アングル:北朝鮮ICBM迎え撃つ米ミサイル防衛の「信頼度」

アングル:北朝鮮ICBM迎え撃つ米ミサイル防衛の「信頼度」
 8月16日、北朝鮮が米領グアム島周辺への攻撃を示唆して以来、米朝両国間の緊張が急速に高まった。北朝鮮の軍司令部はどのような攻撃を計画しているのか、そして米国が誇るミサイル防衛システムは機能するのだろうか。写真は朝鮮人民軍戦略軍司令部の軍人らとともに拍手する金正恩・朝鮮労働党委員長。撮影日、撮影場所不明。朝鮮中央通信(KCNA)が15日配信(2017年 ロイター)
[16日 ロイター] - 北朝鮮が10日、米領グアム島周辺への攻撃を示唆して以来、米朝両国間の緊張が急速に高まった。北朝鮮の軍司令部はどのような攻撃を計画しているのか、そして米国が誇るミサイル防衛システムは機能するのだろうか──。
北朝鮮の国営メディアが配信した写真から、グアム周辺を狙ったミサイル発射計画の一端がうかがえる。同国の最高指導者である金正恩朝鮮労働党委員長が指示棒を手に持ち、「戦略軍火力打撃計画」と書かれた地図を示している。
地図はミサイルの飛翔経路を描いているとみられ、それによると北朝鮮の東岸から発射され、日本の上空を通過してグアムに到達するとしている。韓国の軍事専門家キム・ドンヤブ氏によると、写真で示された発射場所は同国東岸の新浦とみられ、先週北朝鮮が公表した詳細とも一致するという。
また朝鮮中央テレビが放送した映像から切り取った写真には、正恩氏と軍司令官がモニターに映し出された衛星写真を見ている様子が写っている。この写真とグアムのアンダーセン空軍基地を写した衛星写真とを比較すると、一致しているように見える。
<北朝鮮の攻撃計画>
北朝鮮の国営メディアは10日、「グアムの主要軍事基地にある敵軍勢力を絶ち、米国に重大な警告を送る」ため同国軍がミサイル攻撃計画を策定していると発表。また、大陸間弾道ミサイル「火星12」4発を発射するとの計画は、8月中旬までにまとまる予定だとした。朝鮮人民軍の金絡謙戦略軍司令官は、ミサイルが島根県、広島県、高知県の上空を通過し「グアム沖30─40キロの海域に着弾する」と述べたという。
トランプ大統領はこの数時間前、北朝鮮が米国をこれ以上脅かせば「炎と怒り」に直面すると警告。正恩氏はその後、米国の次の対応を見極めるとして、グアムへのミサイル発射計画の留保を示唆している。
数万人規模が駐留する日本や韓国をはじめ、米国は域内に大規模な軍事力を展開している。とりわけ朝鮮半島を南北に隔てる軍事境界線付近は、世界で最も警戒の厳しい場所の1つとされる。
グアムには空軍と海軍の基地、ならびに米沿岸警備隊の施設がある。これらの基地はいずれも潜在的に北朝鮮の標的となる可能性があり、攻撃に対抗するためTHAADを含めた米軍の防衛システムが展開されるだろうと専門家は見ている。
<グアムを狙う理由>
甚大な被害から身を守るのに14分という時間は決して長いとは言えない。そのわずかな時間で、北朝鮮から発射された中距離弾道ミサイルがグアムに到達すると推定されている。
米本土からおよそ7000キロ離れたグアムは、主要米軍基地を抱えるだけでなく、毎年多くの旅行者が訪れる人気の観光スポットだ。訪れる人の多くは日本や韓国からの観光客だ。
<米国はどう対応するのか>
トランプ大統領が北朝鮮に対し「炎と怒り」を警告する一方で、グアムの地元当局者は西太平洋に広がる「戦略防衛の傘」がいかなるミサイル攻撃をも阻むとして、住民の心配を和らげようと必死だ。ミサイル防衛の両輪を担うのが、THAADとイージスシステムだ。
●THAADとイージス防衛システム
先月28日に北朝鮮が2度目の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射に踏み切ったことを受けて、韓国の文在寅大統領は環境調査の結果が出るまで延期するとしていた当初の方針を覆し、THAADの早期配備を指示した。またグアムにもTHAADが常駐している。
だがTHAADは距離200キロ、高度150キロの範囲内の目標しか迎撃できない。これは北朝鮮が最近行ったミサイル実験の軌道よりも低い。
THAAD以外にもイージスミサイル防衛システムを装備した米海軍の艦船から発射される海上配備型迎撃ミサイル(SM3)で、大気圏再突入前の敵弾道ミサイルを迎撃できる。
弾道ミサイル防衛システムの開発・実験・配備を行う米国防総省のミサイル防衛局は、艦上と地上に配備したイージスシステムの実験を行ってきた。イージスシステムの迎撃成功率は83%だという。
横須賀を母港とする米海軍第7艦隊には12隻の艦船が配備されているが、このうち10隻がイージスシステムを搭載している。また海上自衛隊に6隻、韓国軍に3隻のイージス艦が配備されている。
以下に示した図は、5月14日に北朝鮮が発射した「火星12」に対し、THAADとイージスシステムが迎撃できる範囲を示したものである。
●民間人はどう備えるべきか
「差し迫るミサイルの脅威への備え」と題したマニュアルの中でグアム当局は、「放射能汚染を通さないほど厚みのある」コンクリートで覆われた住宅や学校、オフィス内の窓のない部屋を探すよう島民に求めている。
万一、屋外にいるときに攻撃があった際は、頭を覆い隠すように伏せ、視力を失わないようにするため「閃光や炎を見てはいけない」としている。
(By Weiyi Cai and Christian Inton 翻訳:新倉由久 編集:下郡美紀)

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