ブログ:インドの「母なるガンガー」、汚染で死の淵に

ブログ:インドの「母なるガンガー」、汚染で死の淵に
 7月12日、13億人を超えるインド人口の約8割を占めるヒンズー教徒にあがめられ、流域に暮らす住民4億人の水源として重宝される「母なるガンガー」は、長年にわたる政府の浄化に向けた取り組みにもかかわらず、死にひんしている。写真は、ガンジス川のほとりで祈りをささげるヒンズー教の僧侶。デバプラヤッグで3月撮影(2017年 ロイター/Danish Siddiqui)
Danish Siddiqui
[デバプラヤッグ(インド) 12日 ロイター] - インドの聖なるガンジス川は、雪氷で覆われたヒマラヤ山脈のきれいな水を水源としている。だが、急成長する都市や産業拠点を流れる過程で、また大勢のヒンズー教徒が利用する中で、水は汚染され、有害なヘドロと化してしまった。
13億人を超えるインド人口の約8割を占めるヒンズー教徒にあがめられ、流域に暮らす住民4億人の水源として重宝される「母なるガンガー」は、長年にわたる政府の浄化に向けた取り組みにもかかわらず、死にひんしている。
2つの川が合流してガンジス川となる小さな町デバプラヤッグの若き僧侶、ロケシュ・シャルマさん(19)は、川岸で祈りをささげるヒンズー教徒を先導する一族の4代目だ。
「どこか他の場所に移り住むことなど、考えたこともない。デバプラヤッグは私にとって天国だ。母なるガンジス川のほとりで生まれたことを幸せに思う」とシャルマさんは語る。傍らでは僧侶や信者が詠唱しながら、川の水をボトルに詰めたり、流れの早い川で沐浴(もくよく)したりしている。
多くのインド人は毎日沐浴し、神像に祈りをささげる。沐浴により、この世で犯した罪が清められると考えられている。人々は川の水を飲み、農作物の栽培にも利用している。
だが、全長2525キロのガンジス川がインド北部の人口密集地域へと流れていくにつれ、本来のきれいな水は、はるかかなたの記憶となる。そのような地域では大量の水がくみ上げられ、川の健全な流れを阻害している。
北部の工業都市カンプールの橋の下では、ガンジス川の水は暗灰色に変化している。
産業廃棄物と汚水が下水溝から流れ込み、川の表面には多くの泡が浮いている。
そしてガンジス川は、一気に赤色に変わる。
近くでは、皮なめし工場の作業員たちが、化学薬品に漬かった水牛皮を大きなドラム缶に詰めている。汚れた不良品は川に捨てられている。
同国のモディ政権は、さらに多くの下水処理施設を建設し、400以上の皮なめし工場をガンジス川から離れた場所に移転させると約束している。だが、30億ドル(約3400億円)が投じられるこの浄化計画は、予定よりひどく遅れている。
主要な各都市からガンジス川に毎日流される下水は推定48億リットルだが、その4分の1も処理されていない。
こうした悲惨な状況をガンジス川流域で最も痛感しているのは、ヒンズー教徒にとって一大聖地であるバラナシだろう。ここでは、信心深い学生たちがヨガを行ったり、巡礼者たちが精神を清めようとする光景が見られる。川岸では、家族によって火葬が行われ、魂が天国に行き輪廻転生から解脱できるよう遺灰がまかれている。
沐浴場では、ガンジス川をきれいに使うよう信者を促す祈りをささげる礼拝僧の声が夕暮れ時の熱気を満たしている。
「ガンジス川の水は、以前はとてもきれいで飲むことができた」と語るのは、58歳の船頭アニル・サーヘニーさんだ。「今では沐浴もできない」
ガンジス川はベンガル湾に向かって南下するにつれ、さらに多くの村や膨張する都市を通過し、川幅も広くなる。
人口1400万人強の主要都市コルカタでは、そびえ立つごみ山のそばで人々は沐浴し、歯を磨いている。郊外の川岸ではレンガが窯で焼かれ、工場が建ち並ぶ。
下流では、乗客ですし詰めのフェリーがサガール島へと出発する。ガンジス川が海と合流するポイントにあるこの島は、ヒンズー教徒の巡礼で人気の場所だ。
「私たちの周りで起きていることを思うと悲しくなる。ガンジス川は毎日汚れているのに、誰も気にしない。母なるガンジスの子どもでもだ」と、カーペットと真ちゅう製品で栄えるガンジス川流域都市ミルザプールの僧侶アショク・クマールさん(66)は語る。
「ガンジス川は私たちの母だ。死んでしまったら、どのような未来も存在しなくなる」

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