焦点:5期連続高成長でも見えない「好循環」、外需依存のぜい弱さ

5期連続高成長でも見えない「好循環」、外需依存のぜい弱さ
 5月18日、2017年1─3月期の国内総生産(GDP)は5四半期連続のプラス成長となったが、外需依存の構造は変わらず、政府が目指している景気の前向きな循環メカニズムが動き出した気配はない。写真は都内で2015年8月撮影(2017年 ロイター/Thomas Peter)
[東京 18日 ロイター] - 2017年1─3月期の国内総生産(GDP)は5四半期連続のプラス成長となったが、外需依存の構造は変わらず、政府が目指している景気の前向きな循環メカニズムが動き出した気配はない。力強さに欠ける個人消費や設備投資を活性化するには、人口減少や高齢化という構造問題に本気で取り組む必要があるとの指摘が専門家から出ている。
<賃上げ鈍く、好循環波及せず>
「どう好意的にみても、好循環は回っているとは言えない」──。新生銀行・金融調査部の伊藤篤氏は、輸出の好調と生産拡大にけん引された企業の増益効果は、労働市場のタイト化までしか波及していないとみている。
確かに失業率は今年2、3月に2.8%まで低下しているが、はっきりとした賃金上昇に結びついていない。
非正規雇用の時給は上昇したものの、正社員の賃金上昇は小幅にとどまり、今春闘の賃上げ率は連合の直近の集計で1.99%(定昇込み)と、昨年同時期の2.02%に届かない。
それでも1─3月期の民間消費が伸びたのは、前期の天候要因や野菜価格の高騰の影響が終息した反動と、多くのエコノミストが指摘している。
今回発表された16年度の民間消費の伸び率は前年度比0.6%。14年度の消費増税の年を除くと、15、16年度の実質消費は、リーマンショック後の8年間で最も低い伸びにとどまった。
<トランプリスク、企業マインドに悪影響>
設備投資は1─3月期にほぼ横ばいの前期比0.2%増だった。前期の高い伸びの反動もあったとはいえ、中国向けの高い伸びなど海外需要の強さで輸出が好調さを持続している割には、企業の国内設備投資への姿勢は慎重だ。
機械受注統計でみても、1─3月受注実績が前期比減少、4─6月期見通しも一段と減少幅が拡大している。
農林中金総合研究所の南武志・主席研究員は「トランプ米大統領の保護主義的な通商政策が強化され、世界貿易の収縮が起きれば、世界経済全体が再び停滞するリスクもある。こうした情勢が企業家マインドを慎重にさせている可能性も否定できない」と見ている。
過去4四半期を振り返ってみれば、GDP成長の主役は、外需、民間消費、設備投資、在庫投資が入れ替わってきた。
「外需の風向き次第で成長が大きく左右される構造的弱さから脱しておらず、自律的好循環は実現しているとは言えない」と、第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は指摘する。
背景にあるのが、企業や家計部門の「デフレ的マインド」と同氏は見ている。そのため最高益であっても賃上げや投資に回さず資金をため込む企業と家計部門は、将来不安に備えている構図だ。
<冷え込む高齢者の消費>
こうしたマインドがいつまでも解消しないのは、人口減少・高齢化による経済縮小と将来不安が根強いためと指摘されてきた。
今や65歳以上の高齢者は全人口の4分の1を超え、年々増加。景気や企業業績にかかわらず一定の年金で暮らす高齢者の消費支出は、長寿化に備えて慎重となり、16年度は60代で4.4%減(家計調査)。若い世代より減り方が大きい。人口割合が増大する世代の支出委縮により、国内消費市場は目に見える形で縮小が進行している。
熊野氏は「こうした根本的な構造問題の改革への政権の取組が遅れれば、GDPの高成長もそのうちピークアウトすることが視野に入ってくる」と見ている。
自律的好循環の実現には、政府による人口減少という根本的課題への効果的な取り組みが喫緊の課題だ。

中川泉 編集:田巻一彦

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