アングル:ケアより規律、被虐待児童が直面する一時保護所問題

アングル:ケアより規律、被虐待児童が直面する一時保護所問題
 6月22日、日本では、虐待や非行、発達障害などの問題を抱え、親元から離れた緊急避難シェルターを必要とする子どもたちが年間2万人以上、「一時保護所」と呼ばれる児童相談所の付属施設に身を寄せている。虐待被害者として一時保護所に3カ月預けられた9歳の女児。3月17日、都内で撮影(2017年 ロイター/Toru Hanai)
Chang-Ran Kim
[東京 22日 ロイター] - 日本では、虐待や非行、発達障害などの問題を抱え、親元から離れた緊急避難シェルターを必要とする子どもたちが年間2万人以上、「一時保護所」と呼ばれる児童相談所の付属施設に身を寄せている。
だが、多くのこうした施設内部では、過度に厳格な管理体制が敷かれており、保護児童に苦痛に満ちた経験を与えていることが、一時保護所で勤務、もしくは保護されたことのある経験者や、この制度に詳しい専門家ら十数人とのインタビューで明らかになった。
こうした懸念を受け、政府内からは環境改善が必要だとの声が上がっているものの、その実現のめどは示されていない。厚生労働省では児童福祉制度を改善するための専門委員会が設置され、一時保護所の改革も議題となっている。
「一時保護所は今のままでいい、何も変える必要はないと言う人はいない」と厚生労働省・児童家庭局の浜田裕氏は語る。「一時保護所がどういう仕組みであるべきかは、まさに今後議論していく。今まで、明確には議論されてこなかった」
一時保護所は元々、第2次世界大戦後に戦争孤児や放浪児に食事や寝る場所を提供するために設立された。だが、全国に136カ所あるこの緊急シェルターは、過去70年のあいだ、ほとんど進化していない、と専門家は指摘する。
ここで保護される乳幼児から17歳までの子どもたちは、自ら脱走したり、虐待する親によって奪い返されないよう、室内に止め置かれ、学校に行かせてもらえないことがほとんどだという。
多くの保護所で、十分な研修を受けていない職員が、子どもたちに厳しい規則やスケジュールを課している。携帯電話や自宅から持ってきたおもちゃは禁止され、規則に従わないと、罰として個室に隔離されることもある。より厳しい保護所では、食事中のおしゃべりや、他の子どもと目を合わせることさえ許されていない、と状況を良く知る関係者は言う。
施設の古さや大きさ、設備は、それぞれ大きく異なる。体育館や庭があり、DVDや漫画が充実している施設もあれば、老朽化して壁紙もはがれ、畳は古く、1部屋に10人が寝るところもあるという。
一時保護所は、都道府県や政令指定都市などに設置された児童相談所が管理しており、これまで国の監督はほとんど受けていなかった。運営資金は、国と地方自治体の予算から出ている。
子どもに優しいイメージがある日本だが、社会的養護の下にいる子どもの権利擁護については、他の先進国に遅れを取っている。根本的な問題の一つは里親が不足していることで、これにより施設で集団生活を送る子どもの割合は他の先進国と比べて多くなっている。
制度上の問題を認識した政府は昨年、児童福祉法の理念を改正し、子どもが権利の主体であることを初めて明記した。だが、児童福祉の現場での実践は未だ不十分だと専門家は指摘する。
2015年まで約20年間、都内の児童相談所で児童心理司を勤めた山脇由貴子氏は、こうした一時保護所について、「本当はケアをするための場所でならなくてはいけない」と断言する。
一時保護所の現状について、「地域差はあるが、とにかく食べて寝られていればいい、虐待されなければいい、というような場所として設置されてしまっている。職員も心のケアをまったく配慮できていない」と同氏は指摘する。
現場の職員は、子どもたちは非行や虐待といった様々な理由で保護されており、ニーズも多様なため、厳しい規律が必要だと主張する。厳格な管理がなければ、混乱が起きるという。
都内のある一時保護所を監督する吉川千賀子氏は、「集団生活なので色々な約束事がある」と説明。「子どもの数に対して職員数も限られている。一人ひとりに目が行き届かず、事故につながるということがないよう、一定程度、管理的になってしまう部分も、否定できない」
<自傷行為には罰も>
一時保護所での平均入所期間は30日だが、自宅に戻ったり、里親の元に送られたり、児童養護施設などに移されるまで、数カ月を過ごす子どもたちも多い。
ロイターは、関東地方に33カ所ある一時保護所の1つへの取材を許された。他の施設への取材は、プライバシーやセキュリティを理由に認められなかった。神奈川県横須賀市にある一時保護所を最近取材したが、これだけで生活環境についての結論を得ることは難しかった。
そこでは、学習時間が終わると、広いラウンジに男女の子どもたちが集まって来た。卓球で遊ぶ子もいれば、ソファに座り漫画を読む子もいた。どこにでもある寮の風景だ。ただ、ほぼ全ての壁やドアにキックやパンチによる損傷があり、紙やガムテープでおおわれている。職員が会話の内容を把握できるよう、子どもたちがひそひそ話をすることも禁止されている。
昨年3カ月以上を都内の一時保護所で過ごした9歳の女の子は、施設ではよく叱られ、息が詰まるような生活だったと語った。自分を殴った母親がいる自宅でも、帰りたかったという。
「テレビの時間は、テレビを観なきゃいけない。しゃべったりしたら、『前を見なさい』と言われた」と女の子はロイターに語った。
女の子がいた施設の職員は、保護する児童数が定員を25%もオーバーすることが時々あり、管理は厳しくなりがちだと言う。
国立成育医療研究センターの奥山眞紀子医師は、多くの子供にとって、一時保護所での経験は多くの子どもにトラウマに近いストレスを与える性質のものだと警鐘を鳴らす。
同医師に対して、ある10代の少女は、自傷行為をすると、職員からカウンセリングやケアではなく、罰を与えられると語ったという。自傷行為は、性的虐待の被害者によく見られる行為だ。
国の児童福祉制度の見直しに関する検討会で座長も務める奥山医師は、本当の改善は、里親制度が日本の社会に広まった時に起こるだろうと予測する。「今の一時保護所のあり方でいいのか、考える必要がある。一時保護所の様に特別なところに子どもを置くのは、数日にすべき、という話だ」
(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

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