訂正:FRBが金利据え置き、年内利下げ示唆:識者はこうみる

米FRBが金利据え置き、年内利下げ示唆:識者はこうみる
6月19日、米連邦準備理事会は連邦公開市場委員会(FOMC)でフェデラルファンド金利の誘導目標を2.25─2.50%に据え置くことを決定した。写真は会見するパウエル議長(2019年 ロイター/KEVIN LAMARQUE)
[19日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は18─19日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)でフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を2.25─2.50%に据え置くことを決定した。ただ不確実性の増大などに対応するために年内に最大0.5%ポイントの利下げが実施される可能性があることも示唆した。
市場関係者のコメントは以下の通り。
●妥当な判断、関心は米中首脳会談へ
<大和証券 チーフグローバルストラテジスト 壁谷洋和氏(訂正)>
市場の期待を裏切らない内容だったが、必要以上に迎合もしなかった。あくまでも、データを見極めながら必要に応じて行動をとっていくという回答で、米連邦準備理事会(FRB)としては妥当な判断を下したと言える。米国株市場の主要3指数がプラスで取引を終えたところをみると、株式市場でもポジティブと受け止められた。
東京時間では、米長期金利が低下し、ドル/円は一時107円半ばまで下落したが、日本株はプラス圏を維持するなど持ちこたえている。為替の円高よりも、米国株高の方を重視している。
米連邦公開市場委員会(FOMC)通過後の最大の山場は米中首脳会談となる。基本的に何か決まるわけではないだろうが、米中両国が通商協議のテーブルに戻り、膝を詰めて話し合いを進めていくという姿勢を確認することになるだろう。市場にとっては悪い話ではなく、日経平均株価は2万1000円台前半から水準を切り上げ、2万1000円台後半の領域に入っていくことも期待できる。
●政治に屈し「トランプシフト」を敷くFRB
<三井住友銀行のチーフストラテジスト、宇野大介氏>
今回の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、1日目の18日にトランプ大統領が2020年大統領選への再出馬を正式に表明する一方で、トランプ政権がパウエル議長の理事への降格を今年2月検討していたとの話が飛びだすなど、政治が色濃い影を落としている。
政策金利は据え置かれたが、先行きの不確実性が増大しインフレが低迷する中、データを注視し景気拡大を維持するために「適切に行動する」と表明。これまでの声明にあった「忍耐強く(patient)」という文言は取り除かれた。
「Patient」は当初、「利上げ」に対して辛抱強くあるという意味で使われていたが、年初からは「利上げ」に対しても「利下げ」に対しても「patient」というコンテクストに変わり、今回は忍耐できずに利下げシフトを敷くこととなった。
利下げシフトはイコール「トランプシフト」である。口を開けば利下げを要求するトランプ大統領をなだめるために、米連邦準備理事会(FRB)は予防的な利下げもありうべしとしているが、本心は異なっているとみている。
FOMCメンバーの政策金利見通し(ドットチャート)では、今年は利下げバイアスが現れているが、先に行けば行くほど利上げを主張する向きが増加していることが見て取れ、FOMCは市場が考えるほど利下げ一辺倒ではないことがわかる。
さらに、経済見通しでは、GDP成長率は堅調、失業率は一段の低下が見込まれており、経済の見立てでは、トランプ氏を受容する「トランプシフト」とは一線を画している。
FRBはトランプ氏の出現によって「完全雇用」と「物価の安定」という従来のマンデートに加え、第3のマンデートとして「株高」を託された。現在は、株高をもたらすことに成功し、トリプルマンデートをほぼ完成させている状況で、利下げを特段必要としていないというのが本音ではないだろうか。
市場では、株価や原油相場が米利下げを先行して織り込んだが、米長期金利や為替市場での「緩和相場」は始まったばかりだ。織り込みがさらに進めばドル/円は105円、米10年国債利回りは1.7%を目指すと予想する。
●米6月雇用統計まで円金利の低下限定的
<岡三証券の債券シニアストラテジスト、鈴木誠氏>
今回のFOMC(米連邦公開市場委員会)については、予想以上にハト派だったという印象はない。ドットチャートでは、ロンガータームのフェデラルファンド(FF)金利見通しで、2.5%以上を中心とみている参加者が多く、前回の見通しから大きく下がった訳ではない。短期的に利下げが必要な環境になったとしても、将来的には利上げに戻るという見方が示されている。
年内の米利下げについては、すでに市場は織り込んでいる。それだけに現時点で米金利がさらに低下する必要もないだろう。円高圧力の警戒感は残るが、先行して日銀が政策対応に動くような環境でもない。日本の長期金利はマイナス0.15%を中心とした動きか、マイナス0.10─マイナス0.15%のレンジに戻るのか微妙なところだが、マイナス0.2%に一気に低下するような展開は米雇用統計の結果をみるまではなさそうだ。
<ハンティントン・ナショナル・バンクの最高投資責任者(CIO)、ジョン・オーガスティン氏>
