焦点:ティッシュやトレパ値上がりに拍車か、パルプ問題の深層

Richa Naidu and Martinne Geller
[シカゴ/ロンドン 31日 ロイター] - エスカレートする貿易戦争では、トイレットペーパーやティッシュまで槍玉に挙がっているが、品薄のリスクがあるのはプロクター&ギャンブル(P&G)の「チャーミン」など米国製品にとどまらない。
関税による価格上昇は、消費者向け製品を扱うメーカーにとって泣き面に蜂だ。ティッシュやおむつ、生理用品の主原料となるパルプのコストが上昇し、ただでさえ利益が圧迫されているためだ。
トイレットペーパーの「チャーミン」、ペーパータオルの「バウンティ」や「パフス」ティッシュを手掛ける米日用品大手P&Gは、これら3ブランドについて、平均5%の値上げを小売各社に通告したと31日に発表。同社は、おむつの「パンパース」についても、北米市場で平均4%の値上げを進めつつあると述べている。
米日用品大手キンバリー・クラークは、直近の四半期に「クリネックス」などティッシュ製品の価格を世界各国で2%引き上げる一方で、通年での予想利益を引き下げた。
ウッドチップや古紙を使って製造されるパルプは、ティッシュ製品の多くにとって唯一の原料であり、大半のおむつや生理用品でも部分的に使用されている。ユーカリ1本分のパルプからは、実に1000ロールのトイレットペーパーが製造できる。
ティッシュやトイレットペーパーの材料となる広葉樹パルプ価格は、2016年後半以来、約6割上昇していると、各国税関データに基づいて価格を追跡調査する紙パルプ製品評議会は指摘。おむつや生理用品に使われる針葉樹パルプ価格も同時期に21%上昇した。
「各社は製品価格を引上げざるを得ない。針葉樹パルプで21%、広葉樹パルプで60%も多く払うのであれば、誰かに転嫁しないことには事業存続は不可能だ」。同評議会のシニア・アナリスト、アルノー・フランコ氏はそう語る。
国際的パルプ不足の核心にあるのは、世界最大のパルプ消費国であり、しかも需要が最も急速に拡大している中国だ。
2016年には中国の景気減速により、パルプ価格は過去最低の水準にまで落ち込んだ。しかし翌年、中国経済が好転すると広葉樹、針葉樹パルプともに需要が増大。いくつかの大規模パルプ生産工場が予定外の閉鎖となったこともあって、市場は需要に応えきれなくなった。
さらに、中国は世界廃棄物の主要リサイク業者役を降りようとしており、2018年上半期における中国の古紙輸入量は、前年同期比52%減の710万トンにとどまった。中国による未分別古紙の輸入禁止措置が昨年末発動したことで、中国は包装に用いられる回収パルプを突如として大量に必要するようになったのである。
貿易摩擦が状況を一層複雑にしている。カナダは今年に入り、米国との貿易紛争の一環として、米国製ティッシュ、トイレットペーパー、ペーパータオルなど5億7500万ドル相当に関税をかけた。
中国からの輸入品2000億ドル相当に対して米国がさらに関税をかけるとの脅しを続けるならば、中国も報復関税で対抗する可能性が出てくる、と業界幹部らは懸念している。
もし中国がそのような対応を取り、同金額の米国製品に報復関税をかけるならば、約24億ドル相当に上る米国の中国向け紙パルプ製品 も対象になると、全米林産物製紙協会で国際貿易担当シニア・ディレクターを務めるジェイク・ハンデルスマン氏は予想する。
「われわれの産業にとって、中国は非常に重要な市場だ」とハンデルスマン氏。「これはとうてい歓迎できないニュースだ」
<波及効果>
パルプは、ペーパータオルなどの消費者向け製品の主原料というだけでなく、それを材料として作られる梱包材料は、多くの企業が使っている。紙製品の生産出荷コストが増大する中で、消費者は、ティッシュや生理用品など日用品の支出負担が増大するリスクに直面する。
ニールセンのデータを投資運用会社バーンスタインが分析したところ、今年すでに、米国消費者のあいだではこれらの製品に対する支出が増大しているという。
結局のところ、消費者が支払う価格は、幅広い製品の価格バランスを決める小売業者次第となる。そのため、メーカーが転嫁したコストがそのまま価格に反映されるとは限らない。例えば、小売業者はおむつの値上げを防ぐためにペーパータオルの価格を引き上げるかもしれない。
そのため、P&Gは6月、「パルプ調達コストは上昇しているが、自社製品の値上げは回避している」と語っていが、米国の消費者が小売店で「チャーミン」に払う価格は今年に入り上昇している。米国における同製品の平均小売価格は、7月中旬までの1カ月間で6.4%上昇したことが、バーンスタインによるデータ分析によって明らかになった。
同様に、ペーパータオル「バウンティ」の小売価格は約6カ月前から上昇しているが、「パフス」ティッシュの小売価格は今年は下落か横ばいだ。P&Gはニールセンのデータについてコメントしなかった。
「パルプは広く普及している。パルプ価格が変動すると、いわば水まき用ホースのなかをゴルフボールが通るように、業界のコスト構造全体に影響が生じる」。アリックスパートナーズで消費者向け製品担当コンサルタントを務めるデビッド・ガーフィールド氏はそう指摘する。
スウェーデンに本拠を置くエシティの場合、消費者向けティッシュ製品におけるコストの25%をパルプが占めている。柔らかさを出すために再生パルプではなく、バージン・パルプにほとんど頼っているためだ。
同社のパルプ調達コストが前年比で35%も急騰したため、第2四半期には、消費者向けティッシュ部門が想定していた営業利益の半分近くを食いつぶしてしまったという。
「1年前には、パルプ価格上昇はおそらく一時的なものにすぎないとの見方も業界内にあった」とエシティのマグナス・グロス最高経営責任者(CEO)はロイターに語った。「今では誰もそんなことを信じていない」
(翻訳:エァクレーレン)

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