コラム:米中間選挙はドル買いか、市場を占う3つのシナリオ=山田修輔氏

コラム:米中間選挙はドル買いか、市場を占う3つのシナリオ=山田修輔氏
 10月18日、バンクオブアメリカ・メリルリンチのチーフ日本FX株式ストラテジスト、山田修輔氏は、11月6日の中間選挙がドル円と日本株の分水嶺になり得ると指摘。写真は米ペンシルバニア州の集会で演説するトランプ大統領。10月撮影(2018年 ロイター/Leah Millis)
山田修輔 バンクオブアメリカ・メリルリンチ チーフ日本FX株式ストラテジスト
[東京 18日] - 中間選挙まで3週間を切った米国では、熱を帯びた戦いが繰り広げられている。市場コンセンサスは共和党が上院の過半数を維持する一方、民主党が下院の共和党支配を切り崩し、過半数を奪取する構図である。
しかし選挙は水物であり、2016年大統領選の共和党完勝が金融市場に与えた衝撃は記憶に新しい。確実性を持った予見は不可能であるが、ここでは頭の体操として、選挙結果がマーケットに及ぼすシナリオ分析を提示したい。
筆者は11月6日の中間選挙がドル円と日本株の分水嶺になり得ると認識している。後段で詳述するが、今回は従来の中間選挙より意義深い政策的帰結をもたらす可能性を秘めている。共和党は減税と歳出削減、民主党は増税で賄う歳出増加と最低賃金引き上げを訴えており、経済政策の方向性が両党で相容れない。
民主党が上下両院の共和党支配を切り崩せば、政治的な行き詰まりと政策の不確実性が高まることが想定され、金融市場にとってはこれが焦点となる。特に民主党が完勝する展開となれば、米金利の利回り曲線はブルフラット化し、共和党が上下両院で過半数を維持した場合には、ベアスティープ化が予想される。
ドル円と日本株は米金利の水準とカーブの形状に対する感応度が高く、ブルフラット化局面ではドルとその他通貨のペアや他国の株式市場をアンダーパフォームし、ベアスティープ化局面ではアウトパフォームする傾向がある。日本株のセクター別の強弱も米金利変動に敏感で、ベアスティープ化は内需関連やディフェンシブ銘柄に対して不利に、金融、輸出関連、シクリカル銘柄に対して有利に働き、ブルフラット化局面では逆となる傾向にある。
そのため、共和党の完勝または民主党の完勝がはっきりした場合、ドル円と日本株が大きく反応する相場展開を想定したい。また、市場の焦点は依然として中間選挙に定まっておらず、世論調査次第だが、これから投票日に向けドル円の相場変動が上昇する可能性がある。
これまでは米2年債と10年債のカーブが7・四半期連続でベアフラット化しており、ドル円変動が抑制されがちな金利環境だったため、ベアスティープ化もしくはブルフラット化は、環境の変化を意味する。ドル円の国内需給は買い優勢であり、日本株の国内ファンダメンタルズは堅調であるため、共和党が完勝して利回曲線がベアスティープ化するシナリオでは、1ドル118円の可能性も開けてくる。ねじれ議会シナリオでは、米株高と金利低下が相殺し、日本市場の反応は限定的であろう。
ここからはシナリオごとに、日本市場への影響を分析したい。
●ねじれ議会なら影響は限定的
市場のコンセンサス通り民主党が下院で過半数を制し、共和党が上院支配を維持する「ねじれ」議会の場合、日本市場への影響は少なくとも当初は限定されそうだ。ここでは深入りしないが、トランプ政権のレームダック化と財政議論の難航が予想され、カナダ、メキシコとの新たな通商協定の承認にもリスクが残る。基本的に市場の反応は、下段で説明する民主党完勝シナリオの「抑制型」となろう。
米国債の利回り曲線が小幅にブルフラット化し、ドル円が多少下落することが想定されるが、米国株は「抑制と均衡」を生み出すねじれ議会を好感するとの可能性も一部で指摘されているため、日本株安は一時的なものにとどまる可能性がある。
●共和党完勝ならドル円上昇、リスクオン
共和党が上下両院で過半数を維持する展開は「サプライズ」となる。このシナリオでは、税制改革第2段への期待が高まりそうだ。個人所得税に対する減税の恒久化は上院可決に60票が必要な難関であるが、中所得層に対する減税など一部条項の恒久化で妥協する可能性は残り、他の税制優遇は時限措置により実現可能であろう。
