アングル:核やミサイルだけではない北朝鮮の「脅威」

[26日 ロイター] - 北朝鮮の核・ミサイル開発に世界の視線が集まっているが、北朝鮮の脅威はそれだけではない。韓国との軍事境界線沿いに冷戦時代の重火器が多数配備されており、これらは予告なしに韓国の首都ソウルを攻撃することが可能だ。
1950―53年の朝鮮戦争を終結させたのは休戦協定であり、平和条約ではない。そのため厳密に言えば南北は依然として戦争状態にある。
そして両国の緊張が高まると、北朝鮮はしばしばソウルを「火の海」にすると警告する。ソウルは軍事境界線からわずか40キロに位置し、1020万人が暮らしている。
<通常兵器でも脅威>
南北を隔てる軍事境界線は、世界でも最も厳しい警備態勢が取られている。非武装地帯(DMZ)は軍事境界線を挟んで南北4キロ、東西245キロに設定されており、地雷と鉄条網が敷設されている。
軍事境界線を挟んで南北の兵士と大量の兵器が、互いをにらみ合うように配備されている。また韓国には約2万8500人の米兵が駐留している。
北朝鮮政府は一切明らかにしていないが、1万3600両ある北朝鮮の大砲および多連式ロケット砲の多くは、DMZ付近に配備されていると専門家はみている。
北朝鮮の通常兵器には大口径砲と多連式ロケット砲が含まれ、専門家によるとこうした兵器の多くはデザインこそ古いが、威力はあるものだという。
<大砲>
大砲にはけん引式と自走式があり、北朝鮮軍の兵器の大部分を占めている。また多くが旧ソ連製または中国製の異型だ。「コクサン」と呼ばれる170ミリ砲は、1979年に西側の専門家によって初めて確認された北朝鮮製の自走砲だ。射程は最大およそ60キロで、同国の野砲としては最長を誇る。
<ロケット砲>
北朝鮮は機動ロケット砲の射程を延ばそうとしている。240ミリ多連式ロケット砲(MLRS)は車両に搭載した発射台から、12発または22発の長距離ロケットを一斉に発射することができる。DMZ付近に配備されたMLRSの射程は60キロでソウルを射程に収める。
北朝鮮の国営メディアは昨年、射程が伸びた300ミリのMLRSの写真を公開しているが、実戦配備されているかは不明だ。
<地下に造られた攻撃拠点>
こうした北朝鮮の兵器は米韓両軍からの対砲兵射撃や、空爆に弱いと考えられる。だが北朝鮮はそのリスクを低減するため、洞窟や地下壕に兵器を隠している。こうした施設は地下砲撃拠点(HARTS)と呼ばれ、一部の大砲は拠点から砲撃を行うことができる。だがより重い兵器はシェルターの外に出て砲撃を行う必要性があり、韓国側に捕捉される可能性がある。
例えば240ミリ多連式ロケット砲はわずか44秒間に22発のロケットを一斉に発射できるが、搭載した発射台を下げ、車両を安定させるためのパッドを収納し、再びシェルターに戻るまで最大4分かかる。
そのため北朝鮮が砲撃を行う際は、すべての兵器で一斉砲撃するのではなく、反撃のリスクを減らすために散発的な攻撃を行うのではないかと専門家は考えている。
<射程に収まるものは>
仮に北朝鮮が韓国に対し一斉砲撃を行った場合、170ミリ砲「コクサン」や240ミリロケット砲の砲弾は、首都ソウルにも届くと軍事専門家は指摘する。
以下の地図は、地下砲撃拠点に配備されたこれらの兵器の最大射程距離と、首都ソウル地区へ理論上到達可能な範囲を描画したものである。
<ソウルをどう守るのか>
仮に北朝鮮の一斉砲撃があった場合、韓国政府は市民に対し「落ち着いて、直ちにシェルターへ避難」するよう呼びかけるとしている。
韓国政府の国民安全処は、地下鉄の駅や企業・政府庁舎の地下など、最寄りのシェルターの位置を案内するスマートフォンアプリを配布している。
シェルターの大きさは最大で23万9096平方メートルあり、集合団地の地下に存在する。
国民安全処によると、韓国全土に1万7051カ所のシェルターがあり、ソウル市内の避難施設は3321カ所あるという。
シェルターの合計面積とソウルの人口から求めた、市民1人当たりの面積は2.31平方メートルとなっている。
*記事中の「MRLS」を「MLRS」に修正して再送しました。

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