アングル:完成迫る中国と香港結ぶ橋、強まる本土支配の象徴か

[珠江口(中国) 19日 ロイター] - 香港と中国本土の珠江デルタを結ぶ、長さ約30キロの橋が完成に近づくなか、中国の当局者らは、香港との緊張が高まっているこの時期に、この橋が経済統合以上のものをもたらすことを期待している。
仏パリのエッフェル塔60基分以上の鋼鉄を使って建設されているこの海上橋「港珠澳大橋」が最初に提案されたのは1980年代のことだった。英国領だった当時の香港自治政府は、共産主義国である中国との距離が一段と近くなることを恐れ、橋の建設に反対した。
しかし、1997年に香港が中国に返還されると、香港と、珠江デルタにおける製造業とスプロール現象を融合させる数々のプロジェクトが飛び交い、香港に少なからず不安を与えている。
橋建設プロジェクトの責任者の1人である中国当局者Wei Dongqing氏は、欧州の元植民地である香港、マカオと、広東省珠海市をつなぐこの橋について、物理的にも心理的にも調和を促進するものとの見方を示した。
「橋は3つの場所をつなぎ、心理的影響をもたらす」と、完成半ばの6車線の橋の上を行く記者向けのツアーバスのなかで、Wei氏はロイターに語った。遠くにはマカオのカジノがかすかに見える。
「われわれは未来に自信がある。夢は統合された市場、統合された国民だ」
建設開始から8年近くが経過し、最後の試算によると、橋と海底トンネルを含むプロジェクトの総建設費は約190億ドル(約2.1兆円)にまで膨れ上がった。
橋は無用の長物との批判の声も上がっている。完成しても、発展は困難とみられており、交通量も1日あたり約4万台との予想には達しないと見込まれている。
年内には大半の工事が完了し通行可能になるとみられるが、料金所や税関・出入国管理施設を完備したフル稼働がいつになるのかは「分からない」とWei氏は語った。
「橋の完成後も、われわれは新たな課題に直面する。いかに効率よく運営し、地域全体を実際に利することができるかということだ」
同プロジェクトの香港側を監督する香港運輸局は、一段の遅れやコスト超過が見込まれるかどうかに関する質問に対し、明確に回答しなかったが、年内の完成には自信を示した。
香港、マカオ、本土の3者で最終的な調整が行われていると電子メールで答えた。
<ぼやける境界>
香港で緊張が高まった時期においても、中国本土と香港の当局者らは、橋の経済的重要性を強調し続けた。香港では2014年、中国政府が完全な民主化を認めず、自治の約束を反故にする本土の介入を懸念した、主に学生を中心とした大規模な抗議活動が起きた。
香港では、本土が包囲網を拡大するなか、この橋によって香港の独立したアイデンティティーが脅かされるとみる人たちもいる。
「香港と中国の境界をあいまいにしようとするある種のネットワークが見て取れる」と、民主派の弁護士Kwok Ka-ki氏は話す。
「これらインフラ計画が全て完成した今後10─15年で、香港は中国の単なる一部になっているだろう。明確な境界が分からなくなってしまうのだから」
また、何十億ドルも投じた本土と香港を結ぶ高速鉄道計画についても、本土の出入国管理施設を香港に設置することを巡り非難の声が上がっている。
返還時に約束された「1国2制度」の下で保たれている香港の自治性を揺るがすとの指摘も聞こえる。
「多くの香港市民が統合を嫌がるとは思わないが、私たちはそれが民主的に行われることを望んでいる」と、高速鉄道計画への反対デモを主導し、現在は議員となったエディ・チュウ氏は言う。
「過去10─15年に行われたあらゆる抗議デモの背景にある核となる考えは民主主義だ。経済発展や都市計画の方向性を市民がコントロールできるかどうかは、民主化運動の延長線上にある」
だが、グレーのつなぎ服に安全ヘルメットをかぶった前述のWei氏は橋による統合を「1橋3制度」だとして称賛する。
「橋は新しい象徴となりつつある」
(James Pomfret記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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