アングル:中国深セン、香港から「国際ハブ空港」の座奪えるか

James Pomfret and Jamie Freed
[深セン(中国)/香港 1日 ロイター] - かつての低コスト製造拠点から「中国のシリコンバレー」と称されるテクノロジー産業のハブへと変貌を遂げた深センは、今や、国際航空分野における香港の地域的な優位を脅かしつつある。
深セン空港はこれまで長年にわたって国内線のハブ空港として賑わい、昨年は国内旅客3800万人をさばいた。だが、国際線における旅客数は300万人に満たなかった。
運営事業者である深セン機場集団<000089.SZ>によれば、2025年までに、国際航空旅客をその時点で想定される利用旅客総数の5分の1に相当する1500万人まで増やすことを目標としているという。
もちろん、これでも香港の水準には及ばない。
2025年時点での香港の旅客総数は、IATAコンサルティングの予測によれば8200万人とされている。航空関連のデータを提供するOAGが分析する現在のトラフィック動向が維持されると仮定すれば、そのうち約80%は中国本土以外から、あるいは中国本土以外に向かう旅客となる見込みだ。
だが、中国の航空会社の強みである人件費の安さや、道路、鉄道など他の交通手段によるアクセスの改善を考えれば、香港の今後の成長の一部を深センが横取りする可能性はある。
深センを含む広東省の省都は広州市で、広州空港の昨年の国際旅客は1350万人だった。
深セン空港の成長は、中国政府が2016年に策定した5カ年計画のなかで深センを「国際ハブ空港」に指定したことによるもので、これにより深センは北京、上海、広州の地位に並んだ。近隣の珠海空港やマカオ空港は格上げされなかった。
一部のアナリストは、国内総生産(GDP)の規模においても、来年は深センが香港を上回るのではないかと予想している。
<国際線への参入競争>
深セン空港の台頭によって、中国国際航空(エア・チャイナ)<601111.SS>はある種のジレンマを抱えている。同社は深セン航空の筆頭株主であると同時に、香港のキャセイパシフィック航空<0293.HK>の株式も30%保有しているからだ。
中国国際航空は深セン発着の長距離路線増発はキャセイパシフィック航空に対する挑戦になるとして躊躇(ちゅうちょ)している、と3人の航空産業関係者は語った。いずれもこの件について公式に話す権限がないとの理由で匿名を希望している。
だが中国国際航空にとって頭が痛いのは、経済にとって追い風になるとして地方政府が増発を奨励している国際線に、ライバルの中国南方航空<600029.SS>と海南航空<600221.SS>が参入していることだ。
ビル全体に自然光を採り入れるドーム天井が名物になっている、非常に現代的な新ターミナルを誇る深セン空港を起点に、中国南方航空はシドニー、メルボルン、モスクワの各便を運航し、海南航空はブリズベン便を追加した。
「ここの空港は新しくてきれいだ」。そう語るのは深セン航空の国内便の搭乗手続を行っていた商社勤務のZhao Jinggiangさん。「ただ、国際線が少なすぎる」
中国国際航空の側でも、深センからのフランクフルト便、ロサンゼルス便を増便し、「中国南部を起点とする国際長距離ネットワーク拡大の第一歩」と称している。
中国国際航空と深セン航空にさらに詳しいコメントを求めたが、回答は得られなかった。
今年に入ってから、中国国際航空の戦略と開発を担う副ゼネラル・マネジャーSun Yu氏は、深セン、香港及び中国南部のその他の部分を統合していくという中央政府の計画に留意し、どう協力していくか系列子会社と協議する予定だと話していた。
深セン空港の広報担当者は、国際ハブ空港への転換は、「より多くの国際機関、企業本社、金融機関を深センに誘致するうえで有益だろう」と話している。
<香港への挑戦>
航空会社にとってのコスト負担の低さ、そして香港との地上アクセス改善により、深センは、本来なら香港が享受するであろうトラフィック増加の一端を奪いやすい立場にある。香港は、2024年に第3滑走路の本格運用が始まるまで、発着枠不足に悩まされている。
深セン空港では、今年1─9月に国際線のトラフィックが24%増加したと報告している。
キャセイパシフィック航空のルパート・ホッグ最高経営責任者(CEO)は、先月台北で開催された航空業界の会議で、「現在の課題は、香港の持続的な成長を確保することだ」と語った。
新滑走路が運用開始する前でも、より大型の航空機の利用や、発着枠に空きがある場合の長距離便増便などにより、キャセイはトラフィックを増やしていく、とホッグCEOは述べた。
香港の政治家で元パイロットのジェレミー・タム氏は、すでに深セン発の低価格な国内便を利用する香港住民は多く、深センと香港を結ぶ高速鉄道が来年開業し、深セン発の国際航路が増えれば、その数はもっと増えるだろうと話している。
彼は中国本土の航空会社について「人件費は安く、間接費は大幅に安い」と言う。「深センから上海や北京といったいくつかの主要路線では非常に熾烈な競争となっている」
<観光では依然として差>
とはいえ、観光客を惹きつけるという点では、依然として深センより香港の方が上だ。だからこそHNAグループ傘下の香港航空は、香港発のキャセイ便や、深セン発の中国国際航空便と競合するロサンゼルス便を、自信を持って増発できたのである。
「香港には、空港としての効率の良さ、都市としてのショッピングの魅力、そしてここに拠点を置く航空会社が提供する質の高いサービスがある」。香港航空の鄧竟成副会長は、香港の優位性について、そう語った。
だが香港は、これまで長距離路線を利用するために香港を経由していた深セン、そして近隣のマカオ、珠海の住民によるトラフィックを失う可能性が高い。
香港国際空港は、「当空港は地域ハブ空港、国際ハブ空港としての地位を確立している」と述べ、それ以上のコメントはしなかった。
深セン航空の国内便を利用していたDeng Cangxinさん(23歳)によれば、深センからロンドンやニューヨークに向かう直行便がまだ存在しないため、友人の多くは休暇の際に香港空港を利用しているという。
BNPパリバのアナリスト、ジェームス・テオ氏は、「深センの住民は、香港に行くしか選択肢がない。現時点では深セン発の国際便というオプションは非常に少ないからだ」と言う。
「本来(深センが)得るべきトラフィックを取り戻すということだ。自分の足元から旅行が始まる方が理にかなっている」
(翻訳:エァクレーレン)

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