コラム:米国とフランスで深まる政治の「機能不全」リスク
James Saft
[24日 ロイター] - 来月7日に予定されるフランス大統領選の決選投票では極右派マリーヌ・ルペン氏が敗北する可能性が高く、ユーロプロジェクトにとっても、グローバル市場にとっても、リスク軽減として歓迎されることになるだろう。
しかしそれに続いて訪れる状況によって、欧米市場が目をそらそうとしているリスクが表面化するだろう。それは自国の統治がますます困難になっている、というリスクだ。
23日に行われた第1回投票で極右政党・国民戦線を率いるルペン党首は2位となり、高い支持を得ている中道独立候補エマニュエル・マクロン候補との決選投票に臨むことになる。マクロン氏は欧州統合のさらなる推進、労働市場の規制緩和、社会保障の充実などの政策を掲げている。
だが、今回の選挙が何よりも印象的なのは、既成の秩序を拒否したという点にある。左派、右派ともに主要政党候補が1人も決選投票に進めなかったのは、過去60年で初めてだ。
投票数の約46%は、ユーロプロジェクトの基本原則を拒否もしくは軽視する候補者に投じられた。つまり、移民排斥主義者のルペン氏、極左のジャンリュック・メランション候補、ナショナリストのニコラ・デュポンエニャン候補である。
フランス大統領になるのはマクロン氏だろうが、決して簡単な仕事でなく、その政策課題と権力いずれもが、明白でも確定的でもない。
「さらに重要なのは、今回の結果は実質的に、6月の国会議員選挙が完全な手詰まり状態になる可能性が高くなることを意味している、という点だ」とADMインベスター・サービシズ(ロンドン)のストラテジスト、マーク・オストワルト氏は指摘する。
「マクロン氏の政治運動『前進』は有望な候補者を見つけるのに苦労するだろうし、明らかに草の根のネットワークが不足している。『前進』の候補者は、地方レベルではるかにしっかりした地盤を築いている共和党、社会党、国民戦線の候補者と競合する場合が多くなるだろう」と同氏は顧客宛ての書簡で記している。
そうなると、ユーロ圏の統合をいっそう進めていくというマクロン氏の計画、たとえばユーロ圏全体を統括する財務大臣的な役職の設置や軍事予算の統合などは、野望のままにとどまることになりそうだ。
もちろん、23日の第1回投票の結果は安心材料として歓迎された。その事実は開票後、ユーロだけでなくグローバル規模で株価が大幅に上昇したことでも裏付けられている。ルペン氏の勝利、あるいはその懸念が妥当性を帯びてくるだけでも、銀行の資金調達に関する懸念が生まれ、それが自己増殖して、最終的には取り付け騒ぎが発生し、統一通貨の予期せぬ解体が生じかねない。
だが、ユーロ圏の急速な解体を回避することと、緩慢な解体を回避することは、また別の話である。そして、さらに重要な点がある。既存政党の候補者を軒並み落選させたいという漠然とした欲望を抱いているのはフランスの有権者だけではないのである。
<トランプ政権の100日>
フランスと比較する対象として興味深いのが米国である。トランプ大統領というナショナリズムを掲げるポピュリスト政治家が勝利を収めたが、これまでのところ、何らかの政策課題を効果的に推進しているとはとうてい言い難い状況だ。
トランプ政権の最初の100日間は、異常とも言えるほど、どんな目立った成果も得られていない時期となっている。医療保険制度改革の試みは惨憺たる状況にとどまっており、税制改革の公約もますますその信憑性を失っている。税制改革が実現するとしても来年、しかも骨抜きになる可能性がある。
こうした状況は、トランプ大統領が行政官として素人同然という理由だけによるものではない。トランプ氏が、深刻な亀裂を抱えた共和党のトップに立っている、と言うよりも倒れかかっている、ためでもある。国家の適切な役割などについて党内に亀裂が生じているのは、単にトランプ氏のエキセントリックな資質の結果ではなく、選挙を経た公職者のなかに、また彼らを送り込んだ有権者のなかにも見られる非常に深刻な対立を反映している。
28日に歳出法案が成立しなければ、政府機関が閉鎖される――恐らくそのような事態には至らないだろうが、私たちはまたもや、世界で最も安全な資産(米国債)の発行者ともいえる米国が、政府の機能停止の瀬戸際に追い込まれるという綱渡りを見せつけられることになる。
メキシコ国境に「壁」を築く予算を計上したいというトランプ氏の願望をめぐって米国が政府機能を停止するかもしれないという状況には、これまで投資家がまったく理解していなかった象徴的な意味合いがある。減税やリフレを誘う財政支出を公約することと、それを実行することはまったく別の話なのだ。
英国では与党である保守党が、近く予定される選挙において有権者からより大きな支持を集めようとしているが、これは顕著な例外である。その英国でも、議会での議席確保に比べて、欧州連合離脱に向けて有利な条件を勝ち取ることのほうがはるかに難しいという結果になるだろう。
米国とフランスの政治状況には2つの大きな意味がある。良かれ悪しかれ、市場の安定性の支えとなる「落ち着いた成人」の役割を演じ続けるのは、各国の中央銀行である。だが、金融政策をより正常な形に戻そうという欧州中央銀行(ECB)と米連邦準備理事会(FRB)の努力は危機に瀕している。
フランス大統領選から生じた安堵感と米国における楽観的な見方が薄れてしまえば、株式市場は結局のところ、政治の機能不全に対する見返りとして、バリュエーションの長期的な割引を避けられない状況になるかもしれない。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
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