コラム:中国のリチウム囲い込みにチリが「黄信号」

コラム:中国のリチウム囲い込みにチリが「黄信号」
10月12日、充電して繰り返し使用できる電池の原料確保に向けた中国の戦略が、チリで黄信号に直面している。写真はチリ北部のSQMのリチウム生産場。2013年1月撮影(2018年 ロイター/Ivan Alvarado)
Clara Ferreira-Marques
[シンガポール 12日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 充電して繰り返し使用できる電池の原料確保に向けた中国の戦略が、チリで黄信号に直面している。
深セン証券取引所に上場している四川天斉リ業<002466.SZ>は、チリのリチウム生産大手SQMの株式約4分の1を41億ドル(約4590億円)で取得するため、チリの独占禁止当局との間で、商業的な機微に触れる情報へのアクセス制限を受けることに同意した。それでもまだ、売却に反対するSQMの株主側が買収計画をひっくり返す可能性が残っている。
リチウム業界で中国政府の存在感が増すにつれ、こうした買収計画は困難になる一方だろう。
過去10年間、産業サプライチェーンを固めるための中国の取り組みに並ぶ国はなかった。2011年のコモディティー高騰以降、西側の資源大手が一斉に投資を抑制したのに対し、中国の資源企業は、西側に追いつこうと投資を続けた。
だが、さまざまな鉱物に精力的に投資を続けてきたにもかかわらず、中国はまだ圧倒的優位に立ったわけではない。最近の電気自動車ブームが起きるまで資源大手がほとんど無視してきたリチウムの分野では、中国の成功はより確かなように見えていた。中国政府は、国内や、海外の鉱山、企業株式、そして鉱物の処理事業にも投資してきた。
四川天斉リ業がSQMの株式を取得する過程でチリの反トラストという異例の落とし穴に陥った原因の一端は、こうした中国政府の取り組みにもある。
銅生産依存からの脱却を目指すチリにとって当然、リチウムは重要だ。チリのリチウム埋蔵量は世界一とみられている。そして、SQMはリチウム生産最大手の一角で、米アルベマールなどのライバル企業と競争している。
アルベマールは、オーストラリアにある世界最大級のグリーンブッシュ鉱山で、すでに四川天斉リ業と提携している。
最終的には、四川天斉リ業に重要情報へのアクセス制限や経営幹部の派遣禁止、今後新たに契約を結ぶ場合は当局に報告することなどを盛り込んだ合意を結ぶことで、チリの独占禁止当局は納得した。
こうした合意は、四川天斉リ業側が「純粋に経済的な投資」と説明しているにせよ、投資規模から考えれば大きな制約だ。また、SQMの筆頭株主が起こした法的措置で売却が差し止められる可能性がまだ残っている。この筆頭株主自身も、2016年に四川天斉リ業と株式譲渡交渉を行った経緯がある。
結果がどうなるにせよ、今回の件は、日常使われる機械に必要な鉱物の確保に向けまい進する中国が味わった、異例の「後退」の一例となる。
中国によるリチウムとその処理事業の囲い込みは、今後関心を集める一方だろう。現段階では、リチウム価格の不安定さもあり、もっとゆっくりとしたアプローチを取るのも悪くないのではないか。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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