コラム:米FDAのジェネリック市場改革、製薬業界に激震か
Robert Cyran
[ニューヨーク 29日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米食品医薬品局(FDA)が、ジェネリック(後発医薬品)市場の改革に動き出した。これは、製薬業界にとって大嵐が訪れる兆しと言える。
FDAのゴットリーブ長官は、薬品価格抑制のためにジェネリックの申請に関する審査を迅速化し、市場の競争促進を図る。そうなるとバリアントやカーディナル・ヘルスなどは打撃を受け、ブランド医薬品メーカーの前途にも暗雲が立ち込める。
FDAは従来、製薬会社の価格設定問題を静観していたが、世論を背景とした政治家からの不満の高まりを受け、考えを変えた。これまでにエイズ患者やがん患者などが必要としてきたブランド薬やジェネリックの価格は大幅に引き上げられ、一部では100倍かそれ以上になった。特殊医薬品のマリンクロットの乳児けいれん薬は、2000年ごろには1びん当たり40ドルだったのが、今や3万ドルもする。こうした慣行がジェネリック市場にも波及。米政府監査院が調査したジェネリックの約20%は、価格が過去5年で少なくとも100%上昇している。
ゴットリーブ氏は製薬業界とのつながりが深いゆえに、議会で長官就任の承認を得るために20社超に絡むFDAの判断に関与しないと表明せざるを得なかった。その上、同氏は先月の就任以降、決して業界の代弁者ではないとの立場を続けたことで、薬品価格への対応が最優先課題となりつつある。
そこでFDAは、特許が失効したブランド薬のリストを公表し、それらに対応するジェネリックや、承認件数がまだ3件未満の分野のジェネリックについて承認審査手続きを迅速化する方針を打ち出した。FDAの調査では、ブランド薬のほかに1種類のジェネリックしかない場合、ジェネリックの価格はブランド薬より約6%しか安くならないが、ジェネリックが3種類あれば価格は半分以下に下がるという。
その次の手も打たれている。FDAは来月、製薬会社が現行規則を自分たちに有利な形に活用するのをどうやれば防げるかを議論する公聴会を開く。
こうした取り組みは、ジェネリックメーカーへの重圧を高めるだろう。既にジェネリックの価格は1年でおよそ10%下がっているからだ。バリアントのように多額の債務を抱え、値上げを当てにしてきた企業が最も大きな痛手を受けるとみられる。カーディナル・ヘルスやアメリソースバーゲンなどの医薬品卸売会社は、値上がり前に仕入れて利益を得る機会が減るだろう。
大手製薬会社といえども、この猛烈な逆風から逃れられない。例えばグラクソ・スミスクラインは、何年も前に特許が切れたぜんそく治療薬の米国における年間売上高はなお10億ドルを超え、今でも直接脅威となるジェネリックが存在しない。
上がる一方の米国の医療費を抑え込む上で、ジェネリックの登場を積極的に促すことはある程度有効な処方箋となる方法だ。
●背景となるニュース
*FDAは27日、ジェネリック市場の競争促進のための2段構えの対策を打ち出した。まず特許切れとなった医薬品のリストを公表してこれらの薬のジェネリックに関する審査を迅速化すると表明。さらにジェネリック申請の承認順序を変更した。今後、同じ分野で3件承認するまで、審査の迅速化を続けるという。
*FDAのゴットリーブ長官は今月、製薬会社がジェネリックの競争を抑えるためにFDAの規則をどのように使っているかについて議論する公聴会を7月18日に開催すると語った。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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