コラム:変わる旅のかたち、コロナ後も需要回復に長い道のり

コラム:変わる旅のかたち、コロナ後も需要回復に長い道のり
ワクチンや治療薬が開発されて新型コロナが終息すれば、旅行に出掛けたくてうずうずしていた世界の人たちは再び、ほぼまっしぐらにサムソナイトのスーツケースに飛びつくだろう。しかし、旅のかたちは大きく変わりそうだ。写真は飛行機の窓から眺めたベトナムのフーコック島。ベトナム政府による封鎖措置が緩和された後の5月8日撮影(2020年 ロイター/James Pearson)
Sharon Lam
[香港 19日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 「旅はそれ自体が目的だ」という言い回しがこれほど真実味を帯びたことはない。
旅行業はこれまでも世界的な危機の後に、しぶとく回復できることを証明してきた。だから、ひとたび新型コロナウイルス感染症のワクチンや治療法が見つかれば、旅行に出掛けたくてうずうずしていた世界の人たちは再び、ほぼまっしぐらにサムソナイトのスーツケースに飛び付いて支度を詰め込むことが示唆される。ただし、健康検査と法人旅客には顕著な変化が起きる可能性が高い。
新型コロナの影響が長引くのは疑いようがない。旅行習慣の何らかの変化を堪え忍ばなければならないと懸念している者として、長期投資手法で名高い米有力投資家ウォーレン・バフェット氏のことを考えてみよう。同氏の投資会社バークシャー・ハサウェイはコロナ危機の中で、米航空大手4社の大量の持ち株を手放した。
こうした懸念はもっともだ。モルガン・スタンレーの調査によると、2011年9月11日の米同時多発テロ後、北米の旅客が元に戻るのに2年近くかかった。国連世界観光機関(UNWTO)によると、世界の泊まりがけの外国旅行数は今年、昨年から20-30%減少する見通し。収入ベースでは合計で最大4500億ドル(約48兆6000億円)減収になる可能性がある。09年の世界金融危機後の減収はわずか4%だった。
旅行者はまずは自宅近くを選ぶだろう。旅客運航が休止し国境が閉鎖されている状況では、旅行するとしても、多くの地域で例えば国内を車で回るほうが自然だ。より大型の休暇を計画するのは人気の観光場所が再開されてからだ。ディズニーのテーマパークやほかの多くの主要な商業施設が閉鎖されていては、すぐに旅に出ようというインセンティブは乏しい。
しかし、いつかは航空会社やホテルやオンライン予約サイトが、そそられる割引サービスで、閉じ込められていた消費者を引きつけ始められるはずだ。
ただ、結果的に旅行コストは上昇するだろう。航空会社が予想する費用構造の変化は長引く可能性がある。
たった1人の搭乗者が靴を使った爆破テロを試みただけで、全員が搭乗前に靴を脱いで検査を受けなければならなくなったように、新型コロナウイルスはマスク着用の空の旅の時代を開く可能性が高い。検温、機内の重点消毒や新たな搭乗手続きの導入など、すべてが手間と時間を増やし、お金を吸い上げる。
米格安航空のサウスウエスト航空の経営者が表明したごとく、当面は多くの中央部の座席が空席にされ、航空会社はさらなる業績見直しを迫られる。国際航空運送協会(IATA)によると、航空会社が営業損益をトントンにするには座席の約77%が埋まる必要がある。
一部の到着地はほかよりもうまくいくかもしれない。スイスやニュージーランドといった保険医療システムが進んだ国は、魅力度が高まるだろうし、そうしたことはさらに政府の景気対策費を一段の改善に振り向けるインセンティブに働く。
少なくとも一部旅行者は既に次の旅行日程を考えている。例えば苦境に陥ったクルーザー運営会社のカーニバルによると、利用者の半分近くは旅行中止で返金を求めるのではなく、次の航海に回すことを選んだという。カーニバルは今年8月に一部運航を再開することを計画している。
ネット旅行予約のエクスペディアなどは業績見通しを撤回したし、デルタ航空のバスティアン最高経営責任者(CEO)は回復に2-3年かかるとの見通しを示している。それにもかかわらず、こうした業界にはいくらかの前向きな兆しがある。
中国のネット旅行予約最大手トリップ・ドット・コムは国内の予約が急増している。5月は10代や20代の若者が同社の回復のスタートを引っ張っている。つまり、新型コロナリスクをそれほど恐れない世代がコロナ後の観光業の先導役になることを示唆している。
アイルランドの格安航空ライアンエアなど、コスト構造がより柔軟な一部航空会社も新型コロナ危機をうまく乗り切れるかもしれない。それでも業界再編の進行は必要だし、それが認められる可能性がある。
一方で人の移動はより困難になるだろう。将来の感染を恐れる国々は国境管理を厳格にし、不要不急な旅行の審査範囲を広げるかもしない。
レジャー旅行も面倒になりがちだ。免疫獲得証明書がパスポート並みに不可欠になり得る。UBSによると、世界の航空需要の伸びは鈍化して2028年まで年4.6%にとどまり、コロナ危機前の推定5.1%を下回る。
ビジネス出張は特にぜい弱に見える。業界の試算によると、そうした経費は22年までに世界で1兆7000億ドルに達すると見込まれていた。しかし、深刻な懸念を示す実例が出てきている。最近2人の投資家が、アメリカン・エキスプレスが半額出資する法人旅行サービス会社の株式を取得する提案を撤回した。
新型コロナ危機が終息するまでに、企業はリモートワークにさらに習熟するだろう。顧客とはファーストクラスの航空券や無駄な会議ではなく、テレビ会議で会うようになり、うまくコスト削減ができるようになる。ビジネス出張市場は5%程度の小幅な落ち込みでも、それが長期化すれば、多くの事業戦略を覆す。ひどい打撃を被っている旅行業界にとって、出張は最も傷の回復が遅れる分野になるだろう。
●背景となるニュース
*国連世界観光機関(UNWTO)によると、世界の国際旅行数は今年、前年比20-30%減少する見込み。収入総額の落ち込みは3000億-4500億ドルと、昨年(1兆5000億ドル)のほぼ3分の1に相当する。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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