焦点:2000億ドル規模の貿易戦争、低成長の日本には大ダメージ

[東京 11日 ロイター] - 米中貿易戦争への警戒感が再び燃え上り、金融市場はリスク回避ムードに包まれている。米国が2000億ドル相当の中国製品に10%の追加関税を適用する方針を表明。中国側の報復措置はまだ示されていないが、同等の対抗策が講じられれば影響は大きい。経済が堅調な米国への打撃は限定的としても、低成長の日本には大きなダメージとなりそうだ。
<好調米経済は影響限定的>
「水を差された」(邦銀)──。貿易戦争への警戒感から世界的な株安が前週まで進んでいたが、前週末6日に米中両国が340億ドル相当の製品に対し25%の関税適用を予定通り実施。いったんの悪材料出尽くし感が広がり、株価が反発し始めた矢先だった。
米政権は日本時間11日早朝、追加で2000億ドル相当の中国製品に10%の関税を適用する方針を表明。円高は限定的だったが、日経平均は一時450円安まで下げ幅を広げ、今週前半の上昇幅を帳消しにしようとしている。
すでに6月18日にトランプ米大統領が、2000億ドル規模の中国製品に対し、10%の追加関税を課すと警告しており、内容は予想外というわけではない。しかし、「少なくとも今週は何もないだろう」(同)との期待は裏切られ、正に貿易戦争へとエスカレートする懸念が市場の雰囲気を暗くしている。
もっとも米国から中国への輸出額は2017年で1303億ドル。2000億ドル規模の追加関税に対抗する枠はない。中国は関税率を高めたり、中国企業への出資を制限するなど、別な措置で対抗すると予想されている。
ただ、トータル2000億ドル程度の影響度であれば、米経済にとっては、それほど大きな規模ではない。
日本総研調査部の副主任研究員、井上肇氏の試算では、間接的な効果を含めても米国にとって0.3─0.4%のGDP(国内総生産)押し下げ効果にとどまる。米経済は今年、減税など政策効果で年率3%近い成長が予想されており、影響は限定的だ。
先行きの不透明感は漂うが「中間選挙を控えているトランプ大統領に景気を腰折れさせる動機はない」(日興アセットマネジメントのチーフ・ストラテジスト、神山直樹氏)ともいえる。
<日本は成長率の4分の1喪失も>
しかし、2000億ドルのインパクトを吸収できるのも、GDPの規模が20兆ドル(約2200兆円)を超える米国経済なればこそ。間接的としても経済的なインパクトは小さな国になればなるほど大きくなる。
日本のGDPは約500兆円と米国の約4分の1。成長率も今年が1%前半と、米国の3分の1程度だ。特に中国から米国への輸出が減少すれば、中国を最大の輸出先とする日本が受ける影響は大きい。中国から米国への輸出製品に使われる部品などを日本は輸出しているためだ。
シティグループ証券・チーフエコノミストの村嶋帰一氏の試算では、日本の対中輸出と、中国の対米輸出の36カ月相関は、世界金融危機前の0.8(1.0が完全連動)に迫る0.6超まで上昇。「日本の輸出や生産が、米中貿易摩擦の影響を受けやすくなっていることを示唆している」という。
村嶋氏によると、関税と報復措置で米国の対中貿易赤字が500億ドル減少すれば、日本の中国への輸出減少や設備投資の抑制などを通じて、日本のGDPは0.27%押し下げられる。経済協力開発機構(OECD)の予想では、日本の成長率は今年、来年とも1.2%。約4分の1が吹き飛ぶ計算だ。
<軟調だった安川電の株価>
貿易戦争による米経済への影響度が大きくないことは、日本にとっても朗報だ。11日の日本株が下げ渋ったのは円高が進まなかったことが大きい。
「米国の成長率押し下げが限定的であれば、FRB(米連邦準備理事会)の利上げスケジュールに変更はないだろう」(三井住友銀行チーフ・マーケット・エコノミストの森谷亨氏)とみられていることが、ドル/円を下支えている1つの要因だ。
ただ、市場の警戒感も強い。11日の東京株式市場で、目立ったのは、あす12日に第1四半期(3─5月)決算発表を予定している安川電機<6506.T>のさえない株価だった。「現時点では業績に影響が出てないとしても、中国需要の先行きに市場の警戒感が高まっていることを示している」(国内証券)という。
ミョウジョウ・アセット・マネジメントのCEO、菊池真氏は「日本株の場合は、中国の依存度が相対的に高い。結果的に日経平均やTOPIXは下げが大きくなる」と指摘。FA(工場の自動化)などの中国関連銘柄だけでなく、日本株全体のエクスポージャーを落とす動きが強まれば、中国と関係のない銘柄であっても、一緒になって外される可能性が高いと話している。
今月から始まる3月期企業の第1・四半期決算発表。現時点の業績修正は少ないとみられているが、企業経営者のマインドが冷え込み始めていないか、コメントなどをいつも以上に注視することになりそうだ。
(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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