コラム:トランプ、プーチン両氏の「破局」招く引き金は
Josh Cohen
[6日 ロイター] - トランプ米大統領は、ロシアのプーチン大統領を擁護し続けている。米スーパーボウル開幕前に行われたフォックス・ニュースとのインタビューで、トランプ大統領は、プーチン大統領を「殺人者」と表現した司会のビル・オライリー氏の発言を一蹴した。
「殺人者はたくさんいる。どう思うか。われわれの国はそれほど潔白なのか」
確かに、米国の国家安全保障はロシアとの関係改善から恩恵を得られるだろう。とりわけ注目すべきは、核戦争と核テロのリスクが減少する可能性があることだ。
だが、トランプ氏側、プーチン氏側の双方から楽観的なシグナルが発せられているにもかかわらず、米ロ関係は急激に悪化、あるいはこれまでよりもいっそう悪くなる可能性を秘めている。
以下に米ロ関係に亀裂を生じさせる恐れのある政策課題を挙げよう。
まずはイランだ。トランプ大統領は、イランとの核合意において矛盾するシグナルを送っている。大統領候補だったころ、トランプ氏は合意を破棄すると繰り返し明言していた。しかし大統領になってからは、合意を強化する方向へと向かっているようである。
プーチン大統領は合意破棄を望まないだろう。合意の結実にはロシアが主要な役割を担ったからだ。なかでも、自国でウラン濃縮を行いたいイランと、その能力を制限したい西側との間で折り合いをつけるため、解決策を見いだすのに大いに貢献した。
ロシアはまた、合意の履行においても重要な役割を担い続けている。2015年末、イランの低濃縮ウラン2万5000ポンド(約11.3トン)がロシアに搬出された。最近では、オバマ前政権の同意を得て、イランからロシアに原子炉冷却材44トンを搬出するのと引き換えに、ロシアはイランに未加工のウラン11万6000キロを搬送した。
トランプ大統領が核合意を破棄するのであれば、プーチン大統領がそれを挑発として、あるいは恐らくイランの核施設に対する米攻撃の前触れとして見なしてもおかしくはないだろう。プーチン大統領は、イランに自国の高性能兵器を送ることに許可を与え、いかなる米国の脅威にも対抗しようとするかもしれない。そうなれば、米ロ間の危機は急激に悪化しかねない。
また、トランプ氏とプーチン氏が新たな核軍拡競争を始める可能性もある。トランプ氏が「米国は自国の核能力を大いに強化し、拡大しなければならない」とツイートし、プーチン氏がロシア軍には戦略的核戦力の増強が必要と述べた後にトランプ氏がMSNBCに対して「軍拡競争が起きるなら放っておけ」とコメントしたように、この問題が沸騰しそうな勢いにあることを忘れてはならない。
ロシアと米国の間で新たに核軍拡競争が起きることは想像に難くない。米国は、欧州大陸全土をカバーするミサイル防衛網を2018年までに完成することを目指している。表向きはイランからのミサイルに対し、北大西洋条約機構(NATO)加盟国を防衛するためのものとされているが、ロシアは自国の核兵器に向けられていると考えている。自国の核抑止力を維持するために必要だと考えるのであれば、プーチン大統領はミサイル戦力を拡大せざるを得ないと感じるようになるかもしれない。このようなロシアの動きを受け、今度は米国の核兵器増強を招く恐れもある。
ロシアの対アフガニスタン政策もまた、トランプ氏とプーチン氏の対立を引き起こす可能性がある。ロシアもイスラム過激派に対する懸念を独自に抱えているが、現在、アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンと情報を共有している。米軍は15年にわたり、タリバンと戦ってきた。過激派組織「イスラム国」と戦うためにタリバンと情報を交換しているだけだとロシアは主張するが、アフガニスタンに駐留する米軍司令官は、主にNATOを弱体化させるためにロシアがタリバンにお墨付きを与えていると主張している。
