特別リポート:東芝傘下のWH、破たん招いた新型原子炉の誤算

Tom Hals and Emily Flitter
[ウィルミントン(デラウェア州)/ニューヨーク 2日 ロイター] - 2012年に米ジョージア州で進められていた原子力発電所の建設工事が8カ月にわたって中断した。数百マイル離れた工場から原子炉の一部を出荷するために必要な署名と書類手続きが整うのを待たなければならなかったからだ。
遅延は当該部分の製造に要した期間よりも長期に及んだとみられており、こうした度重なる工期の遅れは、原発建設において野心的な新手法を試みていた米ウエスチングハウス・エレクトリック(WH)を追い詰める象徴的な頭痛の種となっていた。
東芝<6502.T>の米原発子会社であるWHは、発電所の複数のセクションを事前に製造し、それを建設予定地に運んで組み立てる「プレハブ方式」を新たに導入。それにより、低コストかつ安全な原発建設を主導し、業界に革命を起こすのではないかと期待されていた。
しかし、WHは自身が開発した革新的な加圧水型原子炉「AP1000」を展開するために必要な工期と、そこに潜む「落とし穴」の可能性を見誤っていたことが、ロイターの検証で明らかになった。
こうしたトラブルによってWHが抱えた建設費用の超過額は推定で約130億ドル(約1兆4800億円)に達したとみられており、ジョージア州とサウスカロライナ州で同社が手掛ける2つの原発プロジェクトの行方が危ぶまれている。
建設費用の超過に耐えられず、WHは今年3月、米連邦破産法11条の適用を申請した。親会社である東芝の財務も危機に瀕している。東芝は、WHの統制が「不十分だった」と認めている。
WHの誤算は、今後10年間で約160基の原発建設を見込む世界の原子力業界が直面する大きな困難を浮き彫りにしている。
原発業界の問題は実際、WHにとどまらない。フランスのアレバは経営再建中だが、その原因の一端は、フィンランドで建設中の原子力発電所の工期遅延と巨額の費用超過である。
プレハブ方式による原発建設に実績がなかったにもかかわらず、WHは米電力会社と将来のビジネスを構築するため、AP1000原子炉の建設費用と工期について強気の試算を提示していた。
また、同社は規制面における障害を軽視し、原子力関係の工事に伴う厳格さや要求水準の高さに不慣れな建設会社を下請けに使っていたことが、規制当局による報告書や、破産申請の提出書類、そして現旧社員に対する取材などを通じて浮かび上がってきた。
「基本的に実験的なプロジェクトだったにもかかわらず、彼らはそれを商業的に成立し得るものだと示さなければならないプレッシャーにさらされていた。そのため、その工期や費用、難易度を大幅に過小評価したのだ」。憂慮する科学者同盟の上級研究者でAP1000型炉に関する執筆や証言を行っているエドウィン・ライマン氏はそう語る。
WHの広報担当サラ・キャッセラ氏によれば、同社はAP1000原子炉技術に注力しており、中国における同型原子炉の建設を継続する計画だという。さらに、インドなどでの新規原子炉の入札参加も想定していると同氏は語った。キャッセラ氏は、ロイターが提出した詳細な質問リストに対するコメントを拒否した。
<スタートのつまずき>
ジョージア州とサウスカロライナ州で建設している原発プロジェクトは、2017年初頭までに50万超の家庭や企業に電力供給ができるようになるはずだった。ところが、いずれも竣工すらしていない。
ジョージア州の原発プロジェクトの半分近い権利を保有する米電力会社サザンとサウスカロライナ州でのプロジェクトの過半の権利を有する電力会社スキャナは、それぞれの査定を進めており、原子炉を完全に放棄する可能性も排除しないと明言する。
「エンジニアリング、調達、建設に関する契約と親会社による保証に基づき、WHと東芝にその金銭的な責任を取らせるため、可能な限りの措置を取り続ける」とサザンは声明で述べている。
プロジェクトはスタートからつまずいた。
たとえば、ジョージア州での原発建設に向けて準備を進めるなかで、WHと下請け建設会社は2009年に土台部分の掘削を開始。約275万立方メートルの土砂を排出した。
だが、土砂を撤去した部分を埋め戻すために使う裏込め材の半分について、規制当局の承認が得られなかった。そのためプロジェクトは少なくとも半年遅れたと、ジョージア州の規制当局のために原発建設を観察していた原子力専門家ウィリアム・ジェイコブス氏は述べている。同氏はロイターのインタビューに応じなかった。
とはいえ、最大の遅れをもたらしたのは、AP1000型原子炉の革新的な設計と、まだ未知の領域にあった同型炉の製造と建設によって生じたさまざまな試練だったことが、WHの現旧社員、原子力専門家、規制当局者との十数回を超えるインタビューで明らかになった。
