コラム:中国の5G覇権、米国の切り崩しで「大損」の可能性
Christopher Beddor
[香港 12日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 中国政府は次世代高速通信規格「5G」の覇権争いに勝つため膨大な資金をつぎ込み、国内企業を支援している。しかし米国は中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]の製品を購入しないよう欧州諸国に対する政治的な働き掛けを強めており、中国は結局のところ通信機器の輸出が滞り、資金が回収できない羽目に陥る恐れがある。
中欧を歴訪中のポンペオ米国務長官はファーウェイ製品を使う国との同盟関係の維持は困難と警告し、セキュリティー面での不安が全世界で取り沙汰されているファーウェイに対して再び攻撃を浴びせた。
こうした米国の反発はやっかみだと指摘する声もある。一部の統計からは、5G技術で中国が米国よりも優位に立っている状況が読み取れる。デロイトによると、中国は2015年以降の無線インフラ向け投資の累計が米企業の合計を240億ドル上回り、さらに今後数年間で5Gに4000億ドル前後を注ぎ込む計画だ。国民1人当たりの電波塔の数も米国の3倍に達している。
中国は国内市場の制圧を足掛かりに世界標準を征し、国内企業は超高速で機器を接続するための技術を基に、特許やソフトウエアの開発が可能になるかもしれない。しかしこうした大掛かりな投資計画は統計が示すよりもリスクが大きい。
ほとんどの国の通信大手はまだ5G向け投資にそれほどのめり込んでいない。これにはいくつか理由があるが、初期コストの早期回収が難しいというのがその1つだ。一方、中国政府の戦略は範囲が広大で、たとえ中国移動(チャイナ・モバイル)<0941.HK>のような国内通信大手が5Gサービスから利益を上げることができなくとも、関連機器を製造しているメーカーは利益が手に入るような絵図となっている。クレディ・スイスの試算によると、通信機器大手ファーウェイと中興通訊(ZTE)<000063.SZ>は海外市場での合計シェアが25%ないし30%に達しており、海外通信大手への製品販売ですぐにもうけが得られる態勢にある。消費者にも恩恵があるかもしれない。中国の5G技術はそこそこの性能で価格は手ごろだと評価されている。
米政府は、中国のこうした収益源を断ち切ろうとしている。目論見が成功すれば、中国政府はその穴を埋めるため、国内通信網の構築で国内通信大手への依存を高めざるを得なくなるだろう。そうなれば大規模な5G戦略は瓦解し、補助金の負担は国内ですべて負うことになる。関連するソフトやサービスへの投資もリターンの先行きが暗くなる。こうなると中国としては5Gで投資競争に勝利しても実入りがないという痛い敗北を喫することにりかねない。
●背景となるニュース
*ロイターの11日の報道によると、ポンペオ米国務長官はファーウェイの通信機器を使用している中欧諸国は米国との同盟関係の維持が困難になると警告した。
*ファーウェイはハンガリーに欧州の物流施設を置く計画で、ポーランドに対してもサイバーセキュリティー拠点の建設を提案している。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。)
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