたら、それでブームが終わった地ビール市場の二の舞になりかねない。
「不安はある。よって我々がすべきことは、品質が良いクラフトビールに出会える場を早くつくることだ。良貨を早めにばらまいて、悪貨を駆逐する」
──タップ・マルシェは他社にも開放しており、敵に塩を送ることにもつながる。
「それでもいい。カテゴリーが育つことが大事だ」
──クラフトビールでビール市場は変わるか。
「とりあえずサワー、とりあえず日本酒という注文の仕方はない中で、ビールだけは『とりあえずビール』で通じてきた。とりあえずではないビール選びができる市場にしたい」
──市場拡大には何が必要か。
「とにかく接点。買える場所、飲める場所を作っていく必要がある。まずは飲食店だ。飲食店で飲める環境を作れば、そのうち家でも飲むようになる」
──しかし、クラフトビールは高い。
「ワインも昔は、ボトル販売で高かった。それがグラスワインになって手軽に飲めるようになった。クラフトビールも1杯当たりの容量をコントロールすることでハードルを下げたい」
──国内市場の見通しは。
「10年くらいの単位なら、3%程度までは行きたい。米国のようになるかというと、そこまでは行かないだろう。米国には造り手が山ほどおり、日本とは桁が違い過ぎる」
<新井健司・サッポロビールクラフト事業部マネージャー>
──国内市場の特徴。
「一部のクラフトビールが好きな若者は、すごくお金を使っている。消費の二極化はビールでも起こっている」
──市場成長は予想通りか。
「思ったほど伸びていない。好きな人がどんどん好きになって、奥行きは出てきているが、間口が広がっていない」
──なぜ間口が広がらないのか。
「まだ分かりにくいのだと思う。価格が高くても納得したら買うが、ファン以外はそこまでいっていない。手にとってもらう施策をもっと考える必要がある」
──クラフトビールが飲めるビアフェスは盛況だが。
「そこで終わってしまう。日常化しない。気軽に飲めるポイントを作って、そこから購買につなげる仕組み作っていかないといけない」
──クラフトビールの飲まれ方は。
「頑張ったときに飲むといった、エビスなどプレミアムビールに近い飲まれ方をしている。平日は第3のビールや新ジャンル、週末はビールという人が多い」
──市場拡大のために何をすべきか。
「家飲みにつなげる導線を作っていかないといけない。やはり家で飲む人を増やしていかないと、市場は爆発的には広がっていかない」
──シェアはどこまで伸ばせるか。
「米国と違い自家醸造の文化がないので、このままだと1─2%ではないか。おそらく淘汰も進んでいく」
*〔特集:クラフトビール〕「とりあえずビール」崩せるか、デフレ心理に課題も

志田義寧 編集:田巻一彦

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