コラム:イラン人が語る米国への「本音」

Peter Van Buren
[21日 ロイター] - 昨今、イランは危険な場所だ。少なくとも車に乗っているときはそうだと言える。都市の交通はまるでテトリスのようだ。ドライバーは空きスペースに無理やり車を押し込んでくる。
旅はカオスで始まり混乱の中で進む。それがどう終わるかは神のご意思次第だと誰もが言う。
筆者は今月イランを訪れた。同国に拠点を置く非営利団体が支援する会議に出席するためだ。パレスチナ、エルサレム、そして大中東圏を取り巻く情勢がテーマだ。そのついでに、マシュハド大学やフェルドウシ大学、そして女性教育機関の学生たちや、首都テヘランから来ている客員研究者らと会い、話を聞いた。
筆者がイランを訪れる直前、米国は核合意からの離脱を表明した。そして同国北東部の都市マシュハド滞在中に、在イスラエル米国大使館をエルサレムに正式に移転した。イランでこうした出来事はサッカーワールドカップの結果と同じくらい注視されていた。ただし、お祝いムードはなかった。
学生たちから意見を聞き出すことはそう難しくはなかった。
「アメリカ人は私たちにどうしてほしいのか。交渉を迫っているのか。私たちは2015年に交渉し、合意したではないか」と、ある学生はイラン核合意が結ばれた年に言及し、こう述べた。「体制変革。私たちが1票を投じて政府を選んだことを、アメリカ人は分かっているのか」と、もう1人の学生も質問を投げかけた。
また、40年前のイラン革命に関する筆者の質問に対し、大学院生は「シャー(国王)政権を打倒したのは確かだが、彼は国民によって選ばれたわけではなかった。アメリカ人が据え置いたのだ。トランプ(米大統領)とボルトン(国家安全保障担当大統領補佐官)は私たちに政権交代をしてほしいのか。私たちがすると思うか。西側製品を手に入れるのを難しくしているくせに」
もっと抜け目なく、対象を絞った制裁であれば、イランを新たな合意に向けた交渉のテーブルに着かせることができるかとの問いに対しては、公務員をの道に進むとみられるアメリカ研究専攻の学生2人は、イランの慣用句を「そのような海域で箱舟をこげる人などいるだろうか」と訳して答えた。「誰を交渉に送るかって。強硬派か。彼らが2015年にアメリカを信用するなと言ったことは正しかったと、トランプは言ったばかりだ」
イラン国民は情報に十分アクセスできる。仮想プライベートネットワーク(VPN)などのウェブツールを使えば、政府によるブロックを回避できる。ロイターのウェブサイトは筆者が泊まったホテルで視聴可能だった。
こっそり持ち込んだブルーレイプレーヤーでスーパーヒーローの最新作を見ることもできる。ソーシャルメディアの人気アプリ「テレグラム」の禁止は、恐らく強硬派に対するえん曲表現であろう「老人たち」の気分を良くするための不自由さだと捉えられている。だが、ニューヨークから発せられる言葉、そしてマシュハドのような場所から発せられる言葉を実際に受け止める物理的な相手は存在しない。
したがって、事実をよそに結論が間違っていることもしばしばだ。
サウジアラビアでの映画館解禁は、モラルの低下を狙った西側による「ハリウッドイズム」という文化を利用した攻撃だと非難される。イスラエル軍兵士はイスラム世界にポルノをまん延させたと言われる。
また、著名な西側メディアの有力者はペルシャ語で児童ポルノ映画をこっそり製作していると思われている。イスラエルは米国の外交政策を駆り立て、イランの反体制武装組織「モジャヘディネ・ハルグ(MEK)」は至るところに潜んでいる。米国はイランを排除した一極化の世界を求めている。そして、聖なるラマダン(断食月)の初めに米国がイスラエルを支持する決断をしたことは偶然ではない──。
米大使館のエルサレム移転を巡り、米国内政治が強く働いた感じはほとんどしない。福音主義キリスト教徒の影響力もあまり見られない。
むしろ、米国政府の行動こそがすべてを物語っている。イランは攻撃対象であり、イランが米国にはたらきかけようとする努力は拒絶される。そのような米国の対応はある種、二枚舌のように映る。
