コラム:気分次第のトランプ外交が導く危険な世界

コラム:気分次第のトランプ外交が導く危険な世界
4月27日、トランプ米大統領は、伝統的な外交を実践しない。外交の諸問題や取決めを個別の出来事のように扱い、気分次第で反応している。写真はホワイトハウスで撮影(2017年 ロイター/Carlos Barria)
John Lloyd
[27日 ロイター] - トランプ米大統領は、伝統的な外交を実践しない。内政と同様に、だがより濃厚な無知の霧の中で、外交の諸問題や取決めを個別の出来事のように扱い、気分次第で反応している。
こうした行動は変わらないだろう。変わらないままトランプ政権が継続するならば、トランプ氏が治める重要部分も含めて、世界はより危険にさらされる。アメリカ人が国外で行っている大部分の善行も後退する。そして、米国が取り締まってきたルールに基づく秩序は衰退し、地域や国内での対立と、増加する失敗国家に取って変わられるだろう。
トランプ大統領の気分の変化は、いくつかの注目すべき「手のひら返し」を生んできた。
最も目を引くのはロシアに対する変わり身だ。トランプ氏は2013年半ばから今年2月にかけてプーチン大統領を幾度となく称賛してきたが、今月初めにシリア政府が化学兵器を使用して以来、それはぱたりとやみ、トランプ氏はその報復を約束した。シリア政府を支援するロシアへの態度は、尊敬から不信へと変わった。
これは、対ロシアとシリア介入という二重の転換だった。トランプ大統領は、シリア空軍機が化学兵器攻撃の拠点とした基地へのミサイル攻撃を指示した。それまで大統領は、外国の紛争には介入しないと約束し、アサド大統領の居座りにも無関心な様子を示していた。
昨年の大統領選における選挙期間中のほとんどは、中国が為替操作を行い、安い輸入製品で米国産業を破壊していると非難していたが、フロリダの別荘で習近平国家主席と友好的な雰囲気で週末を過ごした後は、トーンを変えた。
習氏との会談前は、両国間の関係は根本的に改めなくてはならないと語っていた。だが、会談後には、核戦争の脅しをかける北朝鮮に対して中国が圧力を強めるとの手ごたえを得るとと、再び態度を変えた。そして中国が北朝鮮問題で助けてくれている時に、為替操作問題で非礼を働く理由があるだろうかとうそぶいた。
外交主流派の一部にとって、ロシアへの敵意と中国との慎重な対話は、トランプ大統領が北大西洋条約機構(NATO)は結局時代遅れではないと気付いたことも含め、自然な秩序への回帰だった。ロシアが長く米国の友好国で居続けるはずはなく、すでに1月の米英首脳会談で、トランプ氏がNATOを「100%」支持していると発言したメイ英首相に、同意したように見えていた。
だが、これで「普通」の外交を行う大統領になったと言うには無理がある。
米国における外交主流派の基本は、歴史的に、伝統的に親密な同盟国に対しては温かく、敵対国には冷淡で時に強引に、そして独裁国家と付き合わなければならない場合は批判的な態度で臨んできた。
こうした姿勢は、内部告発サイト「ウィキリークス」が暴露した国務省の外交電文にあるように、倫理的な矛盾や偽善に満ちている。だが、皆がゲームのルールを知っていた。トランプ氏はそれとは違う。友好国のいくつかに対する嫌悪感を隠さないし、独裁的な指導者に対しては、許容というより称賛しているように見える。
米国にとって最も重要な欧州同盟国であるドイツのメルケル首相とホワイトハウスで初めての会談に臨んだ際には、NATOの支出目標を達成するよう要求し、オバマ前政権に盗聴されたという根拠不明の主張を繰り返した。
また、オーストラリアのターンブル首相から、1000人の難民を豪州から引き取るというオバマ時代の約束を尊重するよう要請されると、突然電話会議を打ち切った。
カナダのトルドー首相はもう少し礼儀正しく迎えたが、数週間後にはカナダが貿易違反をしていると非難。メイ首相とは、ホワイトハウスの廊下を手をつないで歩いたが、その直後、英情報機関も盗聴に関与していたという重大な批判を、根拠を示さずに繰り出した。
対照的に、大統領はフランス大統領選第1回投票での極右政党・国民戦線を率いるマリーヌ・ルペン氏の成功を喜んだように見えた。ルペン氏の政治系統は人種差別的、反ユダヤ主義的で、イスラム教徒を侮蔑し、フランスを欧州や国際経済から隔離させようとしている。
トランプ大統領は、操作された可能性のあるトルコの国民投票において、かろうじて自身の権限強化を勝ち取ったエルドアン大統領を祝福した。エルドアン大統領は新たな権限を得て、官僚や軍人、ジャーナリストや学者をさらに逮捕・拘束する可能性が高い。
また、エジプトのシシ大統領に対しては、長く音信不通になっていた友人と再会したかの様に扱った。シシ氏は、前任のムバラク氏に比べてはるかに国内の敵に対して無慈悲だ。
南の隣国メキシコに対するトランプ大統領の態度は、同国の政治家層を遠ざけてしまった。ペニャニエト大統領は、両国の国境に壁を建設し、不法移民とみられる数百万人のメキシコ人を送還するという選挙公約をトランプ大統領が繰り返すなか、ワシントン訪問をキャンセルした。
これは、外交の本道ではない。これは大統領がメディアを揶揄する時の表現を借りるなら 「偏った主流外交」だ。戦略や経験、一般的な礼儀正しさの欠如や、強さの誇示を評価する世界観から来るえり好み、そしてリベラル同盟国への軽蔑から、不能状態に陥っている。
これは変わるだろうか。もちろん、あらゆる面において。手のひら返しと転換、そして変化は、トランプ外交の唯一変わらないテーマだ。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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