アングル:NAFTA崩壊なら米農家を直撃

P.J. Huffstutter David Ljunggren
[シカゴ/モントリオール 28日 ロイター] - トランプ大統領が脱退をちらつかせる北米自由貿易協定(NAFTA)が崩壊すれば、カナダやメキシコ向けの穀物や畜産品、乳製品を手掛ける米国の農業従事者が、最も大きな打撃を受ける可能性がある。
「貿易協定は米国にとってフェアでなければならない。でも、農家が輸出を続けられるようにしてほしい」と語るのは、ネブラスカ州ディクソンで畜牛やトウモロコシ、大豆を生産する農家の3代目、ブレイク・アーウィンさんだ。「今うまく回っているものを壊すようなことはしてほしくない」
34歳のアーウィンさんは、NAFTA交渉を逐一追っているわけではないものの、コモディティ価格低下や医療保険料の増加、高い固定資産税の重みで生計を立てるのに苦労する米国の農家を支援する結果になることを望む、とロイターに語った。
米国とカナダ、メキシコの交渉担当者は先週末にかけて、1994年に発効したNAFTA再交渉の第6回会合をモントリオールで行っており、29日に終了する。会合は全7回予定されている。
カナダが新たな市場を開拓する中で、米国の農業従事者らは、現在の輸出量を維持しようと働きかけている。また彼らにとっては、米国産トウモロコシや小麦、牛肉、豚肉、乳製品の大口輸出先であるメキシコと米国の関係の冷え込みも、懸案事項だ。
「米国の行動には目に余るものがあり、農産物の分野でカナダを利する結果となるだろう」。米アイオワ州立大の経済学者ダーモット・ヘイズ氏は先週、そう指摘した。
貿易の流れは、すでに変わりつつある。
米国は、依然としてメキシコに対する最大の穀物供給国だ。だがメキシコ政府の貿易統計によると、同国は2017年にはブラジルから前年比11倍近い58万3000トンのトウモロコシを輸入している。
また、米農務省によると、養鶏や畜産のエサに使われる大豆飼料のメキシコ向け輸出は2017年1─11月に前年比でほぼ3割減となった。
<価格より重要なこと>
トランプ大統領のメキシコに対する敵対的な姿勢や貿易不均衡への批判を受け、長年米国から買い付けてきたバイヤーが、新たな供給元の開拓や、南米や欧州連合(EU)などの既存サプライヤーとの関係拡大に動いていると、貿易関係者は言う。
「強固な関係を築き、非常に心地よい取引を行っているパートナー同士がいる。穀物の買い付け先選択にあたっては、価格自体よりもこうした関係性が重要になりつつある」と、マックスイールド・コーポレイティブでリスク管理を担当するカール・セッツァー氏は言う。
その例として昨年11月、米穀物商社カーギルとアーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)が運営するメキシコのベラクルス州の穀物ターミナルに、ブラジル産トウモロコシ3万トンが搬入された、異例の取引が挙げられる。
米国産トウモロコシの価格が急落し、備蓄も歴史的に高いレベルにあるにも関わらず、バイヤー側はブラジル産トウモロコシに1トンあたり最大2ドルのプレミアムを上乗せしたと、貿易関係筋は明かす。
カーギルの広報担当者は、コメントしなかった。ADMもコメントの求めに応じなかった。
カナダは先週、新たな環太平洋連携協定(TPP)に合意した。新たな貿易相手国の開拓戦略の一環だ。
「厳しいNAFTA再交渉を経て、カナダは、1つではなく複数の貿易パートナーを持たなければならないとの認識に達した」と、カナダ農業連盟の会長で、畜産農家(肉牛)のロン・ボネット氏は話す。
正式には「包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定」と呼ばれる新TPPでは、カナダ産豚肉や牛肉、小麦に対する日本や他の市場の関税が引き下げられる。関税を撤廃する品目もある。
米通商代表部の元首席農業交渉官だったダーシー・ベッター氏は、NAFTA再交渉が3月以降まで長引けば、来年までまとまらない可能性があり、米国産農産品の売り込みが難しくなりかねないと指摘する。
「他の貿易協定が発効され、メキシコやカナダの米国産品バイヤーは、長期的にわれわれ頼りでいいのか不安になり、それに応じた行動を取るだろう」。ベッター氏はモントリオールで26日に開かれたNAFTA関連のパネルディスカッションでそう語った。
(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

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