アングル:大詰め迎えた英国のEU離脱交渉、残る争点は何か

アングル:大詰め迎えた英国のEU離脱交渉、残る争点は何か
10月23日、英国のEU離脱交渉を巡り、身内である保守党からの批判にさらされているメイ英首相は防戦一方だが、これまで見解に隔たりがあったアイルランド国境問題ではEUとの合意が近づいている可能性がある。ロンドンで9日撮影(2018年 ロイター/Simon Dawson)
Alastair Macdonald
[ブリュッセル 23日 ロイター] - 英国の欧州連合(EU)離脱交渉を巡り、身内である保守党からの批判にさらされているメイ英首相は防戦一方だが、これまで見解に隔たりがあったアイルランド国境問題ではEUとの合意が近づいている可能性がある。
主なポイントを整理した。
●合意は可能か
合意は近いとみられる。複数のEU外交官によると、双方の交渉担当者は10日前の時点で、交渉打開の手ごたえを感じたという。
障害となっているのは、北アイルランドとの国境の厳格な管理を避ける「バックストップ(安全策)」に関するEUの要求が、少なくとも現段階では議会で保守党などの同意を得られそうにない、というメイ首相の計算にありそうだ。
EUのバックストップ案は、EUと英国の将来的な通商関係に関する合意がまとまるまで、北アイルランドが特別な地位を与えられ、EU関税同盟にとどまるという内容だ
●問題点は何か
英国、EU双方とも、英領北アイルランドとEU加盟国であるアイルランドとの国境にハードボーダー(厳格な国境管理)を導入することは回避したい考えだ。税関検査も含めた厳格な国境管理は、英国支配に対する抗争が再燃しかねない。
EU離脱(ブレグジット)は物理的な税関検査導入を意味するものではない、と英国は主張している。一方でEUは、その可能性があると述べており、その回避策として、北アイルランドをEUの関税域内に残す条項を英国に飲ませようとしている。
メイ首相と北アイルランドの親英派は、英国本土と北アイルランドを分断するものだとしてこの案に反対しており、メイ首相は当面、英国全土を関税域内に残すことを認めるようEUに求めている。
●解決策はあるか
EUは、北アイルランドのみを関税域内にとどめるバックストップで合意したとしても、それが実際に発動されることはないと英国側に請け合おうとしてきた。こうした「保証」手段はこれまで単に、来年3月のブレグジットを円滑に進めるための離脱協定を今年締結する際に、EUと英国の政治的将来に関する宣言を出し、その中で税関検査を回避する方法を見つけると述べればよい、というものだった。
EU関係筋によると、EUは今月に入り、局面打開のための包括合意案として、こうした考えを離脱協定そのものに盛り込むことを提案し、自ら「レッドライン(譲れない一線)」としてきた点で妥協する構えを見せた。
EUはまた、離脱協定で定める移行期間を1年延長して2021年末までと定めることにより、ハードボーダーを回避して関税合意を成立させるために十分な時間的余裕を設けることも提案した。移行期間中は、現在の関税体制がそのまま継続される。また、バックストップを巡って協力体制を整える可能性もある。
●「落とし穴」はあるか
3つの落とし穴が考えられる。
まず、英国全土をEUの関税域内に残すというメイ首相によるバックストップ案について、本来は立ち遅れた小さな地域向けに考案された特例を、欧州3番目の経済大国である英国全域に適用させることで、不当に有利な結果を勝ち取ろうとする意図が隠されている、とEUは考えている。
仮に北アイルランド国境における税関検査回避で合意したとしても、EUはブレグジット後の交渉で、EU単一市場に対する英国のアクセスを制限するよう、厳しい交渉姿勢で臨むことになるだろう。
第2に、EUは依然、北アイルランドのみを関税域内に残すバックストップ案を要求している。EU側は今後、リスクを減らし、バックストップ運用について特別な合同メカニズムを提案する可能性がある。
だがそれでも、メイ首相には問題が残る。首相に協力的な北アイルランドの政治家は、来週投票が行われる予算案に反対票を投じると脅しており、保守党の党首選挙の可能性も取りざたされている。メイ首相は現段階で、EUの提案を受け入れる訳にはいかないだろう。
最後に、英国とEUが前出の包括合意案で合意すれば、英国は事実上、EUの関税同盟内に当面とどまることになる。これにより、他国との貿易協定交渉を進めるため、速やかに関税同盟を離脱すると宣言していたメイ首相に対して、改めて批判が集まる可能性がある。
「関税同盟残留ではない」とするメイ首相の弁明に対し、EUの交渉担当者は、言葉の上では寄り添ってみせるだろう、と外交関係者は言う。それでもメイ首相は、責任説明を求められることになるだろう。
●次のステップは何か
時がたてば分かるだろう。EU当局者は、メイ首相の国内対応を見極める構えで、12月まで最終合意を待つ用意がある。最終合意に至った場合、英議会と欧州議会の双方が批准する必要がある。
合意が12月からずれ込めば、来年3月29日に英国が混乱したままEUから離脱する「合意なきブレグジット」の現実味が一段と高まることになる。
(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

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