トランプ大統領がイスラム過激派との戦いに専念することを公言していることもあり、タリバンと国際武装組織アルカイダとのつながりが、アフガン政策の変更をロシアに迫るようトランプ氏を駆り立てる可能性もある。そのような要求にプーチン氏が同意するかは今のところ分からない。
もちろん、両者が共通点を見いだせる分野もある。その1つがウクライナであり、もう1つはシリアである。トランプ氏とプーチン氏の関係が良好であり続けるなら、トランプ氏はシリア反体制派への支援を打ち切り、イスラム国と戦うためロシアとシリアのアサド政権と手を結ぶことを検討するかもしれない。
そうなれば、ロシアは間違いなく喜ぶだろうが、問題はプーチン氏がトランプ氏に何を返せるかだ。ロシアがシリアに介入するのはイスラム国との戦いが表向きの理由だが、実際には他のシリア反体制派グループを主として標的にしている。米国のイスラム国との戦いに参加するとプーチン氏が約束することはあるだろうが、もし同氏がこうした関与を無視するのであれば、トランプ氏はどう出るだろうか。
さらに言えば、ロシアとシリア政府と手を組むことは、トランプ氏が非難するまさにイランと事実上、同盟関係を結ぶことを意味する。
同様の懸念がウクライナにも当てはまる。ロシアは米国が自国への制裁を解除し、クリミア併合を認めることを強く望んでいる。ここでもまた、プーチン氏がトランプ氏にお返しできることは何なのか。ロシアはウクライナ東部での戦いを終わらせると約束できるだろうが、プーチン氏はウクライナが西側に加わることを認める兆候をいっさい見せておらず、そのような約束を守らない可能性が十分にある。
加えて、ロシアは制裁解除を望んでいるばかりか、制裁によって被った損害を補償するよう米国に要求するかもしれない。
トランプ氏とプーチン氏の個人的関係はまだ未知数だ。トランプ氏はプーチン氏のことを強い指導者として尊敬していると語っているが、フォックス・ニュースのオライリー氏に対し、「それが、彼(プーチン氏)とうまくやっていけることを意味するわけではない」と話している。
2人がうまくやっていけるかどうかにかかわらず、国内の政治的制約が米ロ関係を正常化しようとするトランプ氏の努力を台無しにする可能性はある。
民主党のシューマー上院院内総務は、対ロシア制裁の解除には議会承認が必要とする超党派の法案を検討している。
また、議会で現在審議中の諜報活動に関する法案には、ロシアの政治介入に対抗するための新たな専門機関の創設をうたった条項が含まれているが、これはロシアからさらなる反感を招きかねない。ロシアの人権弁護士セルゲイ・マグニツキー氏獄死事件など人権侵害に関与したロシア人に制裁を加えることを目的に2012年に制定された「マグニツキー法」の解除にも承認が必要となるだろうが、現在の環境では実現しそうにない。
トランプ氏はまた、ロシア政策において、国家安全保障専門家のみならず、自身の政権内からも反発を受ける可能性がある。初めて国連安全保障理事会に出席したヘイリー米国連大使は、ウクライナにおけるロシアの「攻撃行為」を非難し、クリミア併合に対するロシアへの制裁を継続すると述べた。
ティラーソン国務長官は指名承認公聴会で、ロシアは米国にとって「危険」だと語り、ポンペオ中央情報局(CIA)長官も同様に公聴会で、ロシアは欧州を脅かし、イスラム国との戦いで「何もしていない」と批判した。また、マティス国防長官は「主な脅威として、まずはロシアから」検討すると語った。
トランプ大統領は、シリアでロシアに協力するよう軍にただ命令するだけでいかなる抵抗も理論的には回避可能だが、国防総省はケリー前国務長官が同様のアプローチを取った際には協力しなかった前例がある。
トランプ大統領は米ロ関係の進路を首尾よく変えられるかもしれないが、政策の変更には至らないかもしれない。
*筆者は米国際開発庁(USAID)の元プロジェクトオフィサーで、旧ソ連の経済改革プロジェクトに従事した経歴を持つ。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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