焦点:「トランプ規制緩和」見直し急ピッチ、暫定トップが奮闘

焦点:急ピッチで進む米金融規制緩和見直し、当局の暫定トップ奮闘
 4月12日、バイデン米政権が任命した規制当局の暫定責任者は、時間を無駄にせず、トランプ前政権下で導入された金融業界寄りの規制措置を次々に見直している。ニューヨークのマンハッタンで2020年3月撮影(2021年 ロイター/Carlo Allegri)
[ワシントン 12日 ロイター] - バイデン米政権が任命した規制当局の暫定責任者は、時間を無駄にせず、トランプ前政権下で導入された金融業界寄りの規制措置を次々に見直している。彼らは規制当局の責任者の候補が議会で承認され、正式に就任するまでの間に任命されたが、様々な法的戦術を駆使し、迅速に対応している。
トランプ前大統領が打ち出した際、消費者の立場や規制当局の強制力を弱める、あるいは環境・社会・ガバナンス(ESG)投資の妨げになる、といった批判を浴びたルールが取り消されたり、導入が先送りされたりしている。
各当局は、手間がかかるルールの書き換え作業に乗り出すのではなく、多くの場合は未完成な段階のルールを完成させるのを先送りし、あるいは非公式な指針の表明、古い政策綱領の撤廃もしくは新しい綱領の発表、さらには既存ルールで執行しないなど、より素早く対応可能な手段を行使しているもようだ。ロイターが取材した法律専門家や消費者団体関係者の発言や関連資料から分かった。
法律事務所のストルーク・アンド・ストルーク・アンド・ラバンのパートナー、Quyen Truong氏は「民主党政権に抜てきされたこうした暫定責任者は、トランプ氏の在任中に生じた規制緩和の流れを止めるため、非常に俊敏に動いている。当局が指針を出したり、政策綱領を変えたりすることで、金融機関が法令順守の軌道変更を急ぎ求められている」と指摘した。
トランプ氏が任用した規制当局トップは、時代遅れ、あるいは雇用に打撃を与えているといった理由で、一連の規制緩和に踏み切った。民主党側は、これがウォール街に何十億ドルもの負担軽減をもたらした半面、さまざまなリスクが増大し、消費者に痛みを押しつけていると怒りを募らせていた。
ただ、議会の立法手続きでこうしたルールを改正しようとしても、上院で実質的な過半数をかろうじて確保しているだけの民主党は、苦戦を免れない。
一方、バイデン政権が発足して3カ月が経過した今もなお、政権移行遅延の影響で、多くの規制当局の指名候補は、議会承認を待っている状態にある。
そのため、パンデミックから国民を立ち直らせ、社会的な不公正と気候変動問題に対処するというバイデン氏が掲げた政策の具体的な実行は、暫定的に任命された当局責任者の肩にかかる形になっている。
例えば、証券取引委員会(SEC)の委員長代理を務めるアリソン・リー氏は非常に活動的だ。彼女は、現場の上級職が2017年に奪われた執行権限を回復させ、上層部の許可なしでも各種調査を始められる態勢を構築。ルール違反の金融機関があまりにも簡単に通常通り業務を続けられるとの批判が出ている19年の政策を取りやめた。
リー氏はESG関連で誤解を与える情報開示の取り締まりにも着手し、トランプ前政権によるESG投資圧迫姿勢も転換しつつある。
労働省も3月、トランプ前政権の末期にまとめられた2つのルールを執行しないと表明した。このルールは、ESG的な要因に基づく投資や株主投票を制限する内容だった。同省はコメント要請には応じていない。
また、消費者金融保護局(CFPB)の局長代理となったデーブ・ウエヒオ氏は、融資の公正性を阻害する政策を是正してくれるだろうという民主党左派の期待を裏切らない奮闘ぶりだ。
ウエヒオ氏は「われわれはCFPBの効果的な運営を妨げてきた過去の政策を精査し、同時に金融機関が確実に消費者を公平に扱うように監督と法執行を通じて日夜努力を続けている」と強調。実際、優越的な立場を不当に行使する金融機関への処罰や、金融機関に対する行動是正命令などの権限を損なってきた政策を取り消している。
今月には、消費者団体がメリットより弊害の方が大きいと主張する新たな債権回収ルールの導入を先送りした。
同氏は、新型コロナ禍の追加支援策や人種格差是正措置にもっと焦点を当てるつもりだと語る。消費者団体PIRGのEd Mierzwinski氏は「われわれは既に金融当局、とりわけCFPBがトランプ時代の最悪の政策に立ち向かう姿を目にしている」と評価した。
これに対して野党・共和党は、一連のルール取り消しは法的な不確実性を生み、金融機関の融資引き揚げにつながりかねないと警告。金融規制当局の監督を担う上院委員会の共和党側のトップ、パット・トゥーミー氏は、足元の規制措置の軌道変更が、経済成長鈍化につながると声明で強調した。
アルストン・アンド・バードのパートナーで、かつてCFPB副局長を務めたブライアン・ジョンソン氏は、正式な見直し手続きなしの性急なルール取り消しは、訴訟を起こされるリスクがあるとの見方を示した。
それでも法律専門家は顧客の金融機関に対して、速やかに新しい当局のやり方に従うよう助言している。当局に正式なトップが就任しても、そうした方針が変わる公算は乏しいからだ。
CFPBのウエヒオ氏は「消費者は助けを待つ余裕などない。今われわれのことを必要としている」と語り、早急な対応の妥当性を訴えた。
(Katanga Johnson記者)

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab