焦点:欧州向け米LNG輸出、トランプ氏の皮算用に現実の壁

焦点:欧州向け米LNG輸出、トランプ氏の皮算用に現実の壁
 7月26日、トランプ米大統領(写真)は欧州連合に米国産の液化天然ガス(LNG)を大量に輸出することでEU幹部と合意したが、その実現性には疑問も残る。写真はアイオワに向かう大統領専用機に乗り込む同大統領(2018年 ロイター/Joshua Roberts)046F0
[フランクフルト/ロンドン 26日 ロイター] - トランプ米大統領は欧州連合(EU)に米国産の液化天然ガス(LNG)を大量に輸出することでEU幹部と合意したが、その実現性には疑問も残る。
トランプ氏は25日にユンケル欧州委員長と会談した後、EUが直ちに米国産の大豆と「大量の」LNGを購入し始めることに合意した、とツイッターに投稿した。
ユンケル委員長は、EUが米国産LNGを処理するために新たなターミナルを建設する意向を示した。
これで大規模なLNG輸出の取引が成立したように見える。しかし現在、欧州の既存LNG輸入施設の4分の3は空っぽだが、米国産LNGへの需要は限られているのが実情だ。
米国産LNGにとって最も儲けの大きい市場は中南米、インド、極東。欧州はパイプライン経由でロシアとノルウェーから比較的安価な天然ガスが潤沢に供給されているため、米国産LNGの市場としては最下位近くに位置する。
英蘭系石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルのベン・ファンブールデン最高経営責任者(CEO)は26日、欧州が米国産LNGを買うのは国際的な天然ガス価格に鑑みて「妥当な裁定機会がある場合に限られる」との見方を示した。
政治家は国際価格にほとんど影響を及ぼせない。EUは米国産LNGに関税をかけていないため、輸入拡大のために関税を引き下げるという選択肢はない。
欧州は北海、オランダ、ドイツ、ノルウェーでの天然ガス生産が減少しているため、ロシア産天然ガス、そして場合によっては米国産LNGを輸入する余地は確かに増えている。
国際エネルギー機関(IEA)の試算では、EUのガス生産は2040年までに半減し、輸入依存度は2016年の71%から84%に拡大する見通しだ。ただ、再生可能エネルギーが予想以上に早く拡大し、エネルギー効率も高まるようなら天然ガス需要は抑えられる。
多くの欧州企業が既に、米国で進行中のプロジェクトからLNGを購入する計画を発表している。
ポルトガルのガルプ、イタリアのエディソン、英BP、シェルはいずれも、ベンチャー・グローバルがルイジアナ州で計画しているカルカシューパス・プロジェクトからのLNG輸入に備えて待機している。
しかし、この案件を含む米プロジェクトの完成には数年を要する上、その時点で中国など、より実入りの良い市場が台頭していれば欧州向けに輸出される保証はない。
米国からのLNG輸入を増やすことのメリットは、買い手が売り手の承認を得ず、世界中でより高く買ってくれる相手に転売できる点にある。
ドイツ公益大手EnBWのトーマス・クスタラー最高財務責任者(CFO)は26日、米国産LNGが他の地域産よりも安くなれば購入を考えると述べた。
またアナリストによると、LNG購入先の選択肢を増やすことは欧州にとって、ロシアから高値を吹っかけられるのを避ける上で役に立つ。オーロラ・エネルギー・リサーチ(ベルリン)のハンス・ケーニッヒ氏は「LNGは欧州にとって価値ある選択肢だ。交渉力が生まれる可能性がある」と述べた。
(Vera Eckert記者 Oleg Vukmanovic記者 Sabina Zawadzki記者)

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