コラム:米経済に赤信号、貯蓄率低下でリセッション突入か

Jamie McGeever
[ロンドン 13日 ロイター] - 急速な技術の進歩が、米国経済に新たなパラダイムシフトをもたらしている。失業率は過去数十年で最低水準にあり、企業債務は増え、インフレ率は落ち着いている。さらに、成長率はそれほど高くないにせよ、景気拡大局面は記録的な長さとなっている。
こうした成長の大半を支えているのは個人の消費支出だが、それは所得増ではなく、借金の増大や、歴史的水準にまで落ち込んだ貯蓄の取り崩しによって賄われている──。
これらは米国経済の現状だが、2000年7月時点の経済状況とも一致する。その当時、経済学者ワイン・ゴッドリー氏は英誌「ロンドン・レビュー・オブ・ブックス」の中で、砂上の楼閣は今にも崩れ落ちそうだと警鐘を鳴らした。
結局のところ、ITバブルの崩壊プロセスが当時すでに始まっており、消費者が身構える中、翌年には正式に景気後退(リセッション)に突入した。
18年前のゴッドリー氏による警告、特に、もし消費者が再び貯蓄を始めた場合、経済成長に「すさまじい」影響を与えかねないという警鐘を、いまや肝に銘じるべきだ。米国経済の約7割を支える消費者が、いつまで貯蓄をすり減らして支出し続けられるだろうか。
国際通貨基金(IMF)は今月、1961年以降の米家計貯蓄率に関する報告書を公表した。現在の米貯蓄率は約2.5%で、2008年に起きた金融危機以前の歴史的低水準である約2%に近づいている。
英国も同様で、現在の貯蓄率は5.3%だが、昨年記録した54年ぶり低水準の3.9%に近づいている。
米国では1961年以降、リセッションに入る前には貯蓄率が記録的な低水準に達している。例外は1973─75年と1981─82年だが、後者のリセッション時以前の貯蓄率は、それ以前のリセッションの直前時点よりも低かった。
「この問題は、米国消費と国内総生産(GDP)成長率、金融市場の安定、対外不均衡の見通しと関係する」と、IMF報告書の作成者2人は記している。
<列車事故にまっしぐらか>
貯蓄率低下の裏返しは借金の増加だ。住宅市場は危機から回復し、ウォール街は活気づいており、資産価格の上昇を担保にローンを組むことを消費者に勧めている。
貯蓄率はそれ自体が平均比率であり、たとえ所得の伸びが弱くても、消費支出のほとんどは国民全体の10%にあたる最富裕層によって動かされているという事実を覆い隠している。
IMF報告書の作成者は、金融危機以降、米国の消費者行動に構造的変化は見られないと指摘する。すなわち、数年の倹約を経て、米消費者は、借金を増やし、貯蓄を減らして消費し続けるという元の姿に戻ったということだ。
同報告書は、サマーズ元米財務長官が提唱した「長期停滞論」に疑問を投げかけている。サマーズ氏は、経済低迷は主に、実質的、構造的な貯蓄増加が原因だと主張する。そのような貯蓄の増加は、投資減少とあいまって、金利を低く抑え続けていると。
しかし、IMF報告書の作成者は、貯蓄がさらに減少すると見込まれ、金融危機以前の低水準にまで戻る可能性があると指摘している。資産市場が上昇し続け、消費者の純資産を増やし、彼らに借金してもっと消費するよう促すとすれば、これは現実味を増す。
これは、すでに米国史上2番目に長い景気拡大を、さらに延長させることになる一方、経常赤字に「ネガティブな圧力」をかけることになり、成長の足を引っ張る要因となる。
ゴッドリー氏が2000年に指摘したように、消費者の貯蓄を、株式相場のパフォーマンスや経済一般から解き放すことは困難である。その接着剤である株価の上昇を当てにすることは危険な賭けと言える。
「株式相場が上昇する限り、全て順風満帆だ」とゴッドリー氏。「長期的に、収入に対する借金の割合が高まることはあっても、それが永遠に続くことはあり得ない」
もし消費者が貯蓄を増やそうと決意すれば、米国経済とウォール街は共に直撃を受けかねない。
「リセッション、あるいは長期的な景気低迷となれば、株式相場が暴落するのは想像に難くない。そうなれば、状況は飛躍的に悪化する」とゴッドリー氏は記していた。
ダウ平均株価とS&P500種は共に、1月後半以降、最高値更新に近づきながらもまだ達成していない。ナスダックは今月、最高値を更新した。差し当たり、金融市場と米国経済は共に順調なようだ。
したがって、消費者は消費し続け、貯蓄率は一段と下がる可能性がある。だが、その程度については議論の余地がある。
「金利上昇、貯蓄低下、低所得あるいは所得低下、高水準の企業債務といった毒の山盛りは、列車事故が起きるのを待っているようなものだ」と、マクロ経済学者のネットワークである英PRIMEのディレクター、アン・ペティフォー氏は語った。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab

Opinions expressed are those of the author. They do not reflect the views of Reuters News, which, under the Trust Principles, is committed to integrity, independence, and freedom from bias.