焦点:中国、G20で徹底的にもめ事回避 習近平氏の体面繕う

焦点:中国、G20で徹底的にもめ事回避 習近平氏の体面繕う
 7月10日、前週末のG20首脳会議(サミット)は中国の習近平国家主席(左から2人目)にとって、実にたくさんの「地雷」が埋まっていた。ハンブルグで7日撮影(2017年 ロイター)
[北京 10日 ロイター] - 前週末の20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)は中国の習近平国家主席にとって、実にたくさんの「地雷」が埋まっていた。米国は中国が北朝鮮に対して何ら効果的な圧力を加えていないことに腹を立て、中国はインドと国境紛争を抱える上、ノーベル平和賞受賞者の劉暁波氏の治療を巡る国際的な批判にさらされていたからだ。
ただ偶然の産物か作戦通りだったのかはともかく、習氏と指導部はサミットを無傷で逃げ切ることに成功した。
中国は今、習氏のイメージを良くすることに尋常ではない神経を使っている。特に国内と違って厳しい言論統制ができない西側を訪問する際には、台頭しつつある超大国の指導者にふさわしい尊敬を得られるように腐心している。
こうした中で北京の複数の外交筋はサミットに先立ち、習氏が北朝鮮や劉暁波氏の問題などでぶしつけな質問攻めに遭うのではないか、と中国当局者が非公式の場で懸念していた、と打ち明けた。
ところがいざふたを開けてみれば、サミットで脚光を浴びたのは、ロシアの米大統領選介入疑惑がくすぶる中で初めて開かれたトランプ、プーチン両大統領による米ロ首脳会談だった。トランプ氏がパリ協定への復帰を拒絶したことも注目された。
対照的に習氏は二国間会談ではひたすらもめ事を避け、パリ協定や開かれた世界経済を推進することを約束。中国英字紙チャイナ・デーリーは、こうした姿勢が「(習氏の)評価を光り輝かせた」と自賛した。
ブリュッセルのシンクタンク、エルカノ・ロイヤル・インスティテュートのシニアフェロー、ウルリッヒ・スペック氏は「誰も南シナ海や貿易を話題にせず、習氏に満足した。彼はうまくやったと思う。すべての目はトランプ氏とプーチン氏に注がれた。ただ、米国と中国の対立が起きなかったという事実は、少なくともそれと同じぐらい重要だ」と述べた。
<米中友好ムード>
習氏にとって最大の試練となりかねなかったのは、トランプ氏との会談だった。トランプ氏はサミット前、中国が長年の同盟国である北朝鮮の「手綱」を制御できないことに不満をあらわにしていたからだ。
しかし実際の会談ではトランプ氏は4月の初顔合わせ時の友好的な態度に戻り、習氏を「友人に持てることを光栄に思う」と持ち上げ、これまで中国が北朝鮮に核兵器開発を思いとどまるよう説得してくれたことを感謝した。
中国共産党機関紙の人民日報の国際版である環球時報は10日付の論説で「サミットに先立ち、中国と米国は台湾や南シナ海などを巡る問題で摩擦があった。そして西側の言論界からは、中米の『蜜月』は終わったとの観測も出ていた。だが習氏とトランプ氏の会談でそうした見方は否定された」と強調した。
この会談内容を知る中国の元外交官によると、習氏はサミット前にトランプ氏と話した際よりもずっと明るい態度で、トランプ氏の方も貿易問題でさえ協力関係を望んだという。
トランプ政権が既に14億2000万ドル相当の台湾に対する武器供与を承認したこともあり、中国の目下の最大の懸念は米国の台湾政策となっていた。
もっとも今回の首脳会談で米中両国とも台湾には一切言及しなかった。そして中国側はトランプ政権との友好関係をアピールすることに四苦八苦した。
中国財政省のZhu Guangyao次官はハンブルクにおける会見で、二国間の金融関係を取り扱う米中のチームは、お互いが争うことによって被る打撃をはっきりと理解していると説明した。
<残る火種>
中国は数週間前、インドが国境紛争地域に軍を派遣し挑発していると批判していたが、習氏はサミットでインドのモディ首相との二国間会談を避けることで波風を立てない道を選んだ。
がん治療中の劉暁波氏に関しては、米国とドイツの医師を中国国内に招くことで批判をかわした。
それでも米中関係にはまだ火種が残っている。今後米国が北朝鮮問題で制裁を行う中国企業の対象を拡大したり、トランプ氏が中国製品への輸入障壁を引き上げれば、中国も反発を強めるかもしれない、と北京駐在のある西側外交官は話す。
この外交官は「中国はこれまでトランプ氏への対抗的な行動を自制してきたとはいえ、それは長続きしそうにない。事態は、中国と米国が繰り広げる熱い(政治)ドラマへと向かいつつある」と警告した。
(Ben Blanchard記者)

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