イランの学生たちは、米国が彼らを破壊したいのではないかとの懸念を抱いている。彼らが生まれる何十年も前から、米国はイランを破壊したがっていたからだ。
こうした学生たちは、米国を恐れる一方、非常に慣れ親しんでもいる。有名な古代詩人の名を冠した大学の静かな部屋で筆者とじっくり話をした彼らのあまりに多くが、他のアメリカ人がいつか殺しにやってくることを心配していた。
マシュハド市内ではデモも、米国国旗を燃やすこともなかった。金曜日の礼拝後、筆者が主要なモスクを訪れると、人々は何よりも外国人と自撮りすることに興味を示した。
だがここは宗教都市であり、シーア派8代目イマーム・レザーの聖廟がある。レセプションでの雑談から会議のスピーチ、モスクでの感動させるような説教に至るまで、聖職者たちは手厳しかった。
ある聖職者はまずそうな食事を見るように筆者をじろじろ眺め、アメリカ国旗を燃やす目的は「(米国を)破壊する」ためだと丁寧に説明した。彼の背後の壁には、ユダヤ教の燭台を掲げる自由の女神像と、牢屋に入れられたイスラエルのネタニヤフ首相の写真が飾ってあった。
ある有力な聖職者は、感動的なスピーチの中で、欧州連合(EU)はイラン・中国・ロシア連合によって崩壊し得ると語った。ユダヤ主義の銀行はメディアを支配し、国連やハリウッド、国際通貨基金(IMF)には独裁がまかり通っていると。
イラン外務省からの会議出席者たちは、話をする米国人がいないことに強い不満を漏らし、革命から40年もたつのに、なぜ米国はいまだにイランの複雑な民主主義的神権政治の正当性と安定性を問題にするのか分からないと話した。
ある年配の外交官は、米国の怒りについて、手足を失った人が体験することがある錯覚のむずがゆさに例えた。過去にとらわれ、現在も身動きがとれず、むずがゆさが消え去ることはない。「これが完全に失敗してもいいのか。アメリカ人はどこにいてもトライすることをやめてしまったように見える」とこの外交官は語った。
イランは不思議なシルクロードだ。空気は、セイヨウスイカズラとサフランとディーゼル排気ガスが混ざったにおいがした。どうにか制裁を逃れ、あちこちで見かけるアメリカ製のソーダ飲料は別にして(ここでは、コーラは赤、スプライトは白、ファンタはオレンジ、というように色で注文する)、LGやプジョー、サムスン、ソニーと並ぶ中国製品を押しのける米国製品は数少ない。
モノは現代的で非常に清潔だが、同時に使い古されており、間近で見ると継ぎはぎされていたり修理されていたりすることもある。5000年前の古代とより最近のイラン革命という過去が、ポスターや壁画として同時に至るところに存在している。
イランほど複雑な場所が、短期訪問で正体を現すと考えるのは浅はかだろう。だが筆者が出会った人たちは、それこそがミッションと考えていた。志を断たれたように見える向上心のある人たちの不安を静めようとする彼らに、筆者は心配になった。一方で、米国とイランの悪者たちは理解の差を縮めている。「われわれの未来はすでに忘れ去られている」と、ある学者は語った。
フェルドウシ大学の外では、学生数人がタクシーに乗り込み、発狂しそうなほど往来の激しい道路を走り去っていった。車はなかなか進まず、危険なことが多いため、誰もが目的地に着けることを期待しながら車を降りる。それも神のご意思だと誰もが言う。
*筆者は米国務省に24年間勤務。著書に「We Meant Well: How I Helped Lose the Battle for the Hearts and Minds of the Iraqi People」「Hooper’s War: A Novel of WWII Japan」がある。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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