医療保険制度改革(オバマケア)撤廃も再び議題に上がり、国防分野以外の財政支出削減策が、優先的に通過させる案件として採決される可能性があるが、これは減税の効果を一部相殺し得る。政府債務の上限に関しては、下院の保守強硬派「フリーダム・コーカス(自由議員連盟)」による多少の抵抗はあるだろうが、従来どおり解決が期待できる。
総じて短期的な総需要とインフレを、小幅であるが押し上げる公算が大きく、財政赤字は拡大するが抑制的だ。また、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ軌道に上振れリスクが生じるが、財政刺激策の効力が将来的に薄れれば、2020年の大統領選に向け景気が鈍化し、トランプ政権がFRBに強い圧力を掛ける可能性がある。
金融市場では政策や政治の不確実性の低下が最も重視され、財政赤字拡大が限定的との見方はドルにポジティブである。米国債の利回り曲線がベアスティープ化し、少なくとも短期的には米株も上昇し、ドル円と日本株双方が上昇する公算である。米金利上昇とドル高に対する新興国市場の反応は懸念材料だが、米国の政策に対する不確実性低下は、当初はリスクオンにつながる可能性が高い。
●民主党完勝ならドル安、ディフェンシブ銘柄がアウトパフォーム
民主党が上下両院を制した場合もサプライズとなる。トランプ大統領は民主党の議会運営に対し拒否権を行使する可能性が高い。大統領と民主党指導部の間で、政府機関の閉鎖を引き起こしかねない敵対的な攻防が予見出来る。大統領指名人事の議会承認の混乱も危惧される。一方、家族有給休暇法案に関しては、大統領の娘イバンカ氏が関わっているため、妥協可能であろう。
このシナリオにおける当社の経済見通しは、「ねじれ議会」の場合と大差ない。家族有給休暇法案の成立は労働供給増を意味し、目先の成長率及び潜在成長率をわずかに押し上げる。インターネット通販の台頭による供給ショックと相まってインフレ圧力を漸減させ、FRBは現状の緩慢な利上げ軌道を維持するだろう。
民主党は増税以上に財政支出拡大を目指しているため、共和党支配の議会よりも財政悪化懸念は高まるかもしれないが、当初は政策不確実性の高まりによるリスクオフで利回り曲線がブルフラット化し、ドル円と日本株は下落する公算である。株式は内需関連、ディフェンシブ銘柄が、金融、輸出関連、シクリカル銘柄を短期的にアウトパフォームするだろう。ただし、医薬品株については薬価引き下げのリスクが高まるため注意が必要だ。
<通商政策は不確実性はらむ>
最後に、中間選挙が米国の外交・通商政策に与える影響と、それが日本にもたらす意味を考察したい。
トランプ政権の対外強硬姿勢は、特に中国に対して日増しに顕著となっている。米国の動機は純粋な経済的利益にとどまらず、覇権国としての中国台頭を阻止する色合いが濃い。中国の対日強硬姿勢はオバマ前米政権による関与政策によって助長されていたと考えられ、高圧的なトランプ政権のもとでは、日中関係は選挙結果に関わらず改善するとみられる。
米国の通商外交政策については、2つの見方がある。共和党による議会支配が崩れた場合、トランプ大統領は内政で行き詰まるため、対外強硬姿勢を強めるとの見方。もう1つは、その場合、トランプ大統領は民主党の監視を受けるため、対外的な強硬姿勢が緩和されるとの見方だ。
米国の反グローバリズムは趨勢(すうせい)的潮流であり、今回の中間選挙の結果いかんで逆戻りするとは考えにくい。その前提に立てば、政策の不確実性が低下する共和党の完勝がリスク資産にプラスになるとの論理に落ち着く。
(本コラムは、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
*山田修輔氏はバンクオブアメリカ・メリルリンチのチーフ日本FX株式ストラテジスト。PIMCOをはじめとして米国の金融機関でマクロ経済、市場分析に従事し、2013年より現職。2005年マサチューセッツ工科大学(MIT)学士課程卒、2008年スタンフォード大学修士課程卒。CFA協会認定証券アナリスト。石川県小松市出身。
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編集:久保信博※

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