コラム:「ポスト真実」の統計で米国が食らうしっぺ返し
Peter Thal Larsen
[ロンドン 21日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米大統領の統計の扱い方は、最も良く表現したとしても、緩いとしか言いようがない。
就任してからの1カ月、トランプ大統領は、ほぼ毎日のように不都合な事実について攻撃することに時間を費やしてきた。したがって、トランプ政権がその矛先を経済データに向けるのも単に時間の問題だった。
しかし、統計への「ポスト真実」的なアプローチは大きなしっぺ返しを食うことになりかねない。
ウォールストリート・ジャーナル紙によると、貿易赤字の算出方法を変更することをトランプ政権が検討している。これはそれほど驚くことではない。トランプ氏は大統領戦の大半を使って、米国が輸出よりも多く輸入していることへの不満を訴えていたのだから。
とはいえ驚くべきは、提案されている新たな算出方法が、米国の貿易赤字をより大きく見せることだ。
論点となるのは、米国に輸入されてから他国へ輸送される自動車のようなモノの分類だ。これら製品は現在、米国に到着したときは輸入品として、米国を出るときには輸出品としてカウントされている。新たな算出方法では、こうした「再輸出品」を輸出データから除外することが検討されている。そうすると、昨年全体の貿易赤字は9600億ドル(約108兆8200億円)となり、現在の公式データよりも2240億ドル拡大することになる。
トランプ政権の動機は不明だ。米国内で生産された製品の輸出をより正確に反映する輸出データを望んでいるのかもしれない。だがその場合、米国内で消費されなくても輸入品としてカウントするというのはゆがんでいるように思える。
それよりもあり得る説明は、貿易障壁を主張する根拠を強化するために、誇張されたデータを使うというものだろう。修正された算出方法では、昨年の米国の対カナダ貿易赤字は120億ドルではなく580億ドルになる。また対メキシコ貿易赤字は、公式統計のほぼ2倍となる1170億ドルに達するとみられる。
政治家は自身の考えに合うように常にデータをかいつまんでいる。しかしデータをこねくり回すことは、トランプ政権が米統計の信頼性を損ねているという懸念を生むことになる。これは、貿易相手国やドル資産を保有する投資家、エコノミストの信頼をむしばむ動きだ。
もう1つのリスクは、トランプ大統領が貿易赤字を減らせると有権者が期待を膨らませるという政治的なものだ。だが貿易収支というのは、他の世界と比較して米国民がどれくらい消費しているかを主に示している。そのような基礎的な事実を変えるには、いくつかの関税や細工した統計以上のものが必要だろう。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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