焦点:債券ブーム終焉か、米国債市場で7割超が「額面割れ」

焦点:債券ブーム終焉か、米国債市場の7割超が「額面割れ」
 7月9日、米国債市場は今、実に銘柄全体の75%で価格が額面を割り込んでいる。ニューヨーク証券取引所で6日撮影(2018年 ロイター/Brendan McDermid)
Kate Duguid
[ニューヨーク 9日 ロイター] - 米国債の相場が天井近くにあった2016年8月に発行された10年債は、取引開始直後からずっと値下がりが続いており、持ち直しの兆しは見えない。
これはほんの一例で、米国債市場は今、実に銘柄全体の75%で価格が額面を割り込んでいる。
16年8月発行の10年債の場合、入札時の需要こそ強かったものの、流通市場にデビューするや否や、売られ始めた。折しも当時は、長期金利が過去最低を更新してからほぼ1カ月が経過していた。足元の価格は額面未満で、利回りは2.833%と、発行時点で過去最低だった1.50%の表面利率のほぼ2倍に達し、これまでの総リターンは約8%のマイナスだ。
価格が反発しない限り、30年前の強気相場突入以降で初めて投資家がずっと損失を被り続ける事態になりかねない。
過去20年を振り返ると、米国債市場で額面割れの銘柄が半分を超えると、常に「救いの手」が差し伸べられてきたことが、ICEバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ米国債指数の動きから分かる。つまりそうした局面は米連邦準備理事会(FRB)の利上げサイクルのピークと一致し、その後金融緩和がやってきたからだ。
今回はどうだろうか。
フェデレーテッド・インベスターズのマルチセクター戦略グループ責任者兼シニア・ポートフォリオ・マネジャー、ドナルド・エレンバーガー氏は「市場は現在が買い場かどうか見極めようとしている」と話すが、どうやら押し目買いのチャンスではなく、弱気市場が到来したシグナルが発せられている可能性がある。
その第一の理由としてPNCファイナンシャル・サービシズ・グループの共同チーフ投資ストラテジスト、ジェフ・ミルズ氏は、額面割れ銘柄の割合がこれほど高くなったことは、1980年代半ばにデータ集計を始めてから例がない点を挙げる。
これは世界金融危機後、超低金利下で米国債が発行される時期が長く続いた結果だ。
こうした既発債(オフザラン銘柄)は、新発債と同等のリターンを提供するために大幅に取引価格が切り下がっている。一方、額面割れ銘柄が非常に多くなり、それらに対する投資家の人気が低調なことが、米国債市場全体の流動性を圧迫している面も出てきている。
次の理由は、FRBが15年12月に開始した利上げをさらに進めるとの観測が広がっていることだ。物価上昇率が12年以降初めてFRBの目標に到達し、米経済成長がなお力強いことから、市場は年内にあと2回利上げがあると予想する。
そして最後に一部の投資家は、数十年に一度という規模の需給構造変化が米国債の取引をより困難にして、価格に悪影響を及ぼす恐れがあるとみている。
具体的に見ると、FRBが金融危機の際に債券購入によって4兆ドルまで積み上がったバランスシート縮小に乗り出す中で、財務省は昨年12月にトランプ大統領が署名した1兆5000億ドル規模の減税の財源確保のために借り入れを拡大しつつある。
JPモルガンの試算では、今年の国債発行額は1兆3000億ドルに膨らむものの、こうした供給を吸収できるほどの需要が存在するのかどうかは分からない。
新規供給の急増により、既発債は大幅なディスカウントでも買い手を見つけるのに苦労する事態になってもおかしくない。新発債と既発債の利回りスプレッドの差は開いており、市場の流動性を巡る懸念の高まりがうかがえる。
14兆5000億ドル規模の米国債市場の98%を占めるのが既発債だが、1日の出来高における比率は33%程度にすぎない。こうした不人気ぶりから、既発債の利回りにはプレミアムが乗せられ、ほとんどの銘柄でプレミアムが拡大してきている。
例えば残存2年物のプレミアムは年初時点ではマイナスだったのに、1月5日以降で0.68ベーシスポイント(bp)上がって、今月6日に0.58bpとなった。
流動性懸念が米国債市場全般に広がってしまうと、米政府の借り入れコストを押し上げる事態も起こり得る。
まだそれが現実化したわけではなく、米国債と代替可能な投資承認が存在しない以上、国内外で引き続き需要は堅調だと一部のアナリストは主張する。それでも市場は既に流動性が低下しているとの声も聞かれる。
プルデンシャル・ファイナンシャルの資産運用部門PGIMフィクスト・インカムのシニア・ポートフォリオ・マネジャー、グレゴリー・ピーターズ氏は「過去の体験と比較すれば、世界で最も厚みがある(米国債)市場と言えども、取引はより困難になりつつある」と述べた。

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