コラム:米医療機器メーカーの大型買収、当局が横やりか
Robert Cyran
[ニューヨーク 11日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、医療用機器のストライカーが同業のボストン・サイエンティフィックに買収目的で接触し、買収額は580億ドルに達する可能性があると報じた。米医療機器業界ではコスト削減や病院に対する価格交渉力アップを狙った大型のM&Aが相次いでいるが、独占禁止当局から横やりが入るかもしれない。
ストライカーは整形外科関連機器の分野で大手の一角を占める。一方、ボストン・サイエンティフィックはステントやペースメーカーなど心臓関連機器で最大手に入る。両社ともほかに非中核事業も抱えるが、主力製品では重複がない。
この点はここ数年、医療用機器の分野でまとまった大型M&Aにも共通する。メドトロニックは2014年に手術関連製品メーカーのコビディエンを43億ドルで買収したが、両社に競合はほとんどなかった。昨年のベクトン・ディッキンソンによる240億ドルでのCRバード買収も同様だ。
こうした大規模M&A以外にも小型の案件が続き、医療機器業界は寡占化が進んだ。
一方、病院業界もオバマケアの成立以降、競合他社や治療業務の買収により大規模な再編が進んだ。米国医師会によると、現在では開業医は医師全体の半分以下にすぎない。規模の大きい医療グループは納入業者を絞り込み、経営規模を背景に値引きを迫る。
ボストン・サイエンティフィックは、WSJの報道は承知していると発表するにとどめている。提案価格はボストン・サイエンティフィックの8日の株価に30%上乗せした水準で、時価総額は約580億ドルとなる。これは同社の1年後の業績見通しの28倍ほどに相当し、ベクトンによるCRバート買収とほぼ同じ倍率だ。
ボストン・サイエンティフィックが本当に身売りすれば、医療機器メーカーの価格は吊り上り、M&A案件がさらに増えそうだ。スミス・アンド・ネフュー(S&N)やジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)なども病院から値引きを迫られている。医療用機器の分野で業界再編が進み、規制当局が関心を強めていることから、当局から承認を得られるM&A案件は限られそうだ。米連邦取引委員会(FTC)はベクトン・ディッキンソンによるCRバード買収では、両社の事業に重複が少ないにもかかわらず再度情報提供を求める異例の対応を採った。当面はM&A案件で買い手が少し慌てるような事態が起きるかもしれない。
●背景となるニュース
・米紙ウォールストリート・ジャーナルは関係筋の話として、医療用機器のストライカーが同業のボストン・サイエンティフィックに買収目的で接触したと報じた。ボストン・サイエンティフィックが提案受け入れに前向きかどうかは不明。
・ボストン・サイエンティフィックは、報道は承知しているが、市場で流れているうわさや憶測にはコメントしないとする声明を発表した。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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