焦点:低調な足元の世界経済成長、踊り場か本格的な減速か

焦点:低調な足元の世界経済成長、踊り場か本格的な減速か
4月25日、各地域同時の拡大という色彩が過去10年で最も強い世界経済が、過熱に向かうのではないかとの見方が今年初めの金融市場で広がっていた。写真はニューヨーク証券取引所で18日撮影(2018年 ロイター/Brendan McDermid)
[ロンドン 25日 ロイター] - 各地域同時の拡大という色彩が過去10年で最も強い世界経済が、過熱に向かうのではないかとの見方が今年初めの金融市場で広がっていた。ところがふたを開けて見れば、成長ペースは思ったよりも低調なことが判明している。
世間を騒がせているのはシリアへのミサイル攻撃や世界的な貿易戦争の懸念だが、これまで政治リスクを重視せずに力強い経済成長と企業利益の増加に注目し続けてきた投資家にとっては、特に欧州で予想外に景気の勢いが失われている事態こそが驚くべき材料だった。
第1・四半期のさえない動きが単に踊り場で再び上向くのか、あるいは景気減速が進行しているかを判断中の市場には、最近の原油高や物価上昇もさらに重くのしかかってくるかもしれない。
ピクテ・アセット・マネジメントのチーフストラテジスト、ルカ・パオリーニ氏は「この1年半で初めて、市場は成長のモメンタムに守られた状況ではなくなっている。景気拡大の幕切れの始まりと言えるだけの証拠はまだないとはいえ、ファンダメンタルズに目を向ければ、昨年と比べて悪化しているのは疑いようがない」と話した。
国際通貨基金(IMF)は今年と来年の世界経済は3.9%としっかりした成長を保つと予想している。ただ先週、貿易摩擦ないし米減税の効果減衰がもたらすリスクに警鐘も鳴らした。
今週発表されたデータでは、ユーロ圏の企業景況感が4月に一段と悪化し、ドイツ当局は企業信頼感が1年余りぶりの低水準に沈んだことを受けて、成長率見通しを引き下げた。
27日に米商務省が発表する第1・四半期国内総生産(GDP)速報値は、最新のロイター調査で2.2%増の予想。3月時点の2.6%から下振れしている。
企業からも例えば米重機大手キャタピラーは24日、第1・四半期の予想を超えた利益と売上高が、恐らくは今年全体のピークになると警告するなど、先行きを懸念する声が聞かれる。
ブラックロックのグローバル・チーフ投資ストラテジスト、リチャード・ターニル氏は顧客に株価の好調が続くとの見通しを示しながらも、経済成長が期待を上回る余地が低下していることもあり、昨年に比べて投資リターンが減り、ボラティリティは高まるとくぎを刺した。
<フラット化の意味>
欧州の購買担当者景気指数(PMI)以外に、成長を巡る懸念が顕在化している分野はあるのだろうか。
その面で最も分かりやすいのは、欧米国債市場のイールドカーブではないだろうか。ひたすらフラット化しているイールドカーブの動きは、成長を巡る悲観論の高まりを示すかなり信頼できる指標だ。
足元の原油高に伴うインフレ懸念が長期債利回りを押し上げた関係で、少し前に比べるとフラット化の度合いはやや後退したものの、米国債の2年─30年利回りスプレッドは、今年の最高水準をなお30ベーシスポイント(bp)程度下回っている。
ピクテのパオリーニ氏は「イールドカーブが他の指標と異なるメッセージを発信しているとは思わない。この先1年から2年は(経済成長について)慎重になるのが妥当だと伝えている」と述べた。
輸出動向を探る目安となるバルチック海運指数は今月、8カ月ぶりの低水準を記録。景気に連動する銅の価格も、昨年終盤に付けた4年ぶりの高値から軟化している。
シティが算出する経済指標の予想と実績のかい離を指数化したエコノミック・サプライズ指数(指標が下振れすると低下)は、昨年末に7年半ぶりの高水準となった後、マイナス圏に陥った。
米国株式市場では3月半ば以降、通信や公益といったいわゆるディフェンシブ銘柄がハイテクなどの景気敏感株をアウトパフォームしている、とモルガン・スタンレーのアナリストチームは先週分析した。
景気下振れ局面で堅調に推移する傾向があるディフェンシブ銘柄の成績が良いことについて、モルガン・スタンレーは顧客に「経済成長が今のサイクルでピークに達し、これ以上加速しない公算が大きい」という意味かもしれないと説明している。
<季節性の問題>
もっとも市場が事態を読み違えていることはないだろうか。
世界経済の成長は年初時点から鈍化したとはいえ、力強い拡大局面はまだ続くとの意見は依然として大勢を占めている。北半球の冬が長く厳しかったことや、冬や復活祭と中国の春節(旧正月)が例年より早まった影響を統計上でうまく処理できなかったため、成長のスピードダウンにつながった可能性もある。
バークレイズは、第1・四半期に米国の成長率が勢いをなくしたと認め、見通しも引き下げたが、季節性が統計に残った面があったとみている。同行によると、米商務省経済分析局は季節要因を考慮して統計算出方法を改定してきているとはいえ、毎年第1・四半期の成長が弱含み、その後経済活動が上向いている。
欧州でも厳冬や復活祭時期の移動などが軟調なデータをもたらした、というのがアナリストの見方だ。
これに対してドイツ銀行のセバスチャン・レドラー氏ら一部の専門家は、PMIが特にユーロ圏で昨年終盤以降、過度に楽観的に傾いたと考えている。
レドラー氏は「PMIとGDPは非常に強く連動しているが、突然両者がかい離し、GDPが2.5%で推移しているのに、PMIは4%成長を示唆する状態だ」と指摘した。
同氏によると、経済成長自体は堅調を保つが、成長率の変化がはっきりしなくなっており、株式や債券にその影響が見られるという。
(Sujata Rao、Ritvik Carvalho記者)

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