従来の原子炉と違い、AP1000型炉はプレハブ方式のパーツを組み立てて建設する。工場の専門労働者が原子炉の複数のパーツを量産し、それを建設地に運んで組み立てる。マーケティング資料で、WHはこの手法が原電建設におけるスタンダードになると見込んでいた。
原子炉の各セクション製造は、WH株式の20%を握る米エンジニアリング大手ショー・グループが保有するルイジアナ州レイクチャールズの工場に委託された。ジョージア州とサウスカロライナ州で建設される原子炉の部品はここで製造されることになった。
<レイクチャールズ工場の状況>
2010年5月の作業開始から7カ月後、ショー・グループはすでに、米原子力規制委員会(NRC)の要請を受け、部品製造中に生じた問題を記録するための内部レビューを実施していた。
NRCへの書簡のなかで、当時ショー・グループの執行副社長だったジョゼフ・アーンスト氏は、「日常業務に対する経営管理の水準とその効果が、作業の質に対して不適切だと判断された」と記している。
アーンスト氏は、欠陥部品を選別し排除する能力の欠如や、建設材料の保管方法に至るまで、同社の不十分な点を挙げた長いリストを書き出している。同氏に電話でコメントを求めたが回答は得られなかった。
NRCの記録によれば、その後の4年間で、レイクチャールズ工場における当局などの検査により、WHの新設計に適合するモジュラー方式の部品製造が抱える膨大な数の問題が浮かび上がった。
サブモジュールが落下して損傷を受けても、ショーの管理者は従業員に事故の隠ぺいを命じていた。部品に貼付するラベルの間違いや、必要な試験の省略、一部の部品のサイズが違うなど、それぞれの問題の詳細についてNRCは違反公告に記していた。
これ以外にも、書類が紛失したり判読困難だったりする問題も生じていた。
書類に署名がなかったことで8カ月以上も出荷が遅延したセクションは、燃料棒を支えるために溶接して一体化される72個のモジュールの1つだった。重さ1000トンに近いこのユニットは、予定より2年以上も遅れて設置された。
ジェイコブス氏の報告によれば、レイクチャールズ工場が仕様条件を満たすモジュールを製造できるようになったのは、2015年6月以降だ。それ以前に、ショー・グループはオランダのエンジニアリング会社、シカゴ・ブリッジ・アンド・アイアン(CB&I)に買収されていた。
CB&Iの広報担当ジェントリー・ブラン氏によれば、2013年の買収後、レイクチャールズ工場の経営体制を一新し、新たな手続きを導入したという。それ以降の遅れについてはWH側の責任だ、と同氏は語る。さまざまな部品について、製造作業が開始した後に「数千件もの」技術上・設計上の変更が加えられたからだという。
WHはこの点についてコメントを拒んでいる。
<NRC安全基準への対応>
こうした山積する問題の一方で、新規の原子炉に対して厳格な要件を課してきたNRCも、ある程度、WHの足を引っ張ったと言える。要件を遵守するため、WHは設計変更を行った。いくつかは小手先の修正にとどまったが、大幅な変更もあったという。
たとえば、NRCはジョージア州の原発について、運転許可を事業者に発行するためには、放射能漏れを防ぐ建屋の設計を変更すべきだと要求した。建屋には民間ジェット機の激突に耐えられる強度が必要だと主張したのだ。これは2001年9月11日に発生した米同時多発攻撃をきっかけに生まれた安全対策だ。
WHが設計承認を申請した7年後の2009年、NRCは新たな安全基準を発表した。裁判所に提出した破産申請書類のなかでWHは、NRCからの要求によって、予期せぬエンジニアリング上の課題が生じたと述べている。
NRCの広報担当スコット・バーネル氏は、NRCでは数年にわたって厳格な安全基準について言及していたため、基準の変更はWHにとって予想外ではなかったはずだと反論する。
ジェット機の衝突から原子炉を守るためにWHが設計を変更すると、今度は、新たな設計が竜巻や地震に耐えられるかどうかをNRCは問題視した。ジェイコブス氏の報告によれば、WHがようやくNRCの要件をクリアしたのは2011年のことだ。
破産申請の提出書類によれば、2016年までにようやくWHも自身が抱えるジレンマの大きさに気づきはじめた。WHとしては、2つのプロジェクトを完成させるには数十億ドルを投じて苦労を重ねることになり、放棄するにしても数十億ドルの違約金が科されることになる。
どちらを選ぶ余裕もない、というのがWHが下した決断だった。
(翻訳:エァクレーレン)

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