アングル:北朝鮮危機、奔走する中国代表の「報われない仕事」

アングル:北朝鮮危機、奔走する中国代表の「報われない仕事」
 4月18日、北朝鮮と米国のあいだで高まる緊張を、交渉による解決でとりなそうとする中国の武大偉・朝鮮半島問題特別代表(中央)の奔走ぶりは、中国が募らせるいら立ちを浮き彫りにしている。韓国の首都ソウルで10日代表撮影(2017年 ロイター)
[ソウル/北京 18日 ロイター] - 北朝鮮と米国のあいだで高まる緊張を、交渉による解決でとりなそうとする中国の武大偉・朝鮮半島問題特別代表。同代表の奔走ぶりは、中国が募らせるいら立ちを浮き彫りにしている。
武氏(70)は先週、韓国を訪問した。5日間という滞在日数は異例の長さだ。同氏は韓国外務省の金烘均(キム・ホンギュン)朝鮮半島平和交渉本部長と会談したほか、次期大統領選の候補者らと面会した。その目的の1つには、今週のペンス米副大統領によるアジア太平洋地域訪問を前に米空母艦隊が朝鮮半島に向かうなか、緊張を和らげることにあった。
韓国聯合ニュースが外交筋の話として伝えたところによると、武氏は北朝鮮訪問の計画について確認しなかった。「中国側は要請しているが、北朝鮮が返答していないと私は理解している」と、この外交筋は語ったという。
中国外務省の陸慷報道官は17日、そのような訪問について何も共有すべき情報はないと述べ、「中国と北朝鮮は友好的に訪問し合うという伝統を維持している」と語った。
武氏が最後に平壌を訪れたのは、昨年2月初めで、長距離ロケットで衛星を軌道に打ち上げる計画を発表した北朝鮮に対して自制を求めるのが目的だった。武氏が北京に戻ってから2日後、北朝鮮は弾道ミサイルの発射実験とみられるロケットを打ち上げ、朝鮮半島の緊張は一段と高まった。
中国は、予測不可能な北朝鮮に対し、国連安全保障理事会による制裁実施によって外交交渉を補おうとする意向を以前にも増して示している。2月26日以降、北朝鮮からの石炭輸入を中国は全面的に禁止している。
その一方で公式的には、中国は何よりもまず対話を重視している。だが、北朝鮮や周辺国、ライバル国を交渉の場に再び就かせようとする武氏の努力は、今のところ報われていない。
<離れる中朝関係>
トランプ米大統領は中国の習近平国家主席に対し、北朝鮮に核兵器や弾道ミサイルの開発をやめさせるため、一段と厳しい措置を取るよう求めている。北朝鮮は食料や燃料を中国に大きく依存し、北朝鮮の輸出品の大半は中国を経由している。
しかし習氏は2012年に国家主席に就任して以来、北朝鮮の若き指導者、金正恩朝鮮労働党委員長に一度も会っていない。金氏が2011年末に北朝鮮の指導者になってから加速する核・ミサイル実験のせいで、両国関係の距離は遠ざかっている。
中国、米国、北朝鮮、韓国、日本、ロシアで構成されるいわゆる6カ国協議の下、武氏は10年以上にわたり、朝鮮半島の非核化を目指す努力を主導してきた。だが、そうした中国による取り組みの大半は実ることはなかった。6カ国協議は、北朝鮮のロケット発射失敗を受けて2008年に最後の会合が決裂して以降、行われていない。
韓国当局者らによれば、武氏はベテラン外交官で、日本通でもある。朝鮮語はほとんど話さず、英語は全く話さないという。
また、匿名で語ったアジアの外交官によると、武氏は韓国に多くの友人がおり、「信頼できる」外交官として長年高い評価を受けているという。
<2つの延期>
14日放送された香港フェニックステレビとの異例とも言えるインタビューのなかで、武氏は、6カ国協議を再開させるための基盤として、米国と北朝鮮が軍事訓練と核実験という「2つの延期」で合意すべきだという中国の立場を明らかにした。こうした立場には、米国とその同盟国である韓国が反対している。
武氏はインタビューで制裁について言及せず、対話を通した平和的解決に向けた中国のコミットメントを繰り返した。これは、習主席がトランプ大統領に先週の電話会談で伝えた立場と同じものである。
「もし北朝鮮と米韓が報復する態度に出て、互いに武力を誇示し、現状を根本的に変えることに失敗するなら、遅かれ早かれ朝鮮半島で何かが誤った方向に向かうだろう」と武氏は述べている。
韓国の当局者は、武氏は6カ国協議が始まった最初のころは「耳障り」なときもあったが、「協議を存続させるため、彼こそまさに当時われわれが必要としていた人物だった」と語った。
一方、韓国大統領府の外交安保首席秘書官を務めた千英宇(チョン・ヨンウ)氏は、武氏についてもっと遠慮のない評価を下している。
内部告発サイト「ウィキリークス」が公開した2010年の米国との外交的なやりとりによると、千氏は武氏のことを中国で「最も無能な役人」と呼び、武氏が英語が話せず、中国共産党の方針にかたくなに忠実だと指摘している。
千氏からコメントを得ることはできなかった。
(Jack Kim記者、Christian Shepherd記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab