コラム:企業の利益剰余金390兆円、経済の停滞要因に

コラム:企業の利益剰余金390兆円、経済の停滞要因に
 6月9日、日本企業の利益剰余金が過去最大の390兆円台に膨れ上がっている。2016年3月撮影(2017年 ロイター/Issei Kato)
田巻 一彦
[東京 9日 ロイター] - 日本企業の利益剰余金が過去最大の390兆円台に膨れ上がっている。生産・輸出が好調で過去最高益を記録する企業が続出しているものの、設備投資を控え、賃上げも小幅で現金を積み上げているためだ。
マクロ的には機動的な財政出動や大規模な金融緩和の効果が、「ため池」に留まって波及していないことを示す。ただ、効果的な政策対応も見当たらない。とすれば、現在は機能していない市場の「警鐘効果」に期待するしかない。
<利益剰余金、1年間で23兆円積み上がり>
財務省の2017年1─3月期法人企業統計によると、全産業ベース(銀行、保険業は除く)の利益剰余金は390兆3900億円と過去最高を記録。前年同期から23兆7100億円増えた。
わかりやすく言えば、企業が利益を出しているにもかかわらず、設備投資を控え、賃上げにも積極的に動かなかった結果、現金が積み上がってしまったということだ。
17年3月期の連結純利益は過去最高を記録し、企業業績は好調を維持している。18年3月期も過去最高を2年連続で更新しそうな勢いだ。
しかし、少子高齢化に伴う国内市場の収縮を強く意識し、企業の設備投資の動きは鈍いまま。ベースアップも小幅ながら実施する大企業が目立ったが、全体的に賃上げの動きも小幅にとどまり、実質賃金の伸びもはかばかしくない。 
<マクロ政策の効果、巨大な貯水池に滞留>
その結果、企業の現預金は大幅に積み上がり、利益剰余金の項目は、過去最高を記録し続けている。
この現象は、財政・金融政策にとって、大きな「頭痛の種」に違いない。アベノミクス開始以降、政府は累次の景気対策を実行し、財政面からの刺激を続け、日銀は「異次元」と表現される大規模緩和を展開。
その結果、デフレ的な様相は大幅に後退した。しかし、景気拡大のサイクルが企業のところで止まってしまうという現象に直面している。
まるで大きな川が、巨大な「遊水地」に入り込み、下流への流水量が細ってしまうような展開になっている。
せっかく政府・日銀が大車輪で財政・金融の効果を出そうとしても、企業部門に溜まった約400兆円のマネーが、日本経済全体に行き渡らないため、「十全」の効果を発揮できずにいると言える。
<課税では解決できず>
では、400兆円を企業から吐き出させる「妙手」はあるのか。まず、考えられるのは「課税」という王道だが、法人税を20%台に引き下げてきた政策とは正反対の手法で、経済界からの反発も大きそうだ。
また、各種のインセンティブを付けて、投資を誘導するアイデアもあるが、人口減少の国内に投資するのは「ナンセンス」という認識が経営層には深く刻み込まれており、効果は期待薄。
<溜め込む企業、株価下落で警鐘鳴らすべき>
そこで、提案したいのは、マーケットメカニズムを使った「マネー追い出し」作戦だ。日本の株式市場では、ROE(株主資本利益率)が欧米に比べて低いという指摘は「耳タコ」状態のように聞かれるが、現預金を積み上げている経営者は「無能」と批判されているシーンを見たことはない。
市場関係者が企業の現預金の積み上がりに目を光らせ、ROEやROA(総資産利益率)などのデータと組み合わせ、何もしない「無能」な経営者をあぶり出し、そのような経営者がトップに君臨する企業の株価を下落させる──。
もし、こうした市場の「警鐘機能」が発揮されれば、ミクロベースでの企業の経営効率が高まるだけでなく、マクロ経済における最大の「難問」を解決する糸口になるのではないかと予想する。
企業の「利益剰余金」問題に多くの市場参加者が目を向け、マネーの有効活用に経営者が動き出せば、停滞する日本経済に「喝」を入れる効果が目に見えて出てくるだろう。
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