焦点:THAAD配備で中国が「韓国企業たたき」、次は米国か

Adam Jourdan
[上海 3日 ロイター] - 韓国企業が中国で圧迫されつつある。恐らく、韓国が米国製ミサイル防衛システムを配備したことへの報復と見られる。これにより、中国は、対立する貿易相手国の企業利益を狙い撃ちする用意があることが浮き彫りになった。
化粧品から、スーパーマーケット、自動車、観光に至るまで、韓国企業が現在直面している逆風は、より対決色の強い対中姿勢を示すトランプ政権下の米国企業にとっての潜在的なリスクを露呈している。
中国では、国営メディアと草の根的な政治団体が、人気韓国製品のボイコットを呼びかける抗議行動を主導している。韓国の現代自動車<005380.KS>製の車を破壊する群衆の姿がソーシャルメディアや国内ニュースサイトに掲載され、中国の旅行会社では韓国向けツアーをキャンセルする動きも一部見られる。
中国政府は、「高高度ミサイル防衛システム(THAAD)」を韓国に配備するという米韓両国による共同計画に対して激怒している。米韓両政府は、北朝鮮の核弾頭搭載ミサイルに対する防衛手段だと説明しているが、中国政府は、非常に長いレーダー探知距離は中国を狙うものだと主張している。
中国内での騒ぎは、東シナ海で領有権を争う島嶼(しょ)を巡り日本政府と対立した2012年、日本企業を対象とした抗議行動が発生した状況と似ている。ロッテグループが27日、用地交換契約に合意し、THAAD配備が実現に近づいたことを受けて、今回の対立は激化した。
ロッテグループの子会社、ロッテ・デューティーフリーは2日、中国からとみられるサイバー攻撃を受けたと発表した。
「現在、韓国企業に起こっていることは、米国企業に今後1年間に起きるであろう問題についての、非常に有効な作戦計画書となる」。リスク管理コンサルタント会社コントロールリスクスで中国と北アジア担当の分析ディレクターを務めるアンドリュー・ギルホーム氏はそう語る。
「トランプ政権下では、大規模でドラマチックな貿易戦争の発生によって、何もかもが悪化するというシナリオよりも、企業に対する規制面での嫌がらせという形で問題が表面化する可能性の方が高いのではないか。中国にとってはそれほど強烈ではない対抗手段の1つだ」
韓国の株式市場は3日急落し、化粧品大手のアモーレパシフィック<090430.KS>、現代自動車、格安航空のチェジュ航空<089590.KS>、大韓航空<003490.KS>、アシアナ航空<020560.KS>が打撃を受けた。
<政治的圧力>
韓国との取引を縮小・中止するという政治的圧力を感じているとの声が一部の中国企業から聞こえてくる。韓国メディア報道によれば、中国当局は北京の旅行会社に、韓国向けのツアーの販売を中止するよう命じたという。
中青旅(CYTS)<600138.SS>など、ロイターが取材した中国の旅行会社大手3社は、韓国向けツアーの提供を続けていると話している。だが途牛の顧客サービス担当者によれば、THAADをめぐる対立が原因で、同社は韓国向けツアーの提供をすでに中止しているという。途牛にコメントを求めたが回答は得られなかった。
またロッテは、外交面での緊張が原因であると明言してはいないものの、大手電子商取引サイトの京東商城(JDドット・コム)上で、同社製品の検索ができなくなっていると述べている。京東商城はコメントしなかった。
中国小売サイト、聚美(Jumei)の最高経営責任者(CEO)は、短文投稿サイトの公式アカウントで、今後はロッテ製品を販売しないと述べている。ロイターは同社にコメントを求めたが回答は得られなかった。
「一部の小売企業は、政治的プレッシャーの結果として、ここ1週間でロッテ製品の販売を中止している」。中国小売業界の上級幹部は、匿名を条件にそう語った。
中国共産党の青年組織である中国共産主義青年団も、中央と地方レベルの双方で、自動車、化粧品、エレクトロニクス製品を買わないよう消費者に呼び掛けて、対立を煽っている。
共産主義青年団の全国組織は、短文投稿サイトの公式アカウントで「私たちはロッテに『ノー』と言う」と投稿している。
<「組織的な動き」>
さらに、消費者の反発が続いた。ロッテの中国名が出てくる投稿は、通常は数千件程度だが、2日には30万件近くに跳ね上がった。
中国のソーシャルメディアに投稿された写真には、黒々とした落書きに覆われ、叩き壊された韓国車を多くの人々が取り囲んでいる様子が映っている。かつて日本の自動車メーカーを苦しめた問題が再び繰り返されているとの警告だ。この他にも、韓国ツアーの全面禁止を呼びかける投稿もオンラインで拡散されている。
中国国家観光局は3日、韓国向けの「旅行者心得」についての声明を投稿し、中国人観光客に対し、「海外旅行に伴うリスクを真剣に理解し、渡航先を慎重に選択する」よう念を押している。
中国国家観光局は渡航禁止措置についてはコメントしていない。
通常はタカ派的色彩の強い国営タブロイド紙の環球時報でさえ、韓国製品を破壊する行為が「世論主流の支持を得ることはないだろう」と警告を発している。
とはいえ、前出のギルホーム氏は、韓国に対するさまざまな抗議行動は異常なほど攻撃的であり、当局も、公式には傍観する態度に留まっているものの、実際には一定の役割を演じているという。
「これほどの動きが短期間のうちに全国規模で行なわれるからには、組織的なものであることは明らかだ。そうした発表もないし、認められることもないだろうが、これは連携した動きだ」とギルホーム氏は言う。
環球時報は昨年11月、米国がこうした組織的なキャンペーンに直面する可能性があると警告していた。万一、トランプ大統領が中国に対して貿易戦争を仕掛けることがあれば、中国政府は、ボーイングからアップルに至る米国企業に対して報復行動に出るだろうと。
「トランプ氏が米中貿易を破壊するのであれば、米国産業の多くが損なわれるだろう」と環球時報は社説で主張していた。
(翻訳:エァクレーレン)

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