コラム:中国返還20年、香港に再び求められる「進化」

コラム:中国返還20年、香港に再び求められる「進化」
 6月27日、香港は、新たな道を進まなければならない。経済を再び活気づけるには、今ある強みを生かしつつ、いくつかの目立った問題を解決することが必要だ。香港のビクトリア湾で2016年6月撮影(2017年 ロイター/Paul Yeung)
Quentin Webb
[香港 27日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 香港は、新たな道を進まなければならない。この香気あふれる港町は長年、世界の貿易や金融など多くの面で、中国の窓口となってきた。
英国から中国に返還されて20年が経ち、こうした伝統的な仲介的役割のいくつかは、恐らく永久的に衰えつつある。経済を再び活気づけるには、今ある強みを生かしつつ、いくつかの目立った問題を解決することが必要だ。
多くの分野で、中国が以前ほど香港を必要としていないことは間違いない。この特別行政区は2003年、世界で最も忙しいコンテナ港だった。だが2015年までには、上海や、シンガポール、深セン、寧波舟山などの各港に、抜かれてしまった。貿易と物流が総生産(GDP)に占める割合は、ピークとなった2005年の28・5%から、2015年には22.3%まで低下した。
香港の名門商社、利豊<0494.HK>は、かつては多国籍小売業と中国工場の仲立ちをして好調な業績を上げ、2011年の時価総額は250億ドル(約2兆8000億円)に達していた。現在は30億ドルほどの価値しかない。
事実上の「国営」航空会社キャセイ・パシフィック航空<0293.HK>も、中国本土の空港からの国外直行便が増設され、旅行者が香港を素通りできるようになったことで、苦戦している。中国本土からの買い物好きの旅行客は、香港のショッピングセンターをパスして、パリのシャンゼリゼ通りやニューヨークの五番街に直行する傾向を強めている。
より広範には、中国の台頭により財をなした香港人もいる一方で、全体の成長は緩慢になっている。昨年の成長率はわずか2%だった。香港には、中国本土と同じような成長を遂げることは難しい。すでに発展した経済だからだ。
だが、最大のライバルのシンガポールは、この20年でより早く成長しており、香港は気を引き締めざるを得ない。新たなテクノロジーの開発拠点となっている近隣の中国深セン市と比べても、逆転傾向が見え始めた。かつて漁村だった深センは、商業用ドローン大手のDJIなどの新興企業や、富豪を生み出している。バーンスタインのアナリストは、2018年にも深セン経済が香港を追い越す可能性があると見ている。
<ほどほどの熟練度>
香港が直面する試練はむしろ高まっている。自由市場の信奉者は、香港における厳しい汚職取り締まりや、低い税金、限定的な政府管理などのビジネス環境を長年称賛してきた。
だが、少数寡占に対する当局の無関心により、少数の富豪が不動産や公共設備、小売りを牛耳って富を蓄えるなど、格差が拡大した。不動産価格は急騰し、人々の反発を招いた。消費を控えて貯蓄に回し、リスクを避けるようになった。競争監視機関は、最近設置されたばかりだ。
生産性や、言語スキル、そして創造力といった根本的な弱点もある。コンファレンス・ボードによると、1時間あたりのGDPの比較で、香港の労働者は米国労働者の75%を生産するが、シンガポールの労働者は92%生産できる。
英語教育グループのEFは、英語の「ほどほどの熟練度」ランキングで、香港をブルガリアや韓国の下に置いた。英国の元植民地としては残念な結果であり、多国籍企業から見れば減点となる。世界知的所有権機関(WIPO)と米コーネル大学などがまとめた技術革新力国別ランキングで、香港は16位だった。
こうした弱点のいくつかを改善すれば、香港経済の後押しになるだろう。行政は、公共住宅や土地の供給を増やし、教育予算を引き上げるべきだろう。競争が加速すれば、企業の研究開発予算も増額され、生産性と創造性が高まるだろう。
低コスト貨物の港湾取扱高や、金払いの良い中国本土の観光客は、今後戻ってこない可能性が高い。従って、香港が現段階で、文化産業や医薬品、教育、環境サービスなどの付加価値の高い産業を優先することは、理にかなっている。
<留め金>
もちろん、香港には他の強みも残っている。金融とプロフェッショナル・サービスという2つの主要分野で、香港には高い専門性がある。中国政府が、両分野にとって不可欠な基礎となる「法の支配」を阻害しなければ、香港は、まだ新しいチャンスを発見し、モノにすることができるだろう。
アセット・マネジメント分野は、最近の好例だ。国際通貨基金(IMF)によると、この分野は過去7年で3倍の規模に拡大した。香港の金融関係者やエンジニア、法律家は今後、中国のシルクロード経済圏構想「一帯一路」の恩恵を受けることが出来るだろう。また香港は、本土の海洋産業に特化した金融サービスを提供することができるだろう。
中国政府もまた、香港に大きなビジネス機会を提供している。香港のオフショア人民元市場などの仕組みや、香港株式市場を上海や深センの市場と結びつけるスキームがそれだ。
香港もまた、新興企業や金融テクノロジー、起業などの「流行」と無縁ではない。だが、いかに強い後押しがあっても(そして当局はこれまでのところ、妨害する動きを見せていないが)、香港以外の場所を本拠地とする消費者向けテクノロジーの企業群と競争することはなさそうだ。中国の電子商取引大手アリババや、米フェイスブックのような、巨大国内市場を持たないからだ。また、深センの様な製造業の基盤にも欠く。
だが香港の起業家は、他の企業に最先端テクノロジーを提供することで、繁栄することができるだろう。
香港は、自らの歴史にヒントを得ることもできる。香港は、かつて製造業の主要拠点だった経済を、自ら作り直して今の姿になったのだ。今ひとたび、進化が求められている。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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