アングル:中国カフェ戦争、スタバに挑む急成長新興チェーン

Pei Li and Adam Jourdan
[北京/上海 24日 ロイター] - 銭治亜氏は、米コーヒーチェーン大手スターバックス(スタバ) の最大の悪夢となるのかもしれない。
42歳のこの起業家は、自分が最高経営責任者(CEO)を務める新興コーヒーチェーン「ラッキンコーヒー(瑞幸珈琲)」が、いずれ中国国内でスタバより多くの店舗を持つようになると宣言。その目標達成に向け、シンガポール政府投資公社(GIC)などの投資家から融資を取り付けた。
ラッキンは1月に正式に開業したばかりだが、すでに中国13都市に660店舗以上を構えている。安価な配達料金と、オンライン注文、大幅な割引や従業員への奨励金が、強気な成長計画を支えている。
中国に米国に次ぐ規模の3400店舗を構え、2022年までにそれを倍近くに増やす計画を掲げるスタバは、重要な時期にラッキンの攻勢を受けることになる。
またその攻勢の速さは、市場をひっくり返そうとするスタートアップに脅かされかねないという、中国国内に定着した他の消費者ブランドに対する警告にもなっていると、ブランドコンサルタントは言う。
スタバの株価は6月、前四半期の中国既存店売上高の伸びがゼロかそれ以下になったと同社が公表したことを受けて急落した。前年は、7%の増加だった。
スタバは、一部地域で近隣に新しくできたカフェに顧客の一部が流れたことや、配達会社を通じた注文の大幅減があったとしている。
スタバ側は競争の激化には言及しなかったが、投資家やアナリストは、ラッキンが脅威となっているのは明白だと話す。
その一方で、スタバはこれまでも世界各地でライバルの挑戦を受けてきたが、店舗の雰囲気やサービス、安定したコーヒーの品質を武器に、非常にたくましい回復力を見せてきているとも彼らは指摘する。
また、トランプ米政権が中国からの輸入製品に懲罰関税を課したことに抗議して、中国消費者が米国ブランドを避け始めたという兆候もない。
<大幅な割引>
ロイター記者は、スタバやラッキン、コスタ・コーヒーなどの店舗が入る商業施設、北京銀泰センターで、消費者30人に話を聞いた。その半数が、ラッキンでコーヒーを買ったことがあるとし、大半が良かったと答えた。ただ3分の2以上が、今でもスタバを第1に選ぶと話した。
取材に応じた人の大半が、コーヒーは店内または持ち帰り用に購入したと話し、配達してもらったと答えた人はわずかだった。配達に重点を置いたラッキンの戦略は、今後問題に直面するかもしれない。また、店を選ぶ際に重視するのは味と利便性、そして店の環境との回答が多く、価格重視との回答を上回った。
ラッキンの顧客は、アプリを使ってコーヒーを注文し、そのコーヒーが入れられる様子をライブ映像で確認し、自宅玄関まで平均18分で配達してもらえると、会社側は説明している。
レギュラーサイズのラテは、スタバのグランデサイズとほぼ同じ大きさで、価格は24元(約390円)。配達にさらに6元かかる。ただ、35元以上の注文で配達が無料になるほか、割引を使えば半額になる。スタバのグランデサイズのラテは、31元だ。
半数以上のラッキン店舗は、広いリラックスできる造りの店舗か、数席のみの持ち帰り主体の店舗で、残りは配達専門だ。
ラッキンの成長速度は目覚ましい。スタバは、同数の店舗を構えるようになるまでに約12年かかったが、ラッキンの成長過程は、配車サービス会社、滴滴出行(ディディ・チューシン)のように、市場を掌握するために資金をつぎ込み、結果として高評価を得るようになったテクノロジー企業の成長過程に相通じるものがある。
前職は配車サービスUcarの最高執行責任者(COO)だった銭CEOは、現段階でのラッキンの重点は、顧客獲得にあると話す。
「利益目標のタイムラインは持っていない」
北京の本社でその日3杯目のコーヒーをすすりながら、彼女はロイター記者に話した。
「私たちがいま気にしているのは、顧客の数、リピートしてくれているかどうか、ブランドが認知されているかどうか、そしてシェアを広げられるかどうかだ」
