コラム:巨額債務のソフトバンク、資産下落時に逆回転リスク
Liam Proud and Karen Kwok
[ロンドン 5日 ロイター Breakingviews] - 孫正義氏が会長兼社長として率いるソフトバンクグループ<9984.T>は、ハイテク分野の巨大投資マシーンであり、気前よく重ねた借金が潤滑油の役割を果たしている。同社が抱える資産の価値が高まっていた局面では、借り入れによる経営がうまく機能した。しかし、今後は資産価値が下がって、借金が問題になりかねない。
孫氏が好んで用いる指標に基づくと、ソフトバンクグループの債務負担は、やり繰りが可能に思われる。同氏は、借入金を総資産価値の25%未満にとどめたい考えだ。この総資産には、中国電子商取引最大手アリババの株式や、携帯電話2社、半導体メーカーのArm(アーム)、1000億ドル規模の巨額ファンド「ビジョン・ファンド」が含まれる。
これらの資産価値は、上場株の時価やソフトバンクによる未上場資産の評価を踏まえると2600億ドルに上る。6月末の純債務は450億ドルで、この17%に収まる。手元の現金は少なくとも2年間の社債返済資金をカバーしており、キャッシュフローは6月までの1年間の利払い額の2倍を超える。
だが、こうした指標で全ての状況が説明されたわけではない。まず初めに、傘下の携帯電話会社である米スプリントと日本のソフトバンク<9434.T>は、合計で約900億ドルを借り入れている。
法的に考えると、両社の債務は返済原資が限定されるノンリコース型なので、ソフトバンクグループは万が一の場合、債権者の追及を免れることができる。とはいえ、孫氏がスプリントとすっぱり手を切るとは想像しがたい。そんなことをすれば、ソフトバンクグループの資産価値の10%強が一気に消滅し、他の子会社による将来の借り入れがより難しくなる。
実際に孫氏は最近、ソフトバンクグループの資産価値を利用して、経営難に陥っている共有オフィス「ウィーワーク」を運営する米ウィーカンパニーの支援策を打ち出した。債権者は、資金繰りに窮している出資先企業への救済措置は、いわゆる「偶発債務(将来何らかの形で返済義務が生じる債務)」ではないかとみなす傾向にある。
ビジョン・ファンドは、配車サービスの米ウーバー・テクノロジーズなど赤字企業の株式を保有しているという面で、別の重荷も背負っている。
同ファンドの資本のうち約400億ドルは優先株の形になっており、サウジアラビアのパブリック・インベストメント・ファンドといった出資者に年間7%の配当を支払っている。優先株は厳密には債務ではないが、孫氏はソフトバンクグループの株主への利益還元よりも、優先株の配当をきっちりと行わなければならない。
また、ビジョン・ファンドは、一部投資案件について最大41億ドルを銀行から借り入れることができる契約に調印し、優先株の配当にも活用されている。その点でも資産価値が急落すれば、事態悪化に拍車が掛かる。
最後に、孫氏自身の問題がある。ブルームバーグの報道によると、同氏は個人的な借り入れの担保として、保有しているソフトバンク株180億ドル相当の38%を差し入れている。ビジョン・ファンドへの投資資金としてソフトバンクの幹部・社員に提供された総額50億ドルの融資のほとんども、孫氏向けだ。つまり孫氏とソフトバンクグループはともに、ビジョン・ファンドのパフォーマンスに命運が左右される側面が強まっている。
孫氏が定義する狭義の純債務で判断しても、ソフトバンクグループの借り入れ負担は、見た目よりも重い。公式に発表している総資産有利子負債比率(LTV)は、かさ上げされた資産が前提になっているのだ。
例えば、アリババの持ち分26%について、処分すれば最大で30%の税率が課せられてもおかしくないにもかかわらず、時価の1200億ドルのままで評価している、とバーンスタインのアナリストチームはみている。
株式市場の投資家は適切に、より懐疑的な見方をしており、ソフトバンクグループの時価総額は、債務を差し引いた後の総資産価値の38%程度に過ぎない。
ソフトバンクグループの今後の利払い能力も、見かけほど堅固ではない。6月までの1年間に傘下企業から受け取った現金は45億ドル前後で、約21億ドルの債務返済費用を十分に賄えた。
ただ、現金の出所は2つだけだ。1つ目はビジョン・ファンドからの資産管理手数料と半導体企業・エヌビディアなどの株式売却益の20億ドル。2つ目は携帯電話子会社・ソフトバンクが配当金として支払った25億ドルだ。
ウィーワークの上場中止でハイテク企業の新規株式公開(IPO)に対する需要が冷え込んだことから、ビジョン・ファンドからの現金納付はもはやほとんど当てにできない。
そこで孫氏が携帯電話子会社からの配当金だけに依存するようになれば、余裕は乏しくなる。6月までの1年間のソフトバンクグループの利払い費は、携帯電話子会社から受け取った配当金の82%に達するからだ。リフィニティブのデータに基づくと、ソフトバンクグループは、向こう3年間で債務返済予定額が140億ドルに急増するという逆風にも見舞われる。
では、孫氏は現金が必要になった場合、何ができるのか。良いニュースは、流動性のある資産に不自由はしないことだ。保有するアリババ株の4%を現在の価格で売れば、税率30%と仮定しても、来年から2022年までに満期が到来するソフトバンクグループの全社債の返済資金が確保できる。2016年に320億ドルで買ったアームなどの未上場資産を手放す方法もある。
悪いニュースは、やむを得ない形の資産売却が、売り手にとって満足のいく価格になるケースがほとんどないことだろう。ソフトバンクグループはアリババの圧倒的な大株主なので、売却に動けばアリババ株の需給自体を崩してしまう。
一方、資産価値が下落するのに伴って、借り入れによって投資を拡大するという孫氏の戦略が裏目に出てくるだろう。ソフトバンクグループの純債務は、企業価値のほぼ5分の2に上る。したがって保有資産の価値が20%目減りすれば、株価は33%程度下がるはずだ。その時点で、孫氏の巨大な投資マシーンは逆回転し始める。
●背景となるニュース
*ソフトバンクグループは6日に7─9月期決算を発表する。ブルームバーグは10月24日、ソフトバンクが傘下のビジョン・ファンドのウィーカンパニーやウーバー・テクノロジーズなどへの出資に絡んで最低50億ドルの評価損を計上する方針だと報じた。
*ソフトバンクグループの広報担当者はBreakingviewsに対して、総資産有利子負債比率(LTV)を安全な水準に保ち、適切なキャッシュポジションを維持し、子会社からの安定的な配当収入を確保して自社の財務上の安全性をしっかりと継続していくとの考えを示した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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