焦点:テキサスに変化か、銃規制強化訴える民主候補が現職猛追

Tim Reid and James Oliphant
[カリーゾ・スプリングス/ケイティ(米テキサス州) 19日 ロイター] - テキサス州で肉用牛農場を営むビル・マーチンさん(72)は、共和党員一筋。銃は20丁以上所有しており、6歳から射撃に親しんできた。
そして今、マーチンさんはかつてなら考えられなかったことを検討している。銃規制の強化を訴える民主党の連邦上院議員候補に票を投じることを考えているのだ。
マーチンさんの心変わりの理由は単純だ。米国やテキサスをむしばむ銃暴力に辟易(へきえき)しているのだ。銃を愛する文化で知られるテキサス州では昨年、教会で銃の乱射事件が起き、26人が死亡している。
「私は非常に保守的だが、それでも銃についてはもっと中立的な対応が必要だと思う」と、マーチン氏はカリーゾ・スプリングス近くの自宅農場でロイターに話した。
銃を愛する一方で規制強化を望むという、マーチンさんのような複雑な考え方こそ、民主党のベト・オルーク上院議員候補がテキサスで広めたいと考えているものだ。
エルパソ地区選出の連邦下院議員のオルーク氏は、11月の中間選挙で、州選出の連邦上院議員の座を目指して共和党現職のテッド・クルーズ氏に挑む。オルーク氏は、銃規制強化を自身の公約の柱に掲げ、銃購入希望者の身元調査の義務化や、攻撃用銃器の販売禁止を訴えている。
過去の選挙では、銃所有率が全米で最も高いテキサス州で、銃規制改革を訴える民主党候補は、確実に政治的「自殺」に終わっていた。だが今回、オルーク氏はクルーズ氏を追い上げている。
ロイター/イプソス/バージニア大学が19日に発表した世論調査では、オルーク氏の支持率はクルーズ氏に並んだ。最近の他の世論調査では、クルーズ氏がわずかにリードしている。18日に公表されたキニピアック大の調査では、オルーク氏が9ポイントの差をつけられた。
両党にとって、テキサス州の選挙は重要だ。
11月6日に投開票が行われる中間選挙で、民主党が上院の過半数を獲得するには、改選前より2議席増やさなければならない。共和党は、1994年以来上院に民主党候補を選出したことがないテキサスのような「安全」州を死守したい。
オルーク氏の善戦により、テキサスのような共和党支持の赤い州で銃規制の問題を持ち出すのは危険だという長年の「常識」が揺らいでいる。
今年は、民主党の下院議員候補7人が銃規制を訴えており、その全員が、民主党下院議員時代にアリゾナ州で銃撃を受け一時重体となったガブリエル・ギフォード氏が設立した銃規制グループの支持を受けている。同グループは、2016年の選挙ではテキサス州で支持した立候補者はいなかった。
銃規制の問題は「白か黒かの問題ではない」と、バージニア大政治センターで上院選挙戦を分析しているジェフリー・スケリー氏は指摘。「オルーク氏にとって、それは有利に働く。もし白か黒かの問題だったら、テキサスのような州で彼はもっと苦労していただろう」
上院議員2期目を目指すクルーズ氏は、伝統的な選挙戦術を守り、銃規制を主張する挑戦者を攻撃している。
ヒューストン近郊で最近行われた選挙集会で、クルーズ氏は、オルーク氏の銃規制の主張は「ほとんどのテキサス人の価値観から完全に外れている」と切り捨て、「米国で最も人気がある火器の一部禁止を訴えている」と攻撃した。
オルーク氏陣営は、ロイターのインタビュー要請に応じなかった。
<変化する意識>
米国における銃規制への支持は揺らいだり流動的だったりしてきたが、近年では、全米で規制強化への支持が増えていることが世論調査で示されている。米国の成人を対象にしたギャラップの昨年10月の調査では、銃の販売に関連する法規制の強化を支持すると答えた回答者は67%と、1993年以降で最大となった。
ロイター/イプソスが今年行った全米調査では、テキサス州でも同じように銃規制強化への支持が拡大していることが分かった。それによると、成人の3分の2が「厳しい」または「適度の」銃規制や制限を支持すると答えた。
だが、キニピアック大が5月に行った世論調査では、銃規制の問題を巡り、テキサスでは両党支持者の間で依然として大きく意見が分かれていることが示された。同州の共和党員の70%が銃規制強化に反対と答えたのに対し、民主党員では79%が支持すると答えた。
11月の選挙で勝利するには、オルーク氏は民主党支持者を大挙して投票所に向かわせる必要があると、バージニア大のスケリー氏は分析。銃規制の問題を使えば、党の支持基盤を動員できるかもしれないと話した。
テキサス出身の共和党ストラテジスト、フォード・オコネル氏は、オルーク氏の訴えは銃所有者のほとんどに響かないとみている。
「この問題がオルーク氏を有利にしているとは思わない。彼の支持基盤には有効だろうが、クルーズ氏を有利にする部分の方が大きい」
オルーク氏の主張が、クルーズ氏の資金集めを容易にしたのは確かだ。選挙資金調査団体「責任ある政治センター」によると、今回の選挙戦で、クルーズ氏が銃擁護団体から受けた寄付は計4万2000ドル(約470万円)と、候補者の中で最多となっている。
<「転げやすい坂道」対「常識」>
クルーズ氏は選挙戦で、銃の権利擁護を強く訴えている。
ヒューストン近郊のバーベキューレストランに立ち寄ったクルーズ氏は、全米ライフル協会(NRA)から受けた低評価を自慢するオルーク氏をあざけってみせた。その後、クルーズ氏は、今年5月に起きた銃撃事件で10人が死亡したサンタフェ高校にほど近い、ケイティの町にある自身の母校に立ち寄りスピーチした。
そして、銃の訓練を受けた教師には、教室内に銃を持ち込むことが認められるべきだと述べた。
「銃を持った悪人を止めるのに一番有効なのは、銃を持った善人だ」と、クルーズ氏は訴え、喝采を浴びた。
サンアントニオ近郊で狩猟ビジネスを共同経営するバレリー・ヘルナンデスさんは、そんなクルーズ氏の主張に共感する。ロイターが今回の取材で話を聞いた、20人以上のテキサスの銃愛好家の1人だ。
「これは転げ落ちやすい坂道だ」と、ヘルナンデスさんはオルーク氏の銃規制の主張について話した。「彼は、銃の権利を少しずつ取り上げ、最終的にはわれわれの銃を取り上げるだろう」
そうしたオルーク氏に対する批判は「まったく的外れだ」と話すのは、ブライアン・キングさん(29)だ。キングさんは熱心な狩猟愛好家で、ライフルや散弾銃、拳銃を所有している。
2016年の米大統領選ではトランプ氏に投票したキングさんは、今回の選挙ではオルーク氏支持に傾いている。
攻撃用銃器の販売禁止は好ましくないと思うものの、市民の銃を持つ権利を守ることよりも、学校や公共の場の安全を守ることの方に関心を寄せているのがその理由だという。
「常識的な範囲の銃改革なら、喜んで支持する」と、キングさんは話した。
(翻訳:山口香子、編集:伊藤典子)

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