同社は今月、GICからの金額非公開の融資を含め、事業拡張資金2億ドル(約220億円)を獲得した。GICは、同社の企業価値を10億ドルと評価したという。
「将来は、スターバックスよりも多くの店舗を持つだろう」と、銭氏は宣言した。
今月の資金調達に参加した投資家の1人は、中国コーヒー業界に地殻変動が起きても不思議はないタイミングだと話す。
「国の消費レベルが上がるなか、このビジネスモデルは若い顧客に受けるだろう」と、プライベートエクィティ投資会社ウォーバーグ・ピンカス・パシフィックの前ヘッドを務めたデービッド・リー氏は言う。同氏は、自分が立ち上げた投資会社センチュリウム・キャピタルでラッキンの資金調達ラウンドを主導した。
オンライン注文や配達の仕組みだけを見ても、他のブランドを浮き足立たせるのに十分だと、米コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーのパートナーで、上海に拠点を置くブルーノ・ラネス氏は言う。
「大きな脅威だ。西側のブランドも関心を払うべきだ」と、ラネス氏は付け加えた。
<フラッシュモブ>
とはいえ、店舗コストや品質管理の必要性を考えれば、インターネットを利用したビジネスモデルはコーヒー業界に通用しないとみる人もいる。
「ラッキンが本当に顧客を囲い込んで、配車サービス市場に見られるような独占状態を築けるかどうかはまだ分からない」と、技術コンサルタント会社チャイナ・インターネット・データセンターのLiu Xingliang社長は言う。
北京で取材した顧客のなかには、ラッキンの今後の課題を指摘した人もいた。
広告業界で働くLiu Xuさん(23)は、ラッキンについて、通りすがりを装い突如集まる「フラッシュモブ」のようだと話す。好奇心からコーヒーを試してみたが、手で入れた、単一産地の豆を使ったコーヒーの方が好きだと言う。
学生のLian Yihengさん(22)は、ラッキンの割引や配達の便利さに魅力を感じるものの、長い目で見て顧客をひきつけるには、コーヒーの種類や店の内装を工夫する必要があると話した。
銭CEOは、店内でコーヒーを飲める店を増やし、配達専門店の割合を減らす方針だと話す。ロケーションや内装がより重要になるため、支出が増えることになる。コーヒーの品質については、店ではエチオピア産のアラビカ種を選んで使っていると説明した。
ラッキンの拡大と並行する形で、カナダのティム・ホートンズのようなスタバのライバル企業も中国市場に力を入れている。ティム・ホートンズは、今後10年で中国に1500店舗を展開する予定で、他の小規模な地域チェーン店も投資を加速させている。
中間所得層が拡大を続けるなか、中国のコーヒーチェーン店は小さな町にも進出。コンサルタント会社ミンテルによると、市場は年率5-7%のペースで成長している。
上海に8店舗を展開するダブル・ウィン・カフェのオーナー、Li Yibei氏は、ラッキンは市場にインパクトを及ぼすだろうが、それでもまだ十分なスペースがあると話す。
「彼ら(ラッキン)はスターバックスに一定の打撃となるだろうが、それでも熱心なスタバファンは多い。顧客を少しは奪えるかもしれないが、それほど多くはないだろう」と、彼女は話した。
スタバが中国で正式にオンライン注文に乗り出す可能性もある。
辞任を表明しているスタバのハワード・シュルツ執行会長は今月上海で、中国アリババの創業者、ジャック・マー氏は近しい友人だと発言。アリババ傘下のフードデリバリー会社「Ele.me(餓了麼)」と協力し、中国でオンライン配達サービスを開発する可能性に言及した。
シュルツ氏はまた、中国経済の減速は懸念していないと述べている。
「質の良いコーヒーと競争が市場に増えるにつれ、中国の人たちが良いコーヒーに接する機会も増える」と、シュルツ氏は指摘。
「市場に参入してくる新興プレーヤーは、実はスターバックスの利益になる」
(翻訳:山口香子、編集:伊藤典子)

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