大規模で思い切った政策、必要な経済・物価情勢ではない=日銀総裁

大規模な政策が必要な経済・物価情勢ではなくなっている=日銀総裁
 11月5日、黒田東彦日銀総裁は、名古屋市内で講演し、経済・物価が改善している中で、大規模な政策を思い切って実施するような経済・物価情勢ではなくなっている、と語った。写真は会見する同総裁。東京の日銀本店で9月に撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai)
[名古屋市 5日 ロイター] - 黒田東彦日銀総裁は5日、名古屋市内で講演と質疑を行い、経済・物価が改善している中で、大規模な政策を思い切って実施するような情勢ではなくなっている、と語った。一方、物価2%目標の実現には時間を要することから、金融緩和政策の効果と副作用を「バランスよく考慮」し、強力な金融緩和を粘り強く続けていく方針もあらためて表明した。
総裁は、2013年4月に大規模な量的・質的金融緩和(QQE)を打ち出した当時に比べて、日本経済ははっきりと改善し、「物価の面でも、デフレに苦しんでいた5年前と比べれば、着実に改善している」と評価した。
こうした状況を踏まえた金融政策運営は「かつてのように、デフレ克服のため、大規模な政策を思い切って実施することが最適な政策運営と判断された経済・物価情勢ではなくなっている」と言及した。
もっとも、日銀が目標に掲げる物価2%の実現は、景気拡大が持続する中でも「なお距離がある」のが実情で、金融緩和長期化の副作用への懸念も強まりつつある。
総裁は「やや複雑な経済・物価の展開」としたうえで、「金融政策もまた、政策の効果と副作用の両方をバランスよく考慮しながら、強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが必要になっている」と語った。
金融緩和の副作用のうち、超低金利の長期化と金融機関間の競争激化が、地域金融機関を中心に収益を圧迫し続けている。これらを背景に金融機関のリスクテークが積極化する中で「将来、万一大きな負のショックが発生した場合、金融システムが不安定化する可能性がある」と指摘。日銀として「今後とも、考査やモニタリングなどを通じて、最新の状況把握に努めるとともに、必要に応じ、金融機関に具体的な対応を促していく」と述べた。
現時点で日本の金融機関は充実した自己資本を有しており、金融システムが不安定化するリスクは大きくないとしながらも、信用コストの削減や有価証券の益出しにも限界があり、「業務純益の減少傾向が今後も続けば、長い目でみて地域金融機関の経営は厳しいものになる」との見解を示した。
日銀が物価2%目標を達成すれば「もちろん出口に行き、イールドカーブが立ち、金利水準も上がる」としたが、地域の人口・企業数の減少という構造問題が横たわる中で「それだけで金融機関の困難な状況が解消されるわけではない」と金融機関の取り組みを促した。
また総裁は、米中貿易摩擦の激化などを背景に「海外経済を巡る不確実性は増してきている」と警戒感を示した。
特に保護主義的な通商政策による貿易摩擦の影響は「貿易活動の下押しという直接的なインパクトに加え、企業の投資マインドや国際金融市場にどの程度波及するかという点にも大きく依存する」と指摘。
現時点で日本経済への影響は限定的としながらも、貿易摩擦が長期化した場合には「わが国経済への影響が大きくなる可能性があることにも注意が必要」と語った。
*内容を追加しました。

伊藤純夫

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