コラム:トランプ政権下で脅かされる「ネットの自由」
Emily Parker
[22日 ロイター] - 米国の素晴らしい点の1つは、たとえ政府が気に入らなくても、反対の声を上げる権利を一般国民が持っていることだ。そしてトランプ大統領が1月に就任して以降、国民はインターネットや街頭で同氏の政策に「NO」を表明してきた。
ところが今、司法省がネットインフラ企業に特別の要求を行い、国民は言論の自由という正当な権利を行使することに不安を強めている。
司法省はサーバー運営を手掛けるドリームホストに対して、トランプ氏の就任式に対する抗議活動の組織化に役立ったサイト「ディスラプトJ20(1月20日をぶち壊せ)」を訪問したすべての人の情報を提供するよう求めている。ただドリームホストは、要求に従うには130万人超のIPアドレスとメールの内容、数千人の写真などを手渡すことになると抵抗。トランプ氏の就任式では一部に暴力的な行為があったとはいえ、司法省の情報提供要求の範囲はそうした「暴徒」に限られていない。単に状況を知るためだけに気軽にサイトを訪れた人までも、対象になる恐れがあるのだ。
こうした司法省の動きは、悪い意味で画期的と言える。ドリームホスト側の弁護士マーク・ルモルド氏によると、この種の情報入手の試みは通常、児童ポルノや麻薬取引など犯罪行為に加担したサイトに対してしか行われない。しかし今回司法省の標的になったサイトは、犯罪組織とは無縁であるばかりか、合衆国憲法修正第1条が守ろうとしている権利の中心部分、つまり同じ政治的な考えを持つ人が集まって平和的に抗議行動をすることに関わっているのだという。
ドリームホストは司法省の要求は違憲性があると訴えている。「われわれはユーザーのために闘う」という名称のブログで、司法当局が常に犯罪捜査の対象となる可能性がある顧客の情報を問い合わせてくると説明する。だが今回、司法省は行き過ぎている。ドリームホストは司法省の意向に従わないのは、ネットユーザーがただ政府に反対を表明するという権利を行使するだけで、犯罪捜査の網に絡め取られてしまうと合理的に予見できるからだと記している。
例えば米国で中国並みに、政治的な抗議をするためのサイトの存在すら許されなくなるといった事態はありそうにない。サイトの遮断は、反対派弾圧の一手段でしかない。強権的な政治体制は、監視活動とそれによる法的処分をちらつかせ、社会に恐怖と警戒の雰囲気を醸成する。国民が自己検閲すれば、政府がネットを管理する一助となる。
自己検閲は、ちょっとツイッターをのぞけば反トランプのコメントがあふれている米国では、大した問題に見えないかもしれない。街頭で人々が抗議活動をするのは日常的な風景であり、それをソーシャルメディアが後押ししている。とりわけ米国民は、自己表現や行動に移すのをためらわないように思われる。
ただそうした状況は変化しかねない。米国は大きく分断され、社会の空気は緊迫化している。抗議がエスカレートすれば、トランプ政権がネット企業に対してデモに関与する人々の情報を明らかにするよう圧力を強めると簡単に想像できる。
これらの情報提供要請は、いくら対象者の範囲が広過ぎるとしても、元来積極的に政治を変えようと発言をしている人の行動の妨げにはならないだろう。とはいえ、特段現状に反対していない普通の国民は、意見を言うのを尻込みするかもしれない。
インターネットは、あらゆる種類の人が集い、不平不満を言い合って協力して行動するための場所だ。であるのに自分の情報がサーバー運営企業から当局の手に渡る可能性があると知ってしまったら、いったいどれだけの国民が政治的な抗議を表明するサイトの訪問をちゅうちょしてしまうだろうか。もしかして捜査対象になるという状況で、国民はソーシャルメディア上で堂々と意見を開陳し続けられるだろうか。逆に文句を言っても何も解決せず、リスクを冒す価値がないと考えてしまうこともあり得る。
今回のケースについては、司法省は望み通りの成果が得られないのではないか。ルモルド氏は、司法省の命令の正当性が適用される範囲が相当狭められ、「無実」のユーザーへの保護措置が講じられた挙句、ドリームホストが一部の情報を提供するというのが最も考えられる結末だと話している。
もっともそれで話を一件落着にしてはならない。ネット企業は当局の情報提供要請は過大だと主張すべきだし、メディアや国民は政府への監視を続ける必要がある。ネット上の言論の自由が当たり前と考えるのは間違いだ。
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