利下げの可能性を示しつつ、この日は行わなかった。貿易などの大きなニュースがない限り、7月実施の公算が大きくなるだろう。
市場期待以上の内容で、不透明性増大や注視、インフレ抑制、緩やかな経済活動といった市場が注目していた4つのキーフレーズがすべて(声明に)盛り込まれていた。
<ベーカーアベニュー・アセットマネジメント(サンフランシスコ)の首席投資ストラテジスト、キング・リップ氏>
年内に1回かそれ以上の利下げが実施される公算があることが示された。20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)が夢のような大成功にならない限り、FRBは年内に利下げに踏み切る。
<リジェンタトランティックの最高投資責任者(CIO)、クリス・コルダーロ氏>
仮にこの日利下げが行われていたら、 米連邦準備理事会(FRB)が経済より政治の影響を受けていると懸念を強めていただろう。景気指標を見れば、今日利下げに踏み切る根拠を挙げるのは容易でない。失業率もかなり低い水準が続く。景気が鈍化しつつあるものの、後退局面に陥る可能性には近づいていない。この日や7月でさえ利下げを実施するのは時期尚早だろう。一段のデータ分析が必要だ。
<イートレード・ファイナンシャル(ニューヨーク)の投資戦略担当バイスプレジデント、マイク・ローウェンガート氏>
FRBはFOMC声明から「忍耐強く」との文言を削除し、経済情勢の形容に「緩やか(moderate)」という言葉を使った。FOMCメンバーの政策金利見通し分布(ドット・チャート)はまちまちな感じだった。
多くの意味で先月から発せられたメッセージを継続するもので、今回のFOMC声明はFRBが一段とハト派化したことを示すものだったと受け止めている。
利下げ観測は高まっている。FRBが7月に利下げに踏み切る公算は増大した。
<ファーストフランクリン・フィナンシャルサービス(フロリダ州)の主任市場ストラテジスト、ブレット・ユーイング氏>
米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果は市場の予想通りだった。「忍耐強い」との文言が声明から削除された。ドットチャート(今後の政策金利の推移を点で示したグラフ)によると、2020年にかけおそらく最大0.5%ポイントの利下げが行われる見込みだ。7月利下げの可能性も高まっている。
<BライリーFBRの首席グローバルストラテジスト、マーク・グラント氏>
(セントルイス連銀総裁の反対について)今の段階で利下げをすべきだと認識する賢明なメンバーの1人だ。欧州中央銀行(ECB)や日銀、スイス中銀が米国より金利引き下に積極的であり、最近のECB側の発言や今後の行動で、米連邦準備理事会(FRB)に圧力が掛かっている。FRBは米国の利益を守る必要がある。
FRBは2008年以降利下げを行っていない。米国債の利回りが欧州や日本より高い水準にある中、他の中銀の政策に合わせようとしているのではないか。
ドットチャートが相当ハト派にシフトしたことから、年内に2回とまではいかなくても、少なくとも1回の利下げを予想する。
利下げに踏み切らなければ、ドルがユーロなどの主要通貨に対して強くなり、国内経済にマイナスの影響をもたらすことになる。
<シュワブ金融リサーチセンター(ニューヨーク)の首席債券ストラテジスト、キャシー・ジョーンズ氏>
最大のサプライズだったのは年内に利下げを見込んでいる当局者の数で、私の予想よりも高い比率だった。これは利下げが必要との全般的なコンセンサスがあることを示している。
声明の文言もやや修正された。市場予想と一致する動きだ。7月に利下げが実施され、その後9月に追加利下げがあると予想するが、すべて通商協議次第だ。
データー次第でイールドカーブはややスティープ化する可能性がある。
<UBSグローバル・ウェルス・マネジメントの上級ストラテジスト、レスリー・ファルコニオ氏>
今回の声明で最もハト派的だったのはドットチャートの変化だった。誰もが「忍耐強く」の文言が声明から削除されると見込んでいた。市場はハト派的姿勢をそれほどまで強く予想していたのに、その予想までも上回ったのは見事だった。
ドットチャートは下方修正された。2019年の政策金利予想はあまり変わらなかったが、2020年と21年についてはかなり下方修正した。これは市場に明確に反映された。イールドカーブ(利回り曲線)で2年・10年国債の部分がスティープ化した。2年物国債利回りはFRBの発表後10ベーシスポイント(bp)近く大幅に低下した一方で10年物の利回りは約5bp低下とそれほど大きく動かなかった。
<プルデンシャル・フィナンシャル(ニュージャージー州)の首席市場ストラテジスト、クインシー・クロスビー氏>
市場は今回の米連邦公開市場委員会(FOMC)では利下げを見込んでいなかった。株式市場の反応は、注意深い様子見に向けた連邦準備理事会(FRB)の動きを受け入れ、必要なら行動する用意がFRBにあると受け止めるものだ。
多くの点で、前日のドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁の発言を反映している。ドラギ総裁は18日、状況が改善しなければECBも行動すると表明した。世界の中央銀行がほぼそろって、それぞれの経済が弱含んだ場合に行動する構えをみせている。市場はそれを明らかに前向きに受け入れている。
*壁谷氏の名前の漢字を訂